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Live Through  作者: 木田 麻乃
8/14

当直の晩に(4)

 とうとう潤姫は意識を失う。死が刻々と彼女に迫るその時、遂にビルが彼女を救うべく立ち上がる!

〔やけに、冷える、夜だね…。〕

〈まだ8月だぞ?何だか様子が変だ…。〉

 ビルは漠然とした不安を覚えた。

「潤姫、聞こえてる?潤姫?」

 ビルは潤姫の名前を何度か呼んだ。しかし、何の返事もないばかりか、防犯カメラの画像で確認する限り、彼女はぴくりとも動かない。ビルが再度潤姫の名を呼ぼうとしたその時だった。

〔セディさんっ!それどうしたんですか!〕

 リーの叫び声がイヤホンを通じてビルの耳をつんざいた。

〔どうしたって…な、何だこれは?!〕

 リーの次はセディの狼狽する様子が伝わってきた。

〔俺も人質も無傷だぞ…あの時だっ!グレイ、琴堂寺が撃たれてる!〕


「セディさんっ!それどうしたんですか!」

 セディとリーは数分前に合流していたが、現場に到着した地元警察に人質を引き渡したり現場の状況や犯人グループについて報告したりと暗がりの中でバタついていた。ひと段落ついてようやくリーの待機していた場所に戻ってきた途端に、リーがセディの体を指して叫んだのだ。

 そこは街路灯が並ぶ歩道のそばで、現場周辺ではそれなりに明るい場所だった。セディはリーの驚きぶりをいささかうるさく感じたが、この時初めてシャツの胸の辺りに暗赤色に乾いた血痕がべっとりと付いていることに気付いたのだった。

「どうしたって…な、何だこれは?!」

 血痕を見て、セディは体をあちこち触って確認した。どこも痛くはない。出血もない。人質で誰か怪我をしなかったか思い返してみるが、全員の無事を確認して引き渡したばかりだ。

「俺も人質も無傷だぞ…」

 さらに記憶を辿り、セディは「あの瞬間」に行きついた。


 -潤姫の体はほんのわずか後方に飛び、セディにぶつかった。

 「大丈夫か?」

  思わずセディが声をかけた。すると潤姫は何事もなかったかのような表情で上着の内側からリボルバーを取り出し、セディの胸に押し付けた。-


「あの時だっ!グレイ、琴堂寺が撃たれてる!」

〈あの時相手の銃弾の威力に体を持ってかれて俺に…。リボルバーを握っていた手は血だらけになっていたんだ…。平気な顔でいたから、まさか撃たれたとは…。〉


 ビルはセディの言葉ですぐに画面の中の潤姫を見た。潤姫はやはり動かない。さらに、イヤホンからはほとんど彼女の息づかいは捉えられなくなった。

〈…まずい!〉

 潤姫の不自然な言動、衰弱した様子、これらのことがセディの一言でビルにはすべて合点がいった。

〈出血性ショックだ!大量の失血で貧血・酸欠状態になり、脈が速く弱くなる。酸欠状態を補おうとして呼吸も速くなる。悪寒にうわごと…全部当てはまる。何でもっと早く気付けなかったんだ!〉

 ビルは自分を責めた。彼女に対して責任を持つと決めたはずなのに…。本気で向き合うと約束したはずなのに…。自分のふがいなさに、ビルは冷静ではいられなくなった。

「すぐに行く!」

 ビルが叫んだその時だった。

〔待てグレイ!俺の方が現場に近い。俺が琴堂寺を連れてくるから、お前はそこにいろ。余計な時間はかけられない!〕

 セディだった。彼のおかげで、ビルは冷静さを取り戻した。

「…わかった。」


 あれから5分程経っただろうか、セディが潤姫を抱えて走ってきた。リーも後を追って走ってくる。ビルは車の後部ドアを開けた。

「体の左を下にして、横向きに寝かせて!」

 セディは指示通りに潤姫を座席に寝かせると、すぐに運転席に飛び乗った。

「隣接病院でいいな?飛ばすぞ!」

「頼む。」

 救急車を呼んでいる暇はない。事態は一刻を争っていた。セディの言う「隣接病院」は、GRO本部の隣にある、あの病院だ。幸い、15分以内で着く距離だ。ビルはバッグからハンドタオルを数枚取り出し、それで潤姫の傷口を押さえつけた。片手でタオルを押さえながら、もう片方の手で潤姫の手首を取って脈拍を確認する。

〈微弱で速いけど何とか振れてる。顔面蒼白…。弱いけどまだ自発呼吸はある。〉

「潤姫、聞こえる?聞こえたら、手握ってみて。」

 ビルは大きめの声で潤姫を呼び、彼女の左手を軽く握った。だが、返事もなく、手を握り返すこともない。その間にタオルに血が滲み始めた。

〈この出血量、動脈をやられてる。腋窩動脈ならとっくにアウトだから、この位置でもっと細い動脈…外側胸動脈辺りか。肺と肋骨も心配だな…。〉

 車は10分程で病院の敷地内に入った。

「裏の救急搬送口に回って。」

 セディはビルの言うとおりに、建物の裏に回り、「救急搬送口」と書かれた電光板の光る入口の前に車を停めた。

 ビルは意外にも軽々と潤姫を抱きかかえて車を降り、病院に入った。セディは入口を入ってすぐ右の事務室の小窓を叩いた。事務員の男性が小窓を開けるや否や、セディが言った。

「急患だ!ドクターはいるか?」

 「急患」の一言に、事務員の表情が曇った。

「つい5分前にデカイ交通事故があって、重症患者が一気に3人も運び込まれたんです。当直医は処置にかかりっきりで…。」

 確かに、廊下の向こうではガチャガチャと騒がしい音と、セディには聞き慣れない医療用語がかなり緊迫したトーンで飛び交っている。セディとビルは顔を見合わせた。2人の表情は対照的だった。焦りの表情を浮かべるセディに対し、ビルは落ち着き払った顔、と言うよりは何か覚悟を決めてふっきれたような顔をしている。

 ビルはセディに、

「大丈夫。セディ、俺の首に掛かってるパスケース、彼に渡して。」

 とわずかに首を傾けた。セディにはビルが一体何を考えているのか理解できなかったが、とりあえず言うとおりにした。

 パスケースにはGROの身分証が入っているだけに見えたので、事務員は怪訝そうな顔でパスケースを受け取ったが、それを裏返すと、事務員の表情は驚愕の色に染まった。

「こ、これ…これ!」

「処置室が空いてなければ長椅子で構わないよ、必要な薬品と道具さえ貸してくれれば。費用の請求はセントローズ医大にどうぞ。」

 淡々としゃべるビルに対し、事務員はひどく慌てた様子で、

「はは、はいっ!責任者に確認取ってきますっ!」

 と事務室を飛び出していった。セディにはちんぷんかんぷんな状況だ。

「グレイ、俺には何が何だかさっぱり…。」

 すると、ビルは言った。

「なに、ドクターなら足りてるってことだよ。」


 潤姫のピンチで、いよいよビルにもスイッチが入りました。ただこの男、ONとOFFで人変わり過ぎ!

 次話では彼の過去が、ビル本人の口から語られます。もうここまで来ると大体見当がつくとは思いますが…。でも、広いお心で楽しみになさっていて下さればと思います。

 

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