卑怯者の苦悩
俺は卑怯だ。
昔と何一つ変わっていない。
座敷牢の向こうで髪長姫が眠っている。
自らの死を受け入れているかのように穏やかな顔で。
格子越しにつないだ手は、死んでいるように冷たい。
あと数日で彼女は死ぬ。島のために、島の繁栄のために島の外で生まれた彼女が死ぬ。
もう一度髪長姫が死んでしまう。
だが、俺はそれを止められない。止めることを恐れている。
座敷牢の鍵は俺が持っている。
その気になれば彼女を座敷牢から出して逃がすこともできる。
だが、俺は卑怯者だ。臆病者だ。
生まれ育った島が滅びることを、恐れている。
島のためには儀式を行わなければならない。
島の繁栄のためにはすべてを尽くさなければならない。それが俺の役目だ。
彼女のために島を捨てるか、島のために彼女を殺すか。
何度、迷ったことだろうか。
俺は卑怯なうえに臆病で、覚悟をもてない。
ただ彼女の死を待つことしかできない。
それが島のためなのだ。
そう言い訳を続けて、選択することから逃げて、周囲の決定に流されてきた。
俺自身が何を望んでいるのか、何を一番に考えているのか。
考えても答えは見えず、何よりも犠牲を恐れ、決めかねている。
俺には覚悟がない。
どこまでも臆病で、時の流れに身を任せてすべての責から逃れる卑怯者でしかない。
「……小春」
名を呼んでも反応がない。ずっと小春は眠っている。
最近の小春は眠ることが多い。
その代わりに、小春と同じ顔をした燕が夢枕にぼんやりと現れて、恨み言を吐く。
許さない、恨んでいる、死んでしまえ、呪ってやる。
同じようなことをぶつぶつとつぶやく。
それなのに、起きている小春は何も言わない。
死を受け入れている。
島のために死ぬことを厭わない。
なぜ、そこまで自分を捨てられるのだろうか。
怖くはないのか。
なぜ、彼女が死ななくてはならないのか。
俺が殺さなくてはならないのか。
いっそのこと、起きている小春も憎んでくれた方が楽だ。
卑怯者の俺にはそれが似合いだろうから。
小春の瞼がかすかに動いた。
俺を見つめ、口元に笑みをこぼす。
「――」
俺の名前を呼ぶ。
ああ、
今日もまた、見つめる事しかできなかった。




