髪長姫は考える
――もう一度、私は死ぬんだろう
髪長姫は、座敷牢の中で考えた。
格子状に組まれた木。その向こうには暗い廊下。こちら側には長い黒髪が広がっている。
癖もなく、うねりもなく艶やかにきらめく美しい黒髪。その中心には白い顔がある。
自分の顔だ。
自分と同じ黒髪、長い艶やかな睫毛、すっきりした鼻に小ぶりの唇。自分と何一つ変わらない顔だ。
自分の顔を見下ろし、髪長姫は質量のない白い指でその髪に触れる。
眠っている自分はただ迫りくる死を受け入れて、この座敷牢の中で眠っている。
なぜだ。
なぜ生きようとしない。
なぜ死を受け入れる。
自分は死にたくないと思っているのに、なぜここで眠っている自分はすべてを受け入れてしまうのか。
なぜ、眠っている自分は自分じゃないのか。
――恨めしい
ただただ恨めしい。
目の前の自分も、
兄も、
この島も。
髪長姫は自分の顔から視線を外し、座敷牢の隅を見つめた。
――ここに、あの人がいた
まだ自分が自分として生きていたとき、愛しいあの人はその隅に座っていた。
あの人は涼しい顔で座敷牢の向こう側、廊下に座している兄を見つめていた。
何も語らず、涼しい顔で。
自分はただ泣くことしかできなかった。
泣いて、泣いて、兄も運命も島も愛する人を巻き込んでしまった自分をも呪った。
そんな自分を、あの人は温かく包み込んでくれた。
――会いたい
髪長姫は強く願う。
もう一度、あの人に会いたい。
あの人もきっと自分と同じようにもう一度生まれてきたはず。
死ぬにしても死なないにしても、会いたい。
儀式が行われる前に。
ならばどうするか。
答えは一つだ。
髪長姫は立ち上がり、座敷牢の格子をすり抜けた。