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Live Through  作者: 木田 麻乃
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当直の晩に(2)

敵の装備に進退きわまった様子のセディのもとに、遂に潤姫が姿を現した。まだ彼女の実力を知らないセディは、潤姫にその場を任せることを躊躇するが…。

 潤姫は民家の庭の柵をハードルのように飛び越え、アパートの壁沿いに素早く走り抜け、教会裏口の前まで来た。付近に駐車中の貨物トラックの陰から静かに覗く。

〈やっぱり増員されてる。左右1人ずつ、両方とも右利きでアサルトライフル。なら…〉

 潤姫はトラックの下に潜り込み、スライドを引いて最初の弾丸を装填し、裏口向かって左側に立つ男に照準を合わせた。

〈まずはあの厄介な銃が使えないように…それから動きを封じる。〉

 男が周囲を警戒して体を右に向けた瞬間…

〈今だ!〉

 潤姫の銃が火を噴いた。

 潤姫は間髪入れず計4発発砲した。まずは左側に立つ男の右腕に。

「ギャアッ!」

 撃たれた男の方をとっさに振り向いた、反対側の男の右腕に2発目。

「アァッ!」

 今度は最初に撃った男の足首付近、続けて隣の男の足首。

 4発とも思い通りの位置に命中した。相手には反撃するいとまもなかった。これで、裏口の男2人は銃も使えず逃げられずの状態になった。潤姫はトラックの下から素早く這い出て、裏口に向かって走った。礼拝堂の中では銃撃音が続いている。幸か不幸か、そのお陰で敵は潤姫の襲撃に気付いていない。

 礼拝堂に入ると同時に、潤姫はすぐに姿勢を低くして、最後方の長椅子の背もたれに隠れた。左側を向くと、セディと人質6人が1.5メートルほどの通路を挟んだ先で、潤姫と同じ体勢をとっていた。セディもすぐに潤姫の姿に気付いた。潤姫は、長椅子と長椅子の間を素早く移動し、セディのそばに来た。

「私が上手く気を引いている隙に裏口から逃げて。」

 そう言われても、正直なところセディは潤姫の実力をはかりかねていた。たった今アサルトライフルの威力を目の当たりにし、潤姫にこの場を預けることに不安を覚えていた。

「ここは俺が何とかする。」

 潤姫はすかさず反論した。

「弾切れで何ができるの?」

 セディははっとして自分の銃を見た。スライドが下がったままだ。その状態は、弾切れを意味していた。マイケルやキャシーが潤姫の装備を知っているように、彼女もまたセディが装備していた弾丸数を見て記憶していた。銃撃戦の最中セディは既に3度マガジンを交換していた。そして、潤姫はイヤホン越しにそこまで把握していたのだ。

 潤姫の冷静さに、セディは内心驚いていた。

「それと…」

 潤姫は続ける。

「この子達、すがるような目であなたを見てる。本気であなたを頼って命預けてる。今更この子達放ってあなただけここで犬死にするつもり?」

 潤姫の言葉に、セディは思わず彼が連れている人質の方を見た。潤姫の言う通りだった。シスターも子供たちも、セディをじっと見つめている。セディはぐっと奥歯を噛み締めた。潤姫は構わず続ける。

「相手がリロードしてる隙に裏口まで一気に…。合図したら行くよ。」

 潤姫は防戦しながらも相手からの銃撃音に耳をそば立てた。そして、相手がマガジンを取り出す音を聞くと同時に、右手を軽く挙げた。

「さあっ!」

 潤姫の合図でセディを先頭に人質らが一斉に頭を抱え上半身を屈ませながら駆け出した。潤姫はその列の横で相手に銃を構えた。礼拝堂側面の壁からこちらを狙う左右の2人も、瞬時に仕留めた。

 無事全員が裏口すぐ手前の長椅子まで移動し終えようとしたその時だった…。潤姫が礼拝堂の正面入口からこちらに銃を向けている男に照準を合わせた直後、礼拝堂のギャラリーに敵が1人現れ、アサルトライフルの銃口を向けてきたのだ!

〈上からじゃ頭が丸見え!やられる!〉

 潤姫はとっさにギャラリーの敵に銃口の向きを変え発砲した。ギャラリーから、撃たれた男が呻き声を上げながら転落した。と同時に、正面入口の方から単発の銃弾が飛んできた。潤姫はすぐに正面入口の男に照準を変えた。次の瞬間、潤姫の体はほんのわずか後方に飛び、セディにぶつかった。

「大丈夫か?」

 思わずセディが声をかけた。すると潤姫は何事もなかったかのような表情で上着の内側からリボルバーを取り出し、セディの胸に押し付けた。

「敵はまだあと1人どこかにいる。回転式でも無いよりマシ。護身用に持ってって。ここは私が引き受けた。」

「…しくじるなよ。」

 セディはリボルバーを握りしめ、その一言だけ口にした。彼が潤姫の実力を認めた瞬間だった。すると、潤姫はほんの微かに笑みを浮かべた。

「誰に言ってるの?」


潤姫が遂にその手腕を発揮しました。単独ならもっと鮮やかに片づけられたのですが、人質とセディが背後にいるので無茶もできず…。今回、潤姫は最後にかなり強気な発言をしていますが、その真意は…?もちろん、半分は自信の表れですが…。

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