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 さて。

 何はともあれ異世界だ。ザ○ルは出ないが、異世界だ。……次は赤い辞書が手に入った時に試してみよう。


「さて、えー……我々はこれより、眼前の街に入ろうと思います。何か質問はありますか、子神(こがみ)?」

「はい! われの名前はタタラです、兄上!」


 しゅびっ。元気よくお手々を上げる子神改めタタラ。


「では、タタラ君、何か質問はありますか? あ、因みに兄上の名前は片桐ソウジです。気軽に『素晴らしく気高いベスト兄上、ソウジ様』と呼ぶ様に」

「ありませんっ! すけべソウジ様っ!」

「略すなよっ!」


 兎も角。思ったよりもも国語力が高いタタラの事は兎も角。異世界と言う治安が良いか悪いかも不明な世界での野宿はマジ勘弁なので、中世ヨーロッパと言う言葉が浮かびそうな石畳の上を、足の不自由なタタラをひっぱりながらテコてこテコ。

 魔物か人かは知らないが、明らかに外敵が居る事を示す無駄に頑強な門の前に出来ている行列に並んで欠伸を一つ。

 並んでいる人を眺めて見れば現代日本では有り得ない様な髪色をした人に混じり、人間では無い事がはっきりと分かる背中に羽持った人や、額に角持った人、更には全身鱗に覆われた爬虫類っぽい人まで居た。


「……」


 この分ならネコミミメイドに期待しても良さそうだ。良さそうだッ!


「? どうした、兄上、ブツブツ言って? よだれでてるぞ」

「……何でも無い。何でも無いぞ、タタラくん」


 兄上はネコミミメイドに興味何か無い。

 だからエロい妄想もしてない。その証拠に妄想の中のメイドさんはちゃんと服を着ている。ただしパンツは穿いてない。


「すけべソウジ様っ!」

「え? 何? 読心術? 神的な神秘ですか? おい、こら止めろよ。俺のプライバシー返せよ」


 あと、違うから。きっと健康法だから。ノーパン健康法だから。エロくないから。……と、言い訳してみたり。

 それにしても――


「異世界だなー」


 一つだけの瞳をじとーとするタタラから視線を切り、前に並んだ人、と言うか人(?)を眺める。

 一言で言うのなら、リザードマン。その頭に、或いは身体に体毛は無く、代わりに無数の鱗が身体を覆う蜥蜴の様な人。或いは人の大きさの蜥蜴。とらクエ、タイガークエストとかだと曲刀と盾を持ったモンスターとして描かれる様な異形だが、前に並んだ彼は何だかとってもウェスタン。テンガロンハットとレザーのジャケットを身に着け、ヒップホルスターには拳銃。

 日本では完全に銃刀法違反だが、周りの人は特に気にした様子も無い。

 一瞬、『銃と魔法のファンタジー』と言う言葉が浮かぶが、更に視線を遠くに向ければフルプレートアーマーを纏ってクレイモアを背負う騎士っぽい方も居るので『剣と銃と魔法のファンタジー』に修正。魔法は見てないが、子神が居るんだからきっと魔法も存在する。してくれないと困る。


「? ガララに何か用か、見慣れない服のヒト?」


 と、余りにガン視し過ぎたせいか、視線の先には爬虫類の眼。俺の視線に気が付いたリザードマンのガンマンが振り返り、彼の言う所の見慣れない服、学生服姿の俺を見ていた。


「えー……あー……」


 そんなリザードマンのガンマン、略してリザードガンの質問に視線をふわふわふわりと右から左へ。良い人(?)っぽいのだが、見慣れなさ過ぎて挙動が不審に成ってしまう。生憎と俺の低い対人スキルでは初対面で話す事が出来るのはコンビニ店員位、あと三レベル位上がらないと初対面のい蜥蜴人間とは話せない。


「おっちゃん、われ、しっぽさわってもいい?」

「……え、何? お前、勇者か何か?」


 タタラの高過ぎる対人スキルに思わず戦慄が走る。こう言う人間だけが無断で人の家のタンスを漁れるのだろう。


「ふむ? ガララの尻尾を触りたいのか、小さいヒト。別にガララは構わないぞ。だがガララはおっちゃんじゃない」

「そして何? アンタは聖人か何かですか?」


 失礼極まりない申し出をするタタラに、苦笑い――多分、苦笑いを浮かべながらしっぽを向けるリザードガン。こう言う人が募金とかしてくれるんだろう。良い人だ。

 と、ここまで話して、俺の対人スキルにブースト補正。会話の糸口を掴んだ事により、一時的に跳ね上がった対人スキルのお蔭で初対面の蜥蜴人間との会話が可能に成った(ゲーム脳)。


「や、すんません。何分、俺達の田舎にはお兄さんの様な人は居なかったので……こら、タタラ、初対面の人に失礼だろ!」


 めっ、と叱って見たり。


「ガララの様なヒト? ふむ、見慣れない服のヒトは鱗種(りんしゅ)を見るのは初めてなのか?」

「鱗種?」


 思わず小首を傾げて『?』を一つ。


「ふむ。見慣れない服のヒトは随分と田舎者なんだな……」


 俺の全身から湧き出るそんなオーラに気が付いたのか、前に続く列を眺めて、何かを考える様な様子のリザードガン、と、言うか、恐らくはガララさん。


「良ければガララが街の事を教えてあげようか?」


 そんなガララさんの言葉に、俺は一も二も無く頭を下げたのだった。


□■□■□


 何とびっくりガララさん改め、俺とガララは同じ年だった。蜥蜴人間の年齢は分かりにくい。


 で、そんなガララ曰く、人――では無く、ヒトには種類があるらしい。


 俺の様な――俺にとっては普通の人間は人間種と言うらしい。個としてはあまり強くないが、数が最も多いと言うのがこの種の特徴だと言っていた。ゴブリンか。


 そしてガララの様なヒトは鱗種と言うらしい。鱗に覆われたその身体は頑強であり、準戦闘種族と称される種らしい。他の種が人間種+特徴、見たいな感じなのに対し、人間種から最も掛け離れた外見をしており、ガララは蜥蜴っぽいが、大抵は魚っぽい――つまりは種の中で更に分かれているとの事だ。話を聞く限り、白人黒人黄色人種と言う区分よりはゴールデンレトリバーとチワワの様な区分が近いように感じた。


 そして人間種に羽が生えたのを翼種(よくしゅ)。タトゥーの様な呪印と呼ばれるモノを身体に這わせ、獣の姿を取る事が出来るヒトを獣種(じゅうしゅ)。角を持った戦闘種族を鬼種(きしゅ)と言うらしい。

 この三種に関しては俺にもガララにもあまり関係ないので、凄くあっさり流された。


 で、最後に鉛色の瞳と鉛色の髪を持ち、体内に鉱脈と言う器官を持つ非常に死に難い戦闘種族を鋼種と言うらしい。つまりは――


「……お前、人間じゃなかったんだな……」

「われ、かみっ!」


 俺の視線の先で元気に、いぇあ、と鉛色の瞳と髪を持つタタラ。

 そうだった。コイツはヒトですら無かった。


「ガララは感動したぞ、ソウジ。両親の死をきっかけにと言うのは少し哀しいが、それでも全くヒトの居ない山奥の家から弟との生活の為に街に来る決断をするとは……全くヒトとの接触が無い状態で育ったソウジは色々と困ると思うが、その時はガララに相談して欲しい。ザー・スーの一族の名においてガララはソウジの力に成ろう」

「えー……あ、ありがとうっ、ガララ!」


 ヒトの人情に目頭が熱くなり、同時に罪悪感で胸が締め付けられる。

 取り敢えず自分達の説明をする際、凄く嘘くさいが『家族しか住んでいない山奥の家から両親の死をきっかけに出て来た兄弟』と言う事にした。

 そんな嘘くさい説明だが、ガララは納得してくれた。してしまった。……ヒトを簡単に信じすぎるガララの方が世間知らずだと思うのー。


「む? どうやらガララの番の様だ。先に行っているぞ、ソウジ」

「おー。悪いけどもう少し付き合ってくれな」


 そして、そんな善人の善意に付け込んで更に色々教えて貰おうとしてる俺は何なんだろうね? はは、やだな。泣けてきた。


「兄上、じゅんばんがきたぞ」


 と、涙が零れない様に少しだけ上を向いている間にガララの手続きが終了したらしく服の裾をくいくいと引っ張られる。


「ん。そんじゃ行くか、タタラ――っと、すいません、二人、関係は兄弟です。中に入りたいんですが」

「ようこそ迷宮都市グラスへ、入管手続きだな? 手数料は五千アイズだ。身分証明書を見せてくれ」


 足の不自由なタタラに手を貸してやりながら歩いて行った先、鎧を纏い羽ペンを手にした門番さんに話しかければそんなセリフ。


「……」

「……」

「…………どうした?」

「…………ちょっとタイム」


 聞いた瞬間、固まった。

 ……ちょっと、待て。


「(タタラくん、タタラくん)」

「(? なんだ、兄上? ひみつのおはなしか?)」


 その場でしゃがみ、タタラの耳元でぼそぼそぼそ。

 今更ながら俺はとても重要な事に気が付いてしまったかもしれない。


「(お前、この世界の金持ってるか?)」

「(われ、もってないよ)」

「(身分証明書は?)」

「(みぶ……みぶんしょうしょう? ……われ、しらん)」

「……」


 因みに俺も女神からその辺は貰ってない。

 やだー。難易度がハードモードなんですけどー。


「どうした、おい?」


 思わず頭を抱えて『マイガッ!』とやってる俺に門番さん。


「えー……あー……や―……実は手持ちが……ですね……あのー……」


 そんな門番さんにかいちゃいけない種類の汗をダラダラしながらなんとか言葉を絞り出す。


「? あぁ、手持ちが無いのか? だったら身分証明書を出してくれ。借金と言う形には成るが手数料の後払いも可能だ」

「身分証明書もー……です……ねー……」

「……どれだけ田舎から来たんだ。出身地はどこだ?」

「地球――で良いのか、この場合?」「しんかいっ!」


 やっと来た応えられる質問に脊髄反射で回答する俺とタタラ。


「チキュウにシンカイ? 聞いた事の無い――と、言うか兄弟だと言う割には種も違うし――おい、そこの男、少し話を聞かせろ」


 ぎり、威圧の眼。

 答えられない質問の数の多さに加え、兄弟で出身地が違うと言う不審点。積み重なったそれらに露骨に語気が強くなる門番さん。

 彼が羽ペンを下ろし、腰の剣に手をかけながら近づいてくる。

 一歩、二歩、三歩。

 縮まる距離。

 四歩、五歩、六歩。

 近付くにつれて噴き出す汗。回る思考。それらがピークに達した瞬間――


「っ! お、おい! どうしたっ!」

「兄上!」


 門番さんとタタラの驚愕の声が響く中、膝から崩れ堕ちる様にして五体を石畳に叩き付ける。

 集まる、周囲の視線。

 集まる、周囲の耳。

 そして――決まる覚悟。


 ――これしか、これしか、無いッ!


「……タ、タラ」


 掠れた声を出しながらタタラにゆっくりと手を伸ばす。

 そう、まるで死に掛けの男の様に。

 大丈夫だ。俺、演劇部。大道具しかやってないけど、演劇部! ……の友達が中学時代に居た。

 そうだガラスの仮面を被るのだ。

 嘘、アレがソウジ? 知らない、私、あんな子、知らない! ……って位の演技力を見せてやる。


「すまない、タタラ。俺が盗賊に有り金と身分証明書を盗られたばかりに……ッ!」

「兄上! ど、どうしたのだ?」

「ふ、ふふ……俺はもう駄目だ。此処までは来れたが、盗賊にやられた傷が……」

「っ! そんな、兄上! きずはあさいからっ!」

「折角、シンカイからここまで来たのにな……お前にも何時か見せてやりたかったよ、俺の生まれ故郷の……チキュウを……」

「い、いっしょにいこう! 兄上! ちきゅうにいっしょにいこう!」


 ……え? 何、タタラくん、君、演劇の神? 何、その演技力? 知らない、私、あんな子、知らない!(劇画)


「あァー……そう、だな……ぐふ。も、門番さん、頼みが、あるんだ……コイツを街に入れてやってくれませんか? 中に行けば……親戚が……」

「おい、こら。お前さっきまで元気だったよな? 何で行き成り死に掛けてるんだ?」

「い、いやだ! われは、兄上と一緒にいるっ!」

「だめだ、タタラ。……お前は、生きろっ!」

「いやだ! 兄上もいっしょだ! いっしょにまちにいこうっ!」

「いや、だからお前元気だったよな? と、言うか今、叫んだよな?」

「タタラっ! お前だけでも! 俺の事は良いからッ! お前だけでも街にッ! た、頼む門番さん。俺はもう駄目だからっ!」

「何が駄目なんだよ! 周囲に聞こえる様に声張ってるよな、今ッ!」

「いやだ、兄上っ! 死んじゃいやだ、兄上えぇぇぇ!」



 ひそひそ。


「え? 何が有りましたの、奥様?」

「何でも盗賊に全てを奪われた兄弟が死に物狂いでここまで来たのに門番が街に居れてあげないんですって」

「え? 私は、門番が全てを奪い、事情を知っている兄の方を斬ったときいてますわ」

「んま! 酷い」


 ひそひそ。



「あー……門番さん……」

「……」

「(お・ね・が・い☆)」


 ばちこーん、ウインク。


「――死ねぇぇぇぇええええぇぇ!」

「! だめだ! われは、兄上を、兄上を死なせないっ!」

「んま! 奥様! 大変ですわ! 門番が!」

「え、衛兵を、誰か衛兵をっ!」

「! ソウジ、待っていろ! ガララが今行くぞ!」


 結果。


「……」


 街に入れた。


「…………」


 上司に連行された門番さんに今度お詫びを持って行こうと思う。


「兄上、きずはだいじょうぶか?」


 勝因は一人が演技では無くマジだったからだと思う。思い込みが激し過ぎる。


「無事でよかった。ガララはソウジの無事を喜ぶぞ。……どうした何故泣く?」


 ――周りが良い人過ぎて自分が汚すぎるからですよ、ガララさん。


 タタラが何の神かは隠す気は無い。だからバレバレだと思う。

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[一言] ガララ!?ガララだ! 何とはなしに過去作を拝見してたらビックリ。 そうか、思い入れのあるキャラクターだったんですねえ……
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