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「子供ができて初めてのお使いに送り出すのはこんな気分なのだな……ガララは少しだけ親の気持ちが分かったぞ」

「……ねぇ、その微笑ましいものを見るような目を止めてくれないかな。止めてくれないかな?」


 さて。俺、片桐ソウジはどのギルドにも所属しないフリーのガンナーである。

 どこのギルドにも所属していないので、どこかのギルドに成果物を売る必要はなく。逆に言ってしまえば、どこのギルドにも成果物を売る事は出来ない。そんなわけで――


「ようこそ、迷宮管理組合買取受付カウンターへ! 組合員書の提示をお願いします――はい、確認しました。片桐ソウジ様ですね」


 初売りである。

 背後で父性に目覚めた眼をしたガララに見守られながらの初売りである。

 ちょっと言い方を変えれば初めてのお使いである。こんどタタラにやらせてみよう。そしてその後をつけてナレーションを入れてみよう。


「えーと子鬼の目玉を――二ダース程お願いします。あ、それと歯って買い取ってくれるんですか? 調子に乗ったらかなり集まっちゃって……」

「子鬼の歯ですか? 買い取ることは可能ですが……あまり需要がない物ですので、かなりお安くなってしまいます。ご自分で加工が出来るのなら、加工しからの販売をおすすめさせて頂きます」


 にっこり笑顔のお姉さん。

 成程。ガララの言う通り、加工しない子鬼の歯は安く、組合殿は中々に公平な組織らしい。


「んじゃ、竜眼だけお願いします」

「かしこまりました。では、手続きをしますので少しお待ち下さいませ」


 そのアドヴァイスに従って内職をすることにしよう。

 有難い事にこちとら悪の『めぇーっどさいぇんてぃすと』が嬉々として改造したがる位には規格外の高速固形化が可能な人材。他の――例えばガララがやるよりは早く内職も片付く事だろう。

 そんなわけでカウンターに置いたザックの中身をガサガサごそごそ。黄の竜眼がびっしり詰まった二つの円筒形の瓶を取り出し易い位置へ。

 売る事に決めた竜眼だが、この場――目の前のお姉さんに売るわけではないので、まだ取り出さない。

 同じ種類の《竜》からとれた竜眼は、どうやら一律同じ値段と言う分けではない。なんでもランク――等級があるらしい。FからはじまりAに至るその分類により値段が変わる――との事で、当然というか、お約束と言うか、強い《竜》の眼程高くなるらしい。

 で、そんな等級を見てくれるは目の前のお姉さんではなくて、鑑定人。ここではその順番待ちの札を受け取るだけだ。


「――くぁ」


 と、小さく欠伸を一つ。

 中々終わらないお姉さんの仕事姿を視線にとらえたまま、成果物に目を落とす。思わず浮かぶ笑み。

 子鬼の平均はE、F程度とお安くなっているが、そんなことよりも自分で稼ぐという行為の新鮮さにわくわくが止まらない。大絶賛で質入れ中のタタラには申し訳ないが――


「お待たせしました、片桐様。こちらのプレートをお持ち下さい」

「はい。ありがとうございまーす」


 楽しい。


□■□■□


 簡易パーテーション。

 机と机の間を薄い板で区切っただけのプライバシーも何もない場所。

 受け取ったプレートに書かれた番号に従ってやってきたのはそんな場所だった。

 子鬼程度の獲物では個室に案内されることもないし、竜眼の鑑定だけなら専門知識の少ない見習いの所に回されるぞ――と、言うガララの言葉を裏付けるような効率最優先と言った場所。


「どうぞ、かけてください」


 そこに軽やかな鈴の音が落ちる。

 温度のない声だ。だが、怜悧には聞こえない声だった。

 長く伸びた癖のない黒髪は絹の様にさらりと流れ、その温度のない声に相応しく冷たく整った容貌は綺麗な人という印象を俺に与えてくれる。


「? どうしま――学ラン?」


 そんな彼女が見せる小さな驚きの表情に小さく笑い、緊張をほぐす。不意打ち過ぎて固まった。意外な所で意外な種類のヒトにあって固まった。


「そう言うそちらはブレザーですね?」


 正直、同類は皆、迷宮に潜ったりするもんだと思っていたので、少し思考が固まったが……まぁ、有り得ない事ではない。

 神の祝福も、スキルも戦闘向きでなければ、そうなる。


「……ごめんなさい。まさか学ランで迷宮に潜る様な人が居るとは思わなかったから……」

「はっはー。何分、貧乏人でね。装備を整える事が出来なかったんですよ」


 軽く笑い飛ばしてみたり。

 おほほー、子神を借金の担保にするくらいには生活に困っておりますのよー。


「――っと、こっちこそガン視してすいません。まさか鑑定人が同類だとは思わなかったのでね」

「別に構わないわ。自分でも異端だと言う自覚はあるもの。スキルがこっち向きだったから……ね?」

「へぇー」


 ちゃんとどっか向いてるスキルで良いですね。俺のスキルは何処向いてるかも分からないステキスキルですんで。凄い集中力がスキルですので。


「……名前、名乗った方が良いかしら」


 何故かどことなく嫌そうにご同類。


「や、別に良いですけど……俺、何かしましたか?」


 そんな初対面で嫌われる様な事。

 それともアレですか? イケメン以外には名乗りたく無い種類の方ですか? だったら良いです。フツメンには興味無いんですね? フツメンには。フツメンには。


「……ごめんなさい。失礼だったわね。どうも貴方くらいの年頃の男の子はこう言う展開になると……その……」

「あぁ。自分を主人公と勘違いする?」

「……自分の人生の主役は自分であるべきだと私は思うわ」

「では言い方変えて……鑑定人さんをヒロインと勘違いする」

「――」


 無言。しかしてコメカミ揉みながら頷く鑑定人さん。

 勘違いした奴らの気持ちも分からんでもない。これだけの美少女が自分の物語に登場してくれるのなら、それはきっと素敵な物語になるだろうから。


「五十嵐サツキよ。貴方はそうでないみたいで嬉しいわ」


 よろしく、と差し出される手。


「片桐ソウジです。聞きようによってはとってもナルシストに聞こえるセリフですね、五十嵐さん。希望のバストに達していなので、ノームネーでフィニッシュです」


 こちらこそ、とその手を握り返す。


「――」

「?」


 ギリ。


「――――」

「……あ、あの?」


 ギリぎりギリ。


「――――――」

「手が、痛いので――ッ! ま、待って! 本当に痛い! 痛いですって!」

「片桐くん。良い事を教えてあげるわ……この世界にもセクハラって、あるのよ?」

「ごめんなさい! あやまります、ごめんなさい!」


 畜生!

 ただ、遠回しに『そういう対象として見る気は無い』と伝えたかっただけなのに!


□■□■□


 どうやら五十嵐さんナルシーではなかったらしい。

 それが判明するのにそれ程、時間は掛からなかった。

 持ち込んだ二ダースの大凡半分程が鑑定済みとして二つに山に分けられた時にそいつはやって来た。


「すまない、そこを退いてくれないか?」


 俺と同じ年頃であろう、男の声。

 最初、俺はそれが自分に掛けられた言葉だと理解できなかった。

 無理もないと思う。

 こちとら大絶賛で取り込み中。更に、この鑑定ブースはある意味で鑑定が終わるまでは俺に貸切りみたいなもの。

 そんな状況で、そんな言葉を掛けられるとは思わなかったのだ。


「聞いているか? そこを退いてくれ」


 だから、その言葉が自分に向けられていると言う事に気が付いたのは、それを聞いた五十嵐さんが嫌そうにルーペから視線を外し後ろに視線を投げたからだった。

 そんな分けで、丸椅子に座ったまま、身体を捻じって背後を確認。そこには――


「ふん! やっと気が付いたか、かとうせいぶつめ!」

「口が悪いぞ、アロス」


 碌に子供を叱ることもできないバカ親と、そんなバカのお蔭で何か色々とダメな方向に向かっているお子様、何時ぞや見かけた金髪イケメンな魔剣使いとその相棒が居た。


「……」


 現在、このパーテーションが担当する番号を確認。


「……」


 机の上に置いたプレートの番号を確認。


「……」


 それをイケメンに見せてやり――


「こっちの少ない山がE等級の竜眼?」


 五十嵐さんに鑑定の先を促す。


「――えぇ、そうよ。因みにこれもF」

「もう一声!」

「無理」

「えー」


 けちー。と、思わずほっぺに空気送って膨らんでみたり。


「ちょ、ちょっと待った!」


 そんな俺達に掛かる待ったの声。


「……ほら、五十嵐さん。外野から待ったが掛かりましたよ?」

「あら? 今の待ったは鑑定結果では無くて貴方に掛かった言葉でなくて、片桐くん?」


 にっこり。良い笑顔の五十嵐さん。

 厄介事に巻き込めそうな仲間が増えて嬉しいらしい。……あー。関わり合いに成りたくないんだけどなぁー。


「何か用ですか、主人公?」

「? 主人公? ――そう、だな。その通りだ。だから、キミ、そこを退いて――」


 全身から嫌そうなオーラ出しながらの俺のセリフに、ドヤ顔のイケメン。言葉の裏が読めない気の毒な彼はそのまま調子に乗り出したので――


「はっはー。……皮肉に決まってんだろ、バカ」


 ついつい本音が零れた。


「ばっ……! 少し、失礼じゃないかな、キミ?」

「えー……そうですねー。所で順番飛ばしですら無い割り込みを上から目線で行う奴ってどう思う? 俺は凄い失礼だと思うんですが?」

「――ッ!」


 何の事を言われたのか理解できたらしく、真っ赤になるイケメン。

 そんなイケメンは自分を落ち着かせるべく大きく息を吸い込んで――


「そうだな、確かに失礼だ。……日比野トウヤ、先日城塞都市群の二十層まで突破した」


 何故か、再度のドヤ顔。……何がしたいんだろうか?


「はぁ。ご理解頂けて幸いです。片桐ソウジ、今日ウェスト・シティでウロウロしてました」


 何がしたいかは知らないが、自己紹介されたので、自己紹介を返す。


「――」

「――」


 そのまま見つめ合う。


「――?」

「――?」


 互いに歯車が噛み合っていない様な気がして、首を傾げあってみたり。

 そんな俺達に五十嵐さんからの助け舟。


「……はぁ。あのね、片桐くん。彼は『自分は凄いからそこを退け』と言っているのよ」

「……いや。いやいやいや。そんな分けないでしょ? 流石にソレは……」


 が、その助け舟は沈没寸前だった。

 無い。流石にそれは無い。幾ら何でもそれは無い。その証拠にひびのん(あだ名)も――


「……うわぃ」


 どうしよう。ドヤ顔だ。ひびのんがドヤ顔だ。

 ……え? どうしよう? コイツ、そんなにアレなの? 可哀想な奴なの?


「……同情で順番を譲りたくなってきた」

「誠心誠意時間をかけて鑑定致しますので、かなりお待ち下さい」


 良い笑顔で五十嵐さん。


「ヒトを待たせてるのを思い出しました。残りは全部Fで良いので切り上げてください」

「駄目です。と、言うか、逃がしません」

「ッ! が、ガララ! 助けて! ガララー!」


 嫌だ! ひびのんと関わりたくない!


 活動報告にも書いたけど、キーボードが変わって打ち難い。……このままでは速度が、落ちる。

 が、がんばります!

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