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速さとは筋肉量である。
小さければ速いと言うのは空想であり、速さにも、強さにも必要とされるのは筋肉を多量に搭載するための体格だ。
大きさとは、強さである。
故に小鬼の王は体格で劣る為、俺に対して不利でーー
は、無い。
軋むのは骨か、肉か、それとも固く握りしめた木製の柄か。
最弱とされる小鬼の王は俺の視界の中でその姿を霞ませていた。
端的に言って、ただ、ただ、速かった。
小柄だ。それは間違いない。
だが、この世界は空想を許容する。
肉を必要としない速さ。
エーテルと言う神秘は小さな王を世界の頂きにと至らせる。
ちり。首が鳴いた。ちりり。黄色の竜眼は見るではなく見てくる。
俺の、首を。
ーー断つ。
言外に告げられるその意識。
時計の針が動く幻聴を聞きながら引き金に掛かる指だけが俺の中の殺意を謳っていた。
ーー撃つ。
端的単純なその意識。
何の事はない。
彼方も此方もやることは同じだ。
殺意でもって相手に接する。
奴は侵入者である俺が許せないから。
俺はーー先の一撃のお礼だ。
俺の怪我はタタラに伝播する。俺はさっき奴の一太刀で傷を負った。つまりタタラも傷を負った。負わされた。
ならば。そう、それならばーー
俺が殺意を抱くには十二分だ。
見る。観る。視る。
見て、観測して、凝視する。
俺は理解しているし、小鬼の王も理解している。
この戦闘はーー一手で決まる。
速度に特化した王と、一撃の威力に特化したガンナー。
互いの一撃が命に至る以上、回る手番は初手のみだ。
撃って殺すか/切って殺すか
故に、視界で揺れる。小鬼の王が。その姿が。
ステップ。軽く軽く、勇ましく。
王は、跳ねる。
その姿を俺は捉えることが出来ず。その命を俺は撃ち抜くことができない。
ーー熊を一撃で殺す男でも蜂の群れには叶わない。
どこかの少年誌で女王様が言った一つの心理。
速さは力を駆逐する。
負ける。追えない俺は、力は、視界で踊る小鬼の王に、速さに負ける。
確定したその結果。緩やかに収束していく敗北者の未来。
それを見て、観て、視て。
ーーかちり、と時計の針が進む音を聞いた。
一歩。踏み込み。視界の端。砂塵。舞う。音が届くよりも先に音を聴く。殺気が見える。うけけ。王の口角殺意に曲がる。来る。そう思う。来る。そう確信する。
ーー本命。
小鬼の王の手番。
視界より姿が消える。風切り音だけが耳に残る。
首筋に、刃が、当たって、めり込んで、通り抜けて、首、ゴロンと、転がって。
俺は。
俺の首は。
ーー割れたアスファルトの上に転がった。
ま た せ た なッ!! ←ドヤ顔中なので、「待ってない」とか言ってはいけない。