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18


「おい、テメェ! 全然懲りてねぇみてぇだな!」


 赤い髪の無駄に場所取るガタイのヤンキーが声を荒げていた。


「……貴女も大概ですね……また悪事とは……」


 薄い青髪のメガネ君が呆れた様に溜め息を吐き出した。

 そして、そして――


「キミ、大丈夫か? 小鳥遊さ――……彼女に何かされなかったかい?」


 金髪、イケメン。背中に煌びやかに輝く大剣。


「……もしかしてソレは聖剣ですか?」

「? うん、そうだけど?」

「……」


 ひびのんとキャラが被っているのが居た。


「ちっ! だから言ったんだ痛い目に合わせちまわねーとわかんねーんだよ!」

「キミは野蛮だな、エンジ。……だが、僕も同意見だ。ゆりあは優しいが、優しすぎますからね……」

「そう言うなよ、ヒョウヤ。その為にオレ達が居るんだろ?」


 イケメン信号機は何やら話し合い、勝手に『その通りだ』と頷き合っている。


「兄上、あれなに?」

「しっ! 指差しちゃだめよ、たーくん」


 マジで。

 あんな自分達に世界に入り込みっぱなヤバい宗教にはまってそうな連中とは関わってはいけません。


「……で、行き成り悪人呼ばわりされてる小鳥遊さん、アレ何?」


 が、向こうさんから何やら絡んで来た以上、そう言う分けにも行かず、対応しなければ行けないのが現実。その現実に向き合わなければ成らないのが大人。大人=俺。


「……何でかやたら私に絡んでくるのよ」

「はい、モテ女発言いただきましたー」


 うぇーい。


「私、アンタの名前も知らないけどアンタを殴るくらいなら楽勝よ?」

「俺の名前は片桐ソウジ。通りすがりの非暴力主義者です。暴力、ダメ絶対」

「はいっ! われの名前はタタラです! アメが好きです! でもからあげのが好きです!」


 鋭いジャブで空気を叫ばせるお嬢様に降参示す様に万歳一つに、自己紹介一つ。……そしてソレはやっぱり晩御飯のリクエストですか、タタラくん?


「『何でか絡まれる』だぁ~? おいおい、ふざけんなよ! テメェがゆりあにしたみてぇに悪さしようとしてるからだろうがよ!」


 赤いの、きしゃー。おらー。


「……被告人、答弁」

「濡れ衣よ」

「らしいですよ?」


 アホの相手は疲れるわ――と溜め息吐き出す小鳥遊さんかっけー。


「ふざけんなよ! おい、兄ちゃん! 俺達が来た以上、もう大丈夫だ! コイツのせいで困ってる事を言ってやれよ! 何か騙し盗られたりしたんだろ!」

「はい! われわかる! おっちゃん、われわかるよ! お姉ちゃんがきてこまったこと!」


 怒鳴り飛ばす赤いのに、元気良くタタラが応じる。

 その言葉に、少し傷ついた様な小鳥遊さん。

 その言葉に、『ほら見ろ』とドヤ顔の信号機。

 そしてその言葉に、思わずにやにやしてしまう俺。


「エンジがおっちゃん……ふふ。……失礼。それで、困ったこととは何かな?」


 信号機の青が優しく、それでも小鳥遊さんへの侮蔑を視線に込めてタタラに問いかける。


「タタラくんのこたえー」


 平教育委員会のトーンで言ってみたり。


「はい! へんなさんにんにからまれました!」

「はい、正解」


 万歳して叫ぶタタラを良い子良い子。


「つーわけで失せろや信号機。行き成り人様悪人呼ばわりして怒鳴り散らすテメェ等はうぜぇのでございますよ?」

「「「――」」」


 そして絶句する三人に手をふりふり、あっち行け。

 これでこの三人組の言う事が正しかったら、小鳥遊さんが悪人だったら俺はいい笑いものだ。ただのバカだ。だが。だが、それでも――

 さっき、タタラと話している小鳥遊さんを俺は見ている。

 不器用なやさしさを見せていた彼女を知っている。

 アレが演技だと言うのなら、騙されても仕方が無い。


「――上等だよ、テメェ」

「アレ? 暴力ですかー? 行き成り胸倉掴んで暴力ですよね? おいおい勘弁しろよー美少女に騙されるなら兎も角、野郎に殴られるのはちょっと遠慮したいんですがー」


 うけけー。

 笑って、煽りながら、脱力。

 掴まれた胸倉に体重預けて、だれーん。不敵に笑いながら右手をぶらつかせるのはガンホルダー付近。

 何時でも、抜ける。何時でも、撃てる。何時で銃を抜き、突き付け、威嚇できる。

 気が付くヒトは気が付く。気が付かない奴は気が付かない。そんな一触即発の空気。破ったのは――


「みんな、やめて!」


 女の。少女の声。


「「「ゆりあ!」」」


 それを聞いた信号機三人は一斉に声の主の元に集合。


「――はぁ」


 そして小鳥遊さんが何故かの溜め息。


「どうしました?」

「……別に。ただ、これで片桐の店も使えないんだと思うとね……」

「? なんで? われ、また来てほしいよ?」

「タタラの言う通り、またのお越しをお待ちしておりますが?」


 そして何故か諦めの言葉を吐き出して来たので、タタラと一緒に小首を傾げてみたり。

 何だ? 俺があの信号機の言葉を真に受けるとでも思っているのだろうか?


「みんな、やめて! コトリちゃんは何も悪くなよ!」

「けどよ、ゆりあはアイツに怪我させられたじゃねーか!」

「そうですよ。ナイフでいきなり斬り付けておいて知らないなどと、あの女……」

「それなのにゆりあは、あの女を庇って……」

「そ、それは……きっとわたしが悪いんだよ……わたしがコトリちゃんの気に入らないことをしたから……」

「ッ! そんなことねぇ! ゆりあは絶対悪くねぇ!」

「貴女は優しすぎます、ゆりあ」

「大丈夫、もうそんな事は起こらない。……俺が、守るから」

「――みんなっ」


 わきわき。あいあい。


「兄上、兄上?」

「んぁ? 何ですか、タタラくん?」

「あれはなに?」

「……小芝居だよ」


 それもとびっきり中身が薄い奴。


「ふーん……おひねりはどこに入れる?」

「お金が勿体無いから入れなくて良いのです」


 言いながら身体を起して『よっこらしょ』。

 売りもんなくなったし、突如始まった小芝居は詰まらないので、さっさと帰ろう。

 そんな分けで、片付けを始めようとした俺に――


「あ、あのっ!」


 掛けられる、声。


「お店の邪魔をしちゃってごめんなさい」


 それは女の声。先程からゆりあと呼ばれている少女の声。


「あーあー。良いです、良いです。お気になさらずにー」


 その声に適当に言葉を返し、振り返ると――


「そう、ですか……良かった」

「――!」


 彼女の、笑顔が飛び込んで来た。

 それは、華の様な笑顔だった。

 それは、優しげな笑顔だった。

 それは、儚げな笑顔だった。

 俺の言葉に安堵の笑みを浮かべる天使の様な少女。

 桜色の唇は可憐に、靡く金髪は神秘的に。ローブを纏う彼女は微笑んでいた。

 美しい彼女。

 可憐な彼女。

 可愛く、愛しい――ゆりあ。

 そんな彼女の手には包帯。先程話題に上がっていた傷とはあの事だろうか? 大した事が無さそうな傷に見えるが、俺には分かる。あの傷はきっと、かなり深い。その痛みにゆりあは耐えているにだ。俺に心配させない為に。ゆりあを傷つけた小鳥遊さ――屑女を庇う為に。酷い話だ。だが、尊い話だ。ゆりあは優しい。凄く優しい。可愛い。そんな彼女の優しさに付け入って悪事を働きのうのうと生きている恥知らずから、いや、あらゆる脅威から彼女を守るのが俺の使命。生まれて来た意味だ。


 そう、俺はゆりあを守る為に産まれて来た。


 まずは屑の掃除だ。タタラからインゴットを安く買い叩いた奴を――


 あれ?


 待て。今。何か。引っ掛かった。

 何だ? 何でも無い。いや、そんな事は無い。考えろ。考えろ。考えろ。取っ掛かりを手掛かりに、考えろ。考えろ。集中して考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えて考えて考えて――考えた。


「――あ、」


 買い叩かれていない。

 値段を教えてくれたのは小鳥遊さんだ。

 じゃ、何で俺は買い叩かれてると感じた?

 ゆりあを小鳥遊さんが傷つけたからだ。傷? あの巻いただけの包帯の事か? 見下すように笑――天使の様に笑うゆりあを傷付けたんだから屑女は屑――……


 違う。


「――っ、ぅ」


 違わない。いや。違う。

 頭が痛い。それでも考えろ。おかしい。何かがおかしい。天使の様なゆりあが目の前いるのに頭が痛い。割れる。裂ける。痛い、痛い、痛い。


「―――……」


 思考にモヤが掛かる。視界にモヤがかかる。

 それでも、考える事を止めない。考える。おかしい。何かがおかしい。何もおかしくない。ゆりあ。きみを。守る為に。俺は――


「……ッ!」


 ここ。引っ掛かり。

 思考する。そこを起点に。掘り下げる。そこを起点に。崩せ。崩せ、崩せ。違和感を、偽りを、虚構を。集中しろ。集中しろ。集中、しろッ!

 手。右手。彷徨って、グリップ握って、抜く。


「――」

「……え?」


 固まる表情。嗤う女。

 有り得ないモノをみた。――そんな表情を浮かべるゆりあという女。

 彼女に見せつける様に。右足。太腿。そこに、銃口当てがい――


「兄上?」

「ごめん、タタラ。ちょっと我慢してくれ」

「――うん。よくわからんけど、われ、がんばるからだいじょうぶ!」


 引き金を、引く。


「「―――――――――――!」


 轟音/激痛/無音


 轟音が響き、激痛が奔り、無音を吐き出す。

 硝煙を燻らす銃口、激痛が奔る太腿、涙で滲む視界、そして――クリアになる思考。


「……タ、タラ?」

「――」


 俺の痛みを共有し、ぷるぷる震えて痛み耐えるタタラ。

 それでも『大丈夫だ』とサムズアップして見せる強い子。

 そんな相棒の態度に背中を押され――


「……おい」


 込めるは殺気。張るは怒気。


「テメェ、俺に――何をした?」


 嗤う女を睨み付けた。


 感想など頂ければー。

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