期間限定彼から・・・
ある曲を聞いてて思いついたストーリーです。
貴方からの初めて誘われたのが嬉しくて、はしゃいでいた。
今日の為に親友と新しい浴衣まで購入したのに・・・。
今、近所の川原の片隅で彼から告げられた別れの言葉。
「付き合ってみたが、やはり君を好きにはなれない。このままで居てもお互い辛いだけだ。これで、終わりにしよう。じゃあ・・・」
彼は言い捨てるように言って、私から背を向けて行ってしまった。
彼の背中を見つめ私の目には、無数の涙が溢れ頬を伝った。
横では、大輪の花が上がっていた。
彼に惹かれたのは、入学式の時。
彼は、新入生代表として壇上に上がっていた。
スピーカーを通して聞こえてくる彼の声が、とても心地よくて心に温もりをくれた。
声フェチの私だから、一瞬で落ちた。
クラスは違えど、彼が友達と廊下を通る度に目で追ってる自分が居る。
それに気付いた友人達が。
「いいの?早く告白しないと他の娘にとられちゃうよ」
「彼、女子に人気だからね」
「自分以外の娘が隣を歩いてても耐えれるの?」
何て、発破をかけてくる。
それでも、見ているだけで十分だと思った。
私が、彼と並ぶと見劣りしてしまうのがわかってたから・・・。
でもね、想像したら胸が痛くなって、切なくなって駄目元で告白することにしたの。
彼を屋上に呼び出して。
「好きです。付き合ってください」
投げなしの勇気を振り絞って言った。
暫くの沈黙の後。
「・・・うん。いいよ」
ってOKをもらえた。
まさかと思いながら、顔を上げると彼がちょっとだけ照れてるのがわかった。
本当なんだなって思って、嬉しくてその場で立ち尽くしてしまった。
休みの前日には、私から彼をお誘いするが。
「ごめん。その日は用事があって無理なんだ」
断りの返事ばかり。
ちゃんとしたデートは、一回だけ。
それでも私は彼と過ごせる時間を見つけて、傍に居た。
で、今日の花火大会のお誘いをしようと思ってたところに彼からのお誘い。
それが、別れのお誘いだなんて、誰が想像する?
楽しみな事しか浮かばないよね。
今になって気付いたんだ。
彼が、私の前では笑ってないってこと。
何時も、迷惑そうな顔しかしてなかった。
もう、どこかに消えちゃいたいよ。恥ずかしすぎるよ。
ボーと教室の窓際の席から外を眺めていた。
ふと視線を下にずらしたら、彼と知らない女の子が仲良く腕を組んで歩いて行く。とても楽しそうに・・・。
そこは、私の場所だった筈なのに・・・。
気付けば、ツーッと頬を伝う滴が・・・。私は、それを拭うこともせずに流し続けていた。
ガラッ。
教室の戸が突然開いた。
私は慌てて涙を掌で拭う。
「あれ?まだ残ってたんだ」
「う、うん。今から帰るの」
私は、涙を隠して笑顔を張り付けた。
「あのさぁ、少しだけ、時間ある?」
彼が、緊張した声で言う。
「えっ。あ、うん。大丈夫だけど?」
不思議に思いながら、彼の言葉を待った。
「俺、君の事が好き」
突然の告白に私は、言葉がでなかった。
「君が、アイツと別れたばかりなのは、知ってる。だから、お試し期間として、俺と一ヶ月だけ付き合って」
彼の顔を見れば、赤く染まっている。
そういえば、誰かが言ってたっけ。辛い恋をしたなら、新しい恋をすれば忘れられるって・・・。
「俺は、君が悲しむことはしないと誓うよ」
真剣な眼差しで言われれば、からかってるんじゃないとわかる。
「・・・うん、よろしくお願いします」
そう言って、頭を下げてた。
そして、その日から彼は私の隣に居てくれた。
休みの日は、少しでも会えないかと彼からの連絡が入る。
だから、待ち合わせをして、映画、遊園地、ショッピング、テストが近かったこともあり、図書館デートもした。
気付けば、あっという間に一ヶ月が経とうとして居た。
彼には、凄く感謝してる。
失恋の痛みを忘れさせてくれたから・・・。
「もう、一ヶ月たつんだな」
彼からの言葉に胸が、ズキッて痛んだ。
「早いもんだな」
彼が遠い目をする。
もうすぐ、彼とお別れなんだと思うと胸にポッカリと何かが抜け落ちた気がした。
一緒に歩いていた私が立ち止まったからか、彼も立ち止まり振り返る。
「どうした?」
彼が、戸惑いながら聞いてくる。
それは、そうだろう。私の頬を伝う涙が彼の目に入ったのだから。
経った一ヶ月だったのに私は、彼の優しさ、温もりに癒されてたのだ。
「あーあ。最後に泣かせちまったな。約束守れなかった」
彼が、悔しそうに言う。
私は、首を横に振る。
「ち・・・違うの・・・。私・・・私ね。あなたの事・・・好き・・・みたいなの」
そう口にしていた。
彼が、驚愕な顔をする。
涙が、どんどん溢れてきて、彼の顔が見れない。
「今、気付いたの・・・。これで、あなたとの関わりがなくなるのかって思ったら、胸にポッカリと大きな穴が空いたみたいで・・・。あなたと居た時間が私にとって、とても心地よい時間で・・・。傍に居るとほっこりとして、安心できる場所になってたんだなって・・・。思ったら、寂しくなっちゃって・・・」
エヘヘ・・・。誤魔化してみたけど・・・。
そんな私に彼は、不器用ながらも優しく涙を拭ってくれた。
「ばっかだな。君が俺の事を好きになってくれたなら、一ヶ月って期間なんて無意味だ。一緒に居るよ」
彼が、笑って言う。
「なぁ、もう一度、言わせてもらっても言いか?」
彼の言葉に小首を傾げる。
何を?
「俺は、君が好きです。俺と付き合ってください」
彼のその言葉は、真剣なもので私の涙は途切れることなくて。
「私も好きです。よろしくお願いします」
そう答えると彼は、私を抱き締めてくれた。
涙でグチャグチャな私を躊躇なく抱き締める逞しい腕。
「やっと、俺のところに落ちてくれた」
そう言って、笑ったかと思えば、私の涙をペロリと舐めた。
それがくすぐったくて、気付けば涙は完全に止まっていた。
「俺が、君の笑顔を守るよ」
って、耳元で囁かれた。




