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 水切りで世界が救えるか考えてみた。


「……」


 時間の無駄だと言う事が良く分った。


「兄上、どーする? めいきゅう行くか?」

「行くかボケ。水切り用の石が分かる能力と高い集中力で何が倒せるんだよ?」


 河原で水切りしてるちみっこ? 倒しても何も手に入りそうにない上に、伝説には成りそうにない。


「先ずは情報取集だ、情報収集?」

「じょうほうしゅしゅ! われ、しってる! それ、しってる! アンパンと牛乳がいるやつだ!」


 それは張り込みです、タタラくん。

 兎も角。俺を『デカ長』呼ばわりしてるタタラの事は兎も角として情報収集だ。

 こちとら武道の経験など、体育の選択で剣道やった位。その時も飛○御剣流と神谷○心流の技の練習をしてしまったので、基礎すら無し。

 スキルと祝福がまともであれば――


「やったぞ、アレス! ついに《城壁都市群》のゲートキーパーを破ったぞ! これも君の祝福のお蔭だ!」

「はっ! 当然だ! オレサマの祝福とお前の魔剣生成スキルが有れば楽勝だぜ!」


 みたいに景気の良い事も出来るんだが……――無理である。


「……と、言うか随分と早いな、お隣さん」


 明らかに日本出身では無さそうなのに何故か流暢に日本語操る金髪イケメンの双剣使いと、それを出迎える槍もって背中に羽生やしたこれまたイケメン候補なちみっこ。

 横で話を聞く限り、俺の様に今日ここの門前に放り出されたわけでは無く、ある程度前からこの街に居る様である。


「じかん、バラバラだからなー。われ、こんなだから中々えらばれなかったし……」

「凹むな、凹むな。最後じゃなかったし、俺がお前選んだだろ?」


 だから哀しそうに右目を抑えたり左足を叩かないで。いたたまれないから。


「ほれ、抱っこしてやるから行くぞ、タタラ。確かあっちに掲示板があるそうだから、そこで今の俺達でもできそうな仕事探すぞ」

「ん!」


 両手を、にゅっ、とタタラ。それを迎える様にして抱き上げ、壁一面に色々な依頼や情報が張り付けられた一角に向う。それにしても――



 スキルに魔剣生成があるって……どんな人生を送って来たのだろうか、あのイケメン。


□■□■□


 ご都合主義だと笑わば笑え。

 掲示板の依頼は日本語で書かれていた。


「……先代とかが普及したんかね」


 毎回、子神の育成人に選ばれるとか、正しく選ばれ過ぎた国JAPANである。見ろよ、あの掲示板。現代語の日本語で書かれてるんだぜ、コレ。


「……」


 便利だからいいが、一度真剣に先代は何年前に、どれ位の時代の人が送り込まれたのかを調べてみたい。まさか未来とかは無いよな?


「兄上、これにしよう! じゅうまん! じゅうまんえん!」

「円じゃなくてアイズです、タタラくん。そして、それなんて書いてあるか呼んでごらん」

「の、を、しています!」

「『新薬の検体を募集しています』だ。そう言う分けですので元の場所に戻して来て下さい」


 漢字を飛ばすな。ファンタジー世界の新薬実験とか嫌な予感しかしないから却下だ。……アレだ○○○がもう一本生えてきそう。


「お前、ひらがなは読めるんだな」

「われ、カタカナもよめるし、かける!」

「そら凄い。ほれ、クエスト依頼用の用紙と黒炭上げるから適当にそのテーブルで字の練習してて下さい」


 フンス、得意げに胸を反らすタタラ。

 そんな足の不自由な子神の頭を撫でてやりつつ、待機命令。残念だが、それなりに込み合った掲示板前に行くのにタタラはお荷物でしかないのである。


「兄上! あそこの屋台でアメ売ってる!」

「……」

「……うってる、から、買ってくれると、われうれしい」


 だめ? と上目使いに留守番代を要求してきた。

 ……何だ、この子神。


「……われ、兄上のお手伝いする」

「……」

「にんじんもたべる」

「…………」

「しーたけも、がんばるます!」

「………………」

「……だから、アメ……」



 結局。



「おっちゃん、飴一個。形? あぁ、これべっこう飴的な奴か……タタラ?」

「イヌ! そのイヌがいい!」

「あいよっ! 落とすんじゃねぇぞ、坊主!」



 結局、飴を買い与える俺は甘いのかもしれない。……買ったのが飴だけに。


「兄上、つまらんぞ?」

「……――あ、これ美味い」

「にゃぁーっ! われのアメが兄上にくわれたっ!」


 飴を受け取る前にレジスタンス行動とはやるじゃないか、タタラくん?


□■□■□


「……中々良いのが無い……」


 飴を握りしめて、ふしゃー! と威嚇してくるタタラを席に残し、掲示板前のヒト混み掻き分けやって来ました最前線。

 そこで色々なクエストを見るのだが……良いのが無い。

 街の中で終わる様な簡単なモノは簡単なモノなので依頼料は子供のお小遣い程度。

 倉庫整理や土木工事系統に行けばそれなりの収入になりそうだが……


「託児所が無いのがなぁー……」


 世の働くお母さんが騒ぐわけである。タタラを放置するのは心配でしかない。

 あぁ、子供を持つと分かる託児所の有り難さよ。……何で齢十六にしてこんなん悟らなアカンのでしょうか?

 行き成り迷宮に潜ってどうにか成る様なポテンシャルは無いので、せめて装備を整えるまでは簡単なクエストをこなして行きたいのだが、そう上手く行かないのが世間様。

 そんなもんは無かった。


「しかも迷宮に潜るのに何の役にも立たないってのがな……」


 思わず零れる愚痴一つ。

 害獣駆除とかで『殺す覚悟』とやらを養う事も出来ないし、荷物持ち的な感じでダンジョンに入れないか? とも思ったが、そんな募集も無し。日雇いの土木工事でマッスルに成るのが唯一先に続いていそうだが……


「失礼。君、君は迷宮に行く気なのか?」


 凛、とした声音。

 そちらに視線を向ければ紅椿の艶やかな着物を軽く肩にかけて腰に刀を佩いた女性。

 黒絹の様な髪を一纏めにしあ和風美人さん……額に角があるから……確か、鬼種か。うん。俺より少し年上だろう鬼種のお姉さんが居た。


「……えぇ、まぁ弟食わせる為にも迷宮に行く気でいますね」


 軽く警戒しながらも『その通りです』と首肯。


「では、好都合だ! 見た所、君はどこのギルドにも入っていないよな? そうだよな?」

「ちょ、ま、近い! お姉さん! 近い!」


 止めて! ぐいぐい来ないで! そんなに近付かれると恋に落ちちゃう!


「あ、こ、これは失礼した。……それで?」


 上目使いで、ちら。少し身長が低いお姉さんが自分の失態に軽く頬を染めながらそんな動作をするのをどう思いますか? 最高です! そうですね! と、自己完結してみたり。


「そうですね、何処にも所属していませんが……」

「だったら戦士ギルドはどうだろうか! 只今研修生を募集中だ! わ、私の名前は(あかつき)ツバキ、戦士ギルド所属のサムライで……その、新人の教育係に最近付いた者で……ノルマが……」

「……」


 おっとーぅ。最後に哀愁漂う三文字がありましたよー?


「ッ! だ、だが聞いて欲しい! 研修期間中も少しだが報酬は出るし、更には住む所も提供出来る! 更には迷宮に行く為の力が付く! 君にとっては悪い話では無いだろう?」

「えぇ、まぁ……」


 歯切れの悪い返事をもにょもにょ。

 逆に良い話過ぎて警戒しちゃう。美人局って言葉が過っちゃう。


「……そっちに何かメリットは有るんですか?」

「そっち……ギルドの……と言う事かな?」

「えぇ。すんません田舎から出て来たばっかなんでその辺、知らねーんです」

「あぁ、そう言う事か。だったら簡単な説明を――」



「……ふむ」


 軽く顎に手を当て、考えを纏める。

 ギルドがヒトを囲う理由は実に分り易く、言ってしまえば労働力の確保だった。

 商品として戦闘技術やサバイバル技術と言ったモノを提供するギルドにギルドメンバーが差し出すのは、迷宮から取れる成果物。

 迷宮管理組合に売らずに、ギルドで売れと言うモノ。

 そうして得た素材をギルドお抱えの職人が加工して販売しているらしい。会社みたい。


「組合に怒られないんですか?」


 と、聞いてみた所。


「あぁ、毎月、規模に応じた組合費を払うから問題無い」


 とのこと。

 余談だが、ギルドに属さない野良の方々は個人でこれをはらうらしい。で、その額はその月に組合が買い取ったモノから決められる。税金か。

 ツバキさんの話を信じるならば、俺に関するデメリットは無い。そして、住む場所――と言うほど上等なモノではないが寝床と食事、そして給料と技能が付いてくる……と。


「……」


 渡りに船と言わんばかりの展開に軽く身構えたくなるが……育ててるのが神様だ。これ位のご都合主義くらいは朝飯前だと処理して――


「えーと……入らせて貰っても良いですか?」

「うむ! そうか! 入ってくれるか!」

「――」


 止めて。本当に止めて。嬉しいのは分かるけど、手を握らないで。告白しちゃうからっ!

 まぁ、ともあれ。これにて片桐ソウジ、戦士ギルドに入――



「――と、今更だがエーテル属性は大丈夫だよな?」

「? エーテル?」

 良く分らんが――

「大丈夫です……よ?」

 多分。

「では宜しく頼む、ソウジ!」



 戦士ギルドに入った。


 感想など頂ければー。

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