座敷牢の二人
――なんだ、この女
座敷牢にとらわれた孝久は小春を眺める。
死を目前にしても小春は凛然としていた。
孝久は前世と同じように座敷牢に髪長姫とともに囚われた。
違いは目の前に譲がいないことと、髪長姫が泣いていないことか。
壁にもたれ、狭い座敷牢を眺める。
相変わらず、色も味もない。
ただ死を待つのも癪で、小春に声をかけた。
「恨んではいないのですか」
「恨む、誰を?」
訳が分からないとばかりに小春は視線をこちらに向ける。
視界に自分が映っているはずなのに、その瞳は何も映していないように思える。
ガラス球の目だ。
「島の人間です。
あなたは東京の生まれで、この島と関わりがないはず。
なぜそんな関わりのない島のために死ねるのですか」
「それは、そっちも同じ。私以上にこの島と関わりがない」
「恨んでるに決まってるでしょう。何が好きで他人のために俺が……」
意外そうに小春は目を丸めた。
「その割に大人しい」
「無駄なことに労力を割きたくないだけです。
鍵が閉まっているうちは抵抗しても無駄ですから」
「そう」
視線を降ろせば、長い黒髪が足元に伸びている。
濡れたように艶やかな黒髪。その黒髪に手を伸ばした。
長い、とても長い黒髪。
落ち着いた頭で考えてみると昨晩の小春と秀元の会話は引っかかった。
「島に来る前に、秀元と知り合いだったのですか」
「東京で剣道を教えてもらっていた」
「……東京に行ったことがあったのか」
秀元は完全なる島の人間だと思っていた。
「体を動かすは得意だったから、剣道教室に入った。そこに秀元がいた。
……筋がいいと褒められたことがある」
「そうですか」
「その時のこと、覚えてる」
小春は机上のスケッチブックを開き、中のスケッチを見せる。
道着姿で剣道の指導をしている秀元の姿が彼女の記憶のままに描かれていた。
「淳一は剣道教室に来たことはない。
淳一が秀元にあったのは父さんに引き取られたときが最初」
「そうですか……じゃあ、あなたと秀元の関係は知らないと」
「そうだと思う。だから、淳一は秀元を嫌いだろうな。
あいつは私のことになると子供のころから見境がない」
それはよくわかっている。
姉のためなら島が滅びたところで構わないと淳一は言った。
異常なまでの姉への執着は、馬鹿馬鹿しく孝久の目に映った。
「私がいなくなったら、あいつはどうなるんだろうか。
少し気になる」
「後を追うんじゃないんですか」
「それは困る。秀元に頼んでおこう」
「ずいぶんと信頼しておられるようで」
「どういう意味?」
前世では兄妹だった二人。
だがその最期に妹は兄への恨み言をつぶやいていた。
そんな燕の感情は小春には見られない。
孝久が宗正と意識や記憶が混濁しているしているというのに、小春は何も変わらない。
燕と大きく異なり、自分を保っている。
「あなたは、燕とは違うんですね」
「燕、前もそういっていた」
「過去の髪長姫の名前です」
「そう」
何の感慨もないようだ。
返そうと床に置かれたスケッチブックに触れる。
スケッチブックに移りこんだ小春の記憶が頭に飛び込む。
「―――――!」
「どうした?」
「いえ、なんでも……」
どうやら彼女は気づいていないようだ。




