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 砂塵が、舞う。

 荒地、荒野。風が吹き、砂塵が舞う。


「「「「――」」」」


 そしてその砂塵の中より、無数の影。

 スキンヘッドの巨漢に引き連れられてやって来たのは――戦士。

 一カ月前、彼らは戦士ではなかった。

 だが、この一週間の地獄により彼らは鍛え上げられた。

 走った。

 只管に走った。

 最初の頃は何の装備も無い状態で、一週間たてば装備を背負って、二週間たてば、三週間たてば、そして最終週に至る頃には訓練開始時では持ち上げるのがやっとだったクレイモアを背負い、彼らは走った。

 三十人居た同期の内、残ったのは僅かに七人。


 ジョン、と呼ばれるムードメーカーの少年が居た。

 ソウタ、と呼ばれる心優しい少年が居た。

 トール、と言う名の背の高い青年が居た。

 カツヨシ、と呼ばれる眼鏡をかけた中年の男が居た。

 タロウとジロウ、と言う名の双子の少年が居た。

 そして――


 唯一人、通常のメニューの倍をこなし、ここまで残ったソウジと言う名の少年が居た。


「ATTENTION!!」


 教官――スキンヘッドの咆哮にも似た号令で彼らは足を止める。

 ザッ。

 音は、一つ。足並み微塵も乱れる事無く、群体と言う形の個人は軍隊の様に動く。

 目には、力が宿っていた。


「ジョンっ! 以前、オレは貴様を何と呼んだ\ッ!」

「ハッ! 負け犬であります、教官殿っ!」

「お前はそれで良いのか、ソウタっ!」

「ハイっ! いいえ! 不服であります、教官殿ッ!」

「だったらどうする、トールッ!」

「鍛練を! 鍛練を、鍛練をッ! 気が狂いそうになるほどの鍛練をッ!」

「それを望むか、カツヨシ!」

「鍛練を! 鍛練を、鍛練をッ! この身が砕ける程の鍛練をッ!」

「お前らはマゾヒストか、タロウ! ジロウ!」

「「はい! いいえ! 違います、教官殿ッ!」」

「では――」


 一息。スキンヘッドが大きく息を吸い込み――


「貴様らはなんだ、ソウジっ!」

「戦士であります、教官殿ッ!」

「そうかっ! 貴様らは戦士であるか! 誇り高き戦士であるかッ!」

「「「我らは戦士であります教官殿っ!」」」

「嘘を吐くな、負け犬どもぉぉおおおぉぉっッ!」

「「「「はい! いいえ! 我らは戦士であります!」」」」

「ならば、何故っ! 何故、貴様らは剣を、槍を、武器を持たぬのだッ!」


 教官が、問う。答えるのは――


「心に剣が有る故!」

「心に槍が有る故!」


 咆哮。


「身体が剣である故!」

「身体が槍である故!」


 咆哮/咆哮。


「「鍛えた心こそ我らが武器であるが故!」」

「鍛えた身体こそが我らが武器であるが故!」


 咆哮/咆哮/咆哮/そして――


「宜しい。非礼を詫びようッ! これより貴様らは負け犬では無い、一人の戦士である――武器を選べ、戦士よッ!」


 歓声が、あがる。



 と、世界を揺らす程のその大音量を少し離れた場所から見ている瞳が有った。

 鉛色の、瞳だ。

 一つだけの、瞳だ。


「……ツバキお姉ちゃん、兄上、なにしてる?」


 その瞳の持ち主、タタラは飴をなめながら、自分を抱くヒトに振り向いて尋ねる。


「うん。基礎課程の卒業式――みたいなものだ。今から武器を選び、明日迷宮に入って《竜》を狩って一人前になるのだ」

「ふーん……兄上は、すごいなぁー」

「そうだな、君の兄上は凄いな」



□■□■□



「――、――」


 呼吸が、乱れる。

 身体が、重い。違う。手の中の刀が――重い。

 中段に構える事も出来ず、刃の重さに負ける様に切っ先を下げての下段。

 手が、上がらない。足が、動かない。呼吸が、出来ない。

 見えている敗北。見えない勝利への道。

 俺と彼女。片桐ソウジと暁ツバキ。此方と彼方。

 そこに横たわる実力差は圧倒的であり、埋まるとは思えない。勝てるとは思えない。だから、彼女が何を望んでいるのか、分からない。だから、今すぐにでも負けを認めてしまいたい。

 なのに――


「行くぞ、ソウジ」


 見えてしまう。

 居合。鞘内にて既に勝利を手にする変則の一手。曲芸にも近いソレを実戦レベルで扱う彼女の構えが。

 聞こえてしまう。

 きり、きりり。骨が肉が、眼が軋んで、魂が吠えて、次にどこを狙うつもりかと言う事が。

 世界が白くなる程のコンセントレート。

 世界が音が消える程のコンセントレート。


「――」


 呼吸、見えて。


「――、――」


 斬線、聞こえて。


「疾ッ!」

「ッ!」


 ただ、ただ、身体だけが遅れる。

 上がらぬ刀身。それでも上がる柄元。

 刃/眼前/爆ぜて/火花

 このまま鍔迫り合いに成ったのは、初めの数手のみ。

 ――動かし方を知らないせいで直ぐ疲れるのだ。

 と、言うのが彼女の弁であり、その結果、今は不様に下がるのみ。


「――、――」


 呼吸が、荒い。

 何度繰り返した? ――何度もだ。

 何度視た? ――何度もだ。

 ちり。首筋に痛み。ちりり。眼球に痛み。ちりちりり。針で刺された様に――脳に痛み。

 身体を下ろし、下段の位置で中段の目線を確保。

 落とせ。深く、深く、深くまで落として行け。

 研げ。感覚を。視覚を、聴覚を、嗅覚を、触角を、研ぎ澄まして行け。


「――――――」


 何か言っている。聞こえない。聞こえないから無視しよう。

 刀が重い。重いから動かさないでおこう。そう――



 ――狙うは一手。返し技だ。



 ……。

 …………。

 ………………。


「ソウジ、君に刀は勿体ない」

「……」


 一通り俺をボコボコにしたツバキさんはとても酷い事を言って来た。鬼か。


「? 確かに私は鬼種だが?」

「そうでした」


 次、やっと迷宮に潜る……よ?

 水曜に更新できるかなー。出来ると良いなぁー。

 評価、感想など頂けるとうれしーです。

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