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十七年。それだけ生きていれば自分に特別な才能が無い事は誰だって理解できる。
老害政治屋とかが『たったそれだけの人生でそんな事を言うから今の若いもんは駄目なんだ!』と叫ぶかもしれないが、だとしたら『昔の若者はドリーマー過ぎますね? お薬キメてんですか?』と言うのが俺の意見だ。
プロ野球選手には成れない。ノーベル賞も取れない。異世界転生とかされても神様から何か貰わないと生きてもいけません。
そんなもんである。
が、現実、プロ野球選手は居るし、ノーベル賞の授賞者は居る。あと、偶に納得できるチートなしの無双系主人公も居る。
つまり、世界にはちゃんと才能を持った者がいる。
ただ、自分がそうで無いと言うだけ。自分が普通のヒトだと言うだけ。
ゆりあ。
生まれてから死ぬまでの殆どをベッドの上で過ごし、この世界で健康な体を手に入れた彼女は紛れも無く天才だった。
体力は少ない。運動能力も低い。それでも、自分の体の使い方が――極めて巧い。
見せられ、魅せられたのは銃の絶技。一瞬三発の弾丸たたき出すスポット・バースト・ショット用いてもまさかのワンホールショット。
それをなした彼女は硝煙の中で――
「――ここまで来れるかな、サニーボーイ?」
ドヤァ、ってした。
凄くむかついた。
そんなわけで――
荒廃都市ウェスト・シティ
砂の世界に、再度立った。
□■□■□
そこは過って道路だった。
線路と交差する道路だった。
アスファルトの名残にセンターラインの名残。跨ぐ様に交差する線路と道路。その線路側、即ち高所から見下ろす眼下、そこには――都合、十匹からなる子鬼の群れ。
レザーコートに手のひらこすりつけ、汗をぬぐい、テンガロンハットをかぶり直し、舌なめずり。
――獲物を前に舌なめずり、まるで三流だな。
そこぞの軍曹の有難いお言葉思い出しながら、カウントは三から初めて二、一で零。
心中で弾き出した合図と共に砂の世界に横たえていた身体を一気に稼働状態に叩き上げ、踏み足一つに蹴り足一つ。
鼻の敏感な子鬼を誤魔化す為に陣取った高所より、最後尾の子鬼が通過すると同時に為すダイビング。膝で、腰で、身体で、衝撃を逃がし、着地と同時に行ったのは一蹴り、一踏み。最後尾の哀れな子鬼を踏み付け、踏み倒し、その頭向けて引き金を引く。
吐き出された球状の殺意は適当な狙いでもその用途をなし、頭を砕く。竜眼が潰れて売り物に成らなくなった。クソッ。次からは胸を撃とう。
そんな事を考えながら、嗤う。嗤って、引き金を引く。
吐き出された弾丸が手前の二匹を食いちぎる。
得物は変わらず――ショットガン。
ただし以前使っていた単発式では無く、我が故郷で言う所のライオットショットガン。暴徒鎮圧用に用いられる五発の弾丸飲み込む少し大食いなお嬢様、『シャーリー』。
俺の強みは弾丸生成速度。
俺の弱みは弾丸の威力。
高速生成の特化型。故に数は作れても一発一発は弱くなってしまう。で、あるなら通常の兵装には端からクイックドロウによる威力の向上をベースに置いて、常に極限を要求するのではなく、数で補う。その答えがシャーリー。抜き撃ち用ではないが装弾数が多いショットガンの使用。
切り札であるシングルアクションのリボルバー『アイリーン』をホルスターに納め、刻印の増えた左腕と、三つ目牛の革で作ったコートとテンガロンハットを纏った今の姿こそが、新生片桐ソウジ。俗に言う新しい自分と言う奴である。京都あたりで一人旅すると見つかる。そうだ、京都行こう。嘘です。
「――っと、言ってる場合じゃねーですね」
キィキィキィ。耳障りな金属音の様な叫び声。見ればテンションアゲアゲなKO―ONI7の皆様がた。紅白の抽選にでも漏れてしまったのか、俺の中では今一押しのアイドルユニットは随分と殺気立っていらっしゃった。
もしかしたら俺が三名程強制脱退させたせいかもしれない。
だが敏腕プロデューサーである俺はその辺、きちんと考えている。仲間が死んじゃってもう会えないなら――
みんな死ぬしかないじゃない!
マスケット使いの偉大な魔法少女にありったけの敬意を注ぎつつ、セリフをパクリ、一発。踏み出そうとした戦闘の子鬼の足元を爆ぜさせ、出足を止める。
シャーリー。彼女は大食いだ。だが、そんな彼女でもこの数の子鬼の相手は務まらない。
だから、威嚇する。それで動きを止める。長く伸びていた子鬼の列を詰める。そして――
ひゅ。
軽く、軽く、柔らかく、スナップを聞かせて左手に握り込んだ石を投げる。
表面でヒカル刻印。地面に落ちる石。そして、火を噴く地面。
穴を掘り、指向性を与えておいた下から上に吹き上げるクレイモア地雷の様なトラップ。新たに刻んだ《クレイモア》の刻印はいい感じに初仕事をこなしてくれた。
今回のあらすじ。
今後、この装備で戦います。




