8
偉大な偉大な先代様達だが、当然彼らはただの人。
公用の文字を日本語にしたり、戦隊モノと言う文化を広めてはいるが、広まって無い物も当然の様にある。
この世界には歯ブラシが無い。
「兄上、兄上!」
「んぁ?」
そんな分けで、歯磨き用の木の棒をがじがじ。こちらに来て直ぐにコレをやったら出血が凄まじかったが、一カ月の異世界生活で俺の歯茎は超進化。結果、現在出血は無し。
で、手慣れた手付きで戦士ギルド所有の井戸の側にて歯を磨く俺に声を掛けて来たのは、タタラ。未だ、任せておくと磨き残しが出るので、『お○さんといっしょ!』の様に俺チェックが必要。故に先に磨き終り、俺を待っているはずのタタラは何だかとってもご機嫌。
その手には小太刀。
「タマとった――にゃー! いたい! 兄上、いたい! ほっぺがいたい!」
鉄砲玉みたいなことを言って振り回していたので、右で歯磨き続行しながら、空いた左でマウスクロー。
「お前の玩具じゃないんだから触るなって言ってんだろうが。あと、汚い言葉を使うな。どこで覚えて来た?」
「う? サブがな、いってた」
「誰だよ、サブって? 子神?」
「ん! きずなのかみ!」
タタラがばんざーい。
「……」
多分、その絆は仁義的なものなのだろう。
兎も角。タタラが何時か『こン、三下がァ!』とか言い出す可能性が有るのは兎も角。
「ほれ、没収」
「おとさないから! おとさないから、われがもつ! もたして兄上!」
「駄目」
みーみー鳴く子神の手から刃渡り三十センチ程の小太刀を没収。
前日の武器適正試験の結果、進められるままに選んだ得物、小太刀。未熟とは言え、鍛冶神であるタタラはソレが気に入ったらしく、隙あらば小太刀を手に取りたがるのだ。
「ぶー」
「膨らむな」
「われ、にんじんも、しいたけもたべてるよ?」
「そうだなー、次はピーマンにチャレンジしようなー」
「……――」
「黙るな」
視線を逸らすな。そんなに嫌か。
「――っと、そろそろ良い時間だ。ほれ、タタラ、さっさと行くぞ。折角の安息日だし、兄上は明日、初迷宮だから色々買い物したいんだ」
□■□■□
――曰く、目が良過ぎる。
――曰く、耳が良過ぎる。
――曰く、勘が良過ぎる。
経験を積んで辿り着いた分けでは無く、純粋な性能。集中力のみで勝ち得たその評価。
目が良く、耳が良く、勘が良いので反応出来る。
が、身体が脆弱であり、動かし方が下手なので、間に合わない。
ハード、身体面に見合っていないソフト、脳力。
――君は、チグハグだ
暁ツバキは俺、片桐ソウジをそう評し、俺の手から太刀を取り上げて小太刀を与えた。
――だから君は攻めるな、防げ
「と、言う分けで、コレが俺の武器に成りました」
「む。戦士ギルドでは初心者には取り敢えず射程が長い物を与えると聞いて居たのだが……ソウジは優秀なのだな。ガララは驚いたぞ」
「ガララも刃物もってる? もってるなら、われがもってあげるよ?」
「分かってると思うけど……渡さないでくれよ?」
「了解だ。ガララはタタラに刃物を渡したりしない」
場所は戦士ギルドの中庭から移って、酒場。サルーン。ウエスタンな空気が漂うそこで待ち合わせたのは、その雰囲気に実にマッチしたリザードガンことガララ。
初任給的なモノが入って来たので約束通りご馳走しようと思ったのだ。
「……明日の迷宮で俺がどうなるか分からないからな」
ふっ、と溜息。
「縁起でも無い事を言うモノでは無いぞ、ソウジ。――取り敢えずパインサラダを頼む」
「他意は無いんだよね!」
そのチョイスに!
「良く分らないが……ソウジは戦士ギルドに入っていたんだな……」
「? 何か意外?」
遠くを見つめる様な眼をするガララに疑問文。
「あぁ、少しな。てっきりソウジはガララと同じエーテル属性だと思っていたからな……」
「銃士ってことか?」
エーテル属性とやらが何かは知らないが、確かガララは銃士だ。
今日、会って直ぐの近況報告にて俺が戦士ギルドに入った事を伝えた所、得意げに包帯の巻かれた左腕を見せられ、『ガララは銃士ギルドの入ったぞ』と言われた。
話の流れから、自然、その包帯の巻かれた左手に視線が行く。……アレか? 邪気眼か? 厨二病か? くっ、鎮まれ俺の左腕ッ!
「ガララはてーけがしたの? 血、でた? われな、このまえ、ころんで血でた。でもなかなかった! そうしたら兄上がアメかってくれた! ガララはないたか?」
「む。ガララも泣いていないぞ、ソウジ?」
ガララが、ちらり。
「……なら、後で飴買ってやるよ」
少し、じとっとした眼で言ってみたり。……あ、べっこう飴で良い? タタラのおやつは大体アレなんですよ。
「その提案は魅力的なのだがな、残念な事にガララの左腕はケガをしたわけでは無いのだ」
「じゃ、飴は無し」
「む。それは残念」
薄く笑うガララ。
そんな彼に視線で疑問文。『じゃあソレ何だよ?』。
受けて包帯を解くガララ。出て来たのは幾何学的な紋様に蝕まれた紋様。
「は、」
思わず、笑いが零れる。
文字には、言葉には力が有る。そんな事をいわれても理解出来なかった俺だが、コレを見れば理解出来てしまう。
アレは、力だ。
あの紋様自体が力と言う存在だ。つまりは――
「魔法?」
「うむ。これはまぁ、銃士の証。《弾丸生成》の刻印魔術だ」
「……!」
おっとーう。来たよー。来ましたよー。キマシタワー。
魔法! じゃなくて魔術! 来ましたよ!
「それは火がでるんですかッ!」
「いや、そんなものは――」
「そうですね! 今のトレンドは土ですよね! 地味なモノにこそスポットをあてる! それらが俺らだ特攻野郎アチーム! でも飛行機だけは勘弁なッ!」
ひゃっほーぃ!
「……ガララはソウジが怖いのだが、タタラ?」
「兄上はたまにあーなる。まえはメイドさんみてあーなった。われはしってる。このあと兄上は……めんどうくさくなる!」
「そうか。まぁ、それでも興味がある様ならガララが話してやろう」
「お願いします!」
結果。
「無いわー。核に魔力的なモン纏わせて弾丸造るだけとか無いわー。何よりも俺に関係が無いわー」
「手榴弾みたいなものにもできるぞ?」
「どっちにしろ銃士にしか使えないんだろ? 俺には関係ないわー」
「……」
「な!」
ガララが凄い面倒なモノを見る目で俺を見て来た。
□■□■□
明けて翌日。今日はいよいよ戦士ギルドの最終試験日である。
二人一組で迷宮に入って《竜》を狩ってくれば一人前。
それが戦士ギルドの最終試験だった。
「……」
部族か。
どっかの部族か。
「ギルド族かッ!」
「ぞくかッ!」
タタラと一緒に虚空にびしっ! とやって見たり。
「はは、確かにソレっぽいね」
「あ、カツヨシさん、おはようです」
「カツヨシおはよう! ミツキもおはよう!」
「はい、おはよう。ソウジくん、タタラくん」
「――(ペコリ)」
因みに俺のペアはカツヨシさん。
仕事疲れで背中が煤ける眼鏡のナイスミドルな子連れ狼。
俺同様に子神持ち。日本人形の様に前髪ぱっつんなお姫様系美幼女のミツキちゃんと一緒に居ても怪しい雰囲気はせずに、親子の様に見えるのはその優しげな雰囲気のお蔭だろう。
経験豊富な違いの分かる男だが、生憎と年には勝てず同期の中での成績は最下位。そこで無駄に倍の数をこなした俺と組むことに成ったのだ。
「お、ソウジくんとカツヨシさんペアも行けそうだな。……すまないが、カツヨシさん、ソウジ君を頼むぞ。その……彼は……アレ気味なので……」
「はは。そんな大丈夫ですよ、ソウジくんはしっかりしてるから」
「……」
それ以外の理由は無いはずだ。
兎も角。ツバキさんの中での俺の評価がどうなっているかは兎も角として――
「なんでそんなに重装備何ですか?」
中世騎士みたいな装いのカツヨシさんが問題だ。何ですか、そのバケツヘルメット? 体力が無いのにそんな重装備で動き回るとかMのヒトなのだろうか?
「折角、エーテルの扱い方を習ったからね、装備重量無効の刻印が刻んであるんだ、コレ。だからこれだけ身に着けても動きには支障が無いから安心してくれ」
「……エーテル? 俺は習ってませんけど?」
それを習うとその重装備でも動けるようになるんですか?
「ほら、ソウジくんはチャンバラしてたから」
「あぁ、それで……」
でも習う内容に差があるっていうのはどうかと思う。
「……逆に君は随分と軽装だね?」
「日常生活から冠婚葬祭まで対応できる万能装備ですので」
学ランは。
「兄上はな、そうびをかうお金もごはんにしたんだ。われはしってる! それはバカなお金のつかいかた! ミツキも気を付けろ! な!」
「――(こくん)」
「……」
「にゃー! いたい! 兄上、なんでウメボシする?」
「……本当に。本当にお願いしますね、カツヨシさん」
「は、ははは……大丈夫、ですよ……多分……」
「――! ――!」
抗議する様に袖を引っ張るミツキちゃんに免じてタタラを解放。さて――
「そろそろ行きますか? ――バディ?」
「うん。そうしようか。――バディ」
踏み出す先は迷宮。
迷宮都市グラスの下に広がる無数の異界の一つ。
緑の《竜》が支配する濃緑の世界。
大森林遺跡ドライアド。
アレだ。一歩は迷宮に入った。
気が付いたら評価して貰えてた。嬉しい。よろしくおねがいします。




