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 前略、お袋さま、お元気ですか?

 僕は元気です。いきなり死んでしまい、大変な親不孝をしといてこんな事を言うのもアレですが、僕は元気です。

 その証拠にほら、全力疾走中です。

 都市の外周付近を全力疾走中です。

 燃え上がれ俺のコスモーって位に全力疾走です。って事はコスモは可燃物ですね。ふふ。

 後ろからヨダレ垂らした狂犬に追われながら都市の外壁を十周する。

 これが昨日、見付けた僕の仕事です。

 別の仕事だった気もするけど気のせいです。


「どうした新人どもっ! そんなに犬のモノが欲しいのか、この負け犬どもが! モノ欲しそうにお前らが腰を振って誘うからドラゴンドッグ達もその気だ! よかったな、このオスビッチどもッ! 犬の精液大好きなヘンタイ共めっ! ……何だ? その顔は? アへ顔か? ――泣きそうな顔をする暇が有るならさっさと走らんかッ!」


 昨日、僕をここに連れて来たツバキさんは何処へやら。スキンヘッドの巨漢に罵倒されながらの全力疾走は僕が人間社会で生きるに当たって捨ててしまった大切なナニか(主に殺意)を呼び起こしてくれます。

 死ねば良い。

 その毛根の様に死ねば良い。

 では、もう会う事は無いとは思いますが、健康に気を付けてお過ごしください。

草々


□■□■□


「ねぇ、俺の息子がライジングサンしてるんだけど大丈夫だよね、コレ? 変な趣味に目覚めたわけじゃないよね? スキンヘッドの親父に興奮する体質に改造されてないよね?」

「……疲れだ。疲れに決まってるだろ、ソウジ。ふふ、それよりも見ろよオレのエクスカリバー」

「やだ、ジョンの、おおきい」

「ねぇ、それよりも本当に大丈夫だよね? 俺、ホモでMって言う上級職に転職してないよね? 後半、ちょっと罵倒が心地よかったんだけど、一種のランナーズハイだよね? 大丈夫だよね? 皆もそうだよね? ね?」

「良いのかい? オレはのん(略」

「いや、それよりもさ、本当に大丈夫だよね、これ? 俺史上最高のライジングなんだけど。英語で言うならマイサン・イズ・スーパー・ライジングサンなんだけど、本当に大丈――」

「ソウジ、うるさい」「M!」「もう大丈夫だよ、素直に成っちゃえよソウジ」「ホモ!」「M!」「ホモ!」「M!」「ホモー!」

「おいぃぃィいぃ! ヤメロ馬鹿共! それにお前らのマグナムだってトルネードマグナムってるじゃないか! 俺、知ってるんだぞっ!」

「……それよりもジョンとソウタが何時の間にか居なくなってる件について」

「「「「「ッ!」」」」」」


 みたいな会話を地面に大の字に成って交わす現在の空は茜色。

 昼過ぎから始まった戦士ギルドの新人育成プランと言う名の地獄を乗り越えた結果、同期と軽い下ネタトークが出来る様になった夕方。

 異世界でも夕日は茜色だ。


「兄上、ジョンとソウタ、どこいったの?」

「……お前の知らない遠い世界だよ」


 だからそれ以上深く詮索しないで下さいタタラくん。兄上も説明出来ないので。


「われ、しってる! それは大きくなるとわかるようになる!」

「……大きくなっても分からない方が良い事だけどな」

「? 兄上はたまによくわからんことを言う……」

「はっはー。それが大人って事だぜ、べいべー……――で、どうしたタタラ?」


 石畳に全力で体温を供給するリビングデットと化した兄上に何の用ですか? あ、言っときますが兄上、暫く立ち上がれませんよ?


「ツバキお姉ちゃんがタオルあげろって。そうすれば兄上、よろこぶって! ……うれしいのか?」

「まぁ、それなりに」


 あ、タオルありがとうございます。それよりも――


「お姉ちゃんって呼ぶ様に言われたのか?」

「われ、アメもらった!」

「……」


 言われたらしい。買収されたらしい。

 一度、ツバキさんとは話会う必要があると思うのー。


「兄上、ごはんにいこう! われ、おなかへった」

「はいはい」


 にゅ。延ばされた小さな手をぎゅっと握って――


「ふぁいとー!」

「一発ッ!」


 CMの真似しながら立ち上がる。

 支給された粗い目の運動服は通気性が良く、少しの時間倒れていただけで熱暴走寸前だった身体から良い感じに熱を奪ってくれていた。

 学ランで走る羽目に成らなくてよかった。着た切りスズメに成らなくて良かった。


「……にしても、至れり尽くせりだな、戦士ギルド」


 周囲を見渡せば、俺と同じ様にぬぼーと身体を起こす同期諸君。かれらは何れも俺と同じ運動着を着込み、彼らの大半が俺と同じ様に寝床と食事の提供を受けると言う。余程、戦士ギルドの羽振りが良いのか――


「こうでもしないとヒトが集まらんのだ、カタギリ訓練兵」

「ハッ! これは教官殿! ご指導、ありがとうございましたッ!」


 突然現れたスキンヘッドに、びしっ、と敬礼。


「……何だそれは?」

「やー……何か、脊髄反射で……」


 つい。


「そうか? まぁ良い。それよりも、だ。――……何処へ行く気だ、カタギリ訓練兵」

「どこって――」

「しょくどう! われと兄上はしょくどうに行ってごはんをたべる!」

「――だ、そうです」


 今日一日、殆ど構えなかった反動か、それとも単純に腹をすかしているだけかは知らないが、どれだけ楽しみにしているかを全身で表現するタタラ。


「そうか。だが、お前の食事は無いぞ、坊主?」

「……うぇ?」


 そしてそんなタタラから一瞬で笑顔を奪う鬼教官。


「……なんで、われのごはんない?」

「ふむ。良い質問だ、坊主。働かざる者、食うべからず。我々戦士ギルドは、ギルド員、つまりは見習いであれ、貴様の兄の様な連中の世話はしてやるが――」

「……その家族のタタラには無しですか?」

「そうだ」


 固くなった声音と、鋭くなった視線。

 それらを受けて満足そうに頷く教官殿。

 それはそれは――……随分とけち臭い事で。


「――ど、どうする? われはどうしたらいい、兄上?」


 一つだけの瞳。鉛色の左目が涙を讃えていて――


「ちっ」


 思わず。否、これ見よがしに舌打ち一つ。

 冷めた身体に再び熱を入れるべく軽く解して回れ右。


「教官殿ッ!」

「どうした、カタギリ訓練兵?」

「こいつの分も俺が動きます」

「ほぅ? それはつまり――」



「もう一回走って来るって言ってんだよ、タコ!」



 ファック。中指おったて、挑発一つ。

 芽生えた反骨心だけを支えに俺の身体は黄昏の街に溶けて行ったのだった、まる。


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