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後日談、その1

本編終了後です。いちゃいちゃ話(+蛇足)が始まります。お気をつけて!

「いらっしゃいませー」


カランコロンと鈴がなる。

ルヴォワールから甘い香りと活気のいい声が溢れる。

私はその中の一員としていた。




「ええ!?私がルヴォワールで働く!?」


こくりと私の手を持って頷くのは、先日想いを交わした人。

前世の記憶を持って生まれた私達は、色々な試練を乗り越えてようやく結ばれ、幸せ真っ只中なのデス。

そしてここはルヴォワールのイートインスペースであって、決して人目がないわけではない。何故か隣に座って、超至近距離で手を持って見つめられれば店内の客(主に女子)(店員を含む)の視線を独り占め☆

そんな異常な事態に、離してと手を振るも逆に握られあまつさえ指を絡められてしまえば、少しでも視線から逃れようと深く俯くしか出来なかった。


「だって千陽、まだ結婚してくれないんだろう?じゃあ傍に居られる方法はこれしかないじゃないか」

「それは職権乱用ってやつじゃないの?」

「あるものは使わないと。また千陽から離れるなんて考えたくもない」


そうなのです。

この人、前世は竜であり、私の旦那さんであった義夜さんは、ずっとこの調子なのでございます。


私が義夜さんを見つけたあの日に結婚を申し込まれ、翌日には私の両親に会いに来て、お父さんと私の反対票をものともせず、ここ2週間家に通い私に触れない日はなかった。

初日の日に『どうして駄目なの?』と言って首を傾げた義夜さんとお母さんに逆に言いたい。

いくら前(世)から知ってる人とはいえ、実際顔を合わせたのは2回なのだ、それも1回は全然覚えていない人といきなり結婚だなんて。

付き合った事もないし、デートもまだした事ない初心者マークの私には、到底恐ろしくて出来ない。

そもそもどうしてプリンの人が!?と凄い剣幕で問いただされお母さんにかいつまんで話したのがいけなかった。目をとろめかせたお母さんは、義夜さんの手を握り、『娘を末永く幸せにしてやってね』と私を差し出したのだ。

…というかお母さんが義夜さん側につかれては負けが見えているのは気のせいだろうか。お父さんは頼りにならなさそうだし。


「…やっぱり俺は許して貰えないのか…?そう、だよな。守ると言ったのに、傍にいると言ったのに約束を破ってしまったもんな」


そう言って綺麗な顔を歪ませると、周りから黄色い悲鳴が上がった。

これ、これも原因なんだよ!

義夜さんはこの美貌で密かに、あ、いえ嘘です、超スーパーウルトラ人気があるのだ。成瀬さんも苦笑するくらいの支持率らしい。うぬぬ…知らなかった…。

彼を見る為に大量の甘味を所望し来店する婦女子が後を絶たない。そして比例してジョギングをする婦女子が店の前を通るのも忘れてはならない。


「ち、違うから!許す許さないの前に私怒ってないから!…ただ甘やかされるだけじゃ私生きていけないから。現実は厳しいの!」

「だから言ったじゃないか。これくらい甘えでないと。今まで出来なかった分、もっと甘やかしたいんだよ、千陽」


うっそりと微笑めばガタガタと周囲が揺れた。ちらりと見やれば鼻を押さえて肩を震わす女子達。そして「笑顔なんて初めて見たわっしょい!」「眼☆福」とざわざわする。

こんな状況の中、私が店員にでもなったらまた刺されるんじゃないのか!?


「大丈夫。千陽は厨房に入れる。俺がずっと傍にいるから安心して」

「え?そんな私無理だよ!ルヴォワールのパティシエと並ぶなんて…!」

「何を言ってるんだ。千陽なら出来るだろう」


連れていかれた厨房で、言われるがまま材料を目の前にしたら、木苺プリンが出来ちゃいました。

はれ?


「ほらな。ちゃんと覚えている」


そう言って私の作ったプリンを食べた義夜さんは、懐かしいとくしゃりと顔を歪ませた。

それが酷く狂おしく、背中に腕を回して抱きしめた。

私の行動に驚いたのか、義夜さんは動かなくなり手が空でわきわきしている。胸から溢れてくる愛しさに自然と笑みが零れる。


「…じゃあ私、これから義夜さんの為にプリンを作る。だから私も傍にいさせて?」




こうしてトントン拍子に事は進み、晴れて義夜さんの相棒として働く事になったのだ。

恐れていた女子のイジメは面白いくらいになかった。


「だってあんなプリン作られちゃ認めるしかないでしょー」

「ブラックプリンス(二つ名らしい)の笑顔が拝めるなら彼女の1人や2人仕方ないわ!」


などと言われた。

店員も、お客さんも義夜至上主義で助かった、のかな?

まぁ、そんな素敵な人のか、か、かの、彼女、なら、ニートじゃ釣り合わないしね!


ルヴォワールで働くのはとても楽しくて、新しく分かった事が色々ある。

ケーキを(中でもプリン)作っている時の義夜さんは非常に怖い。というか真剣そのもの。近寄れないオーラがびしびしで、逃げ腰になったのを覚えている。だけど逃げた私を見て更に怖くなったのは言うまでもない。

それだけ一生懸命なんだなぁと呟くと『千陽への想いの証だからな』とふんわり微笑まれれば周りの従業員達と一緒に赤くなり、腰が砕けて逃げられなかった。

従業員の女の子達の輪の中に無事入れて貰え、忙しさの合間に他愛もない話をして盛り上がった。…専ら義夜さんの事を聞かれるけど。彼女ら曰く、『彼はアイドルなので安心してネタ提供してね』だそうで。

私達の世話を焼いてくれた成瀬さんは滅多に店には顔を出さず、各地を飄々と回っているらしい。それでもあのプリンに近いものを作れるんだから凄い。その腕を披露すればいいのにね。




「今日は帰りが遅くなります、と」


お店が終わり、時計が8時を指す頃お母さんにメールを送った。

今日は義夜さんとデートなのだ。

店の前で待っていると、カランと扉が開く。振り返れば黒のコートに身を包んだ美しい姿。


「あ!ギィ!」


ばふ、と自分の口に手をやる。またやってしまった。


「ふ。また言ったな?」


微笑んで私の傍まで近寄ってきたと思うと口に当てていた手をとられ、反対の手で顎をくい、と掴まれ上を向かされる。

待ってと制止をする声が、薄い形のいい唇に飲み込まれていく。


「んぅっ」


ギィの時とは違い、熱い舌が私の口腔内に侵入する。

温かいものが中を滑っていく感覚にまだまだ慣れない。あらゆる箇所を探るように舐めとっていく。私の身体がビクリと震えると、そこばかり突いてくる。


「ぁ、やぁ」


何度目か分からない深い口付けに翻弄される。

息が乱れ足の力をなくし崩れかける頃、ようやくそれは終わりを告げる。


「俺は義夜。他の男の名前を出すとおしおきだって言っただろ」

「他…て、一緒じゃ、な…っ」

「もう違う。俺は人間だよ。まぁ、ギィと読めない事はないけど、だーめ」


ぺろりと舌を出して自分の唇を舐めるその姿に、ただならぬ色気を感じて顔を逸らす。毒されてなし崩しになりそうで怖い。本気で怖い。


「じゃあ行こうか。おいで、千陽」


大きな手を差し出し、私の望んだ世界に連れて行ってくれる。


安っぽいファミレスに、温かいご飯。デザートを頼んで自分達のが美味しいねと笑ったり、ジュースで乾杯したり。

キラキラとライトアップされた公園を手を繋いで歩きながら他愛もない話をして。

ベンチに座って空を見上げ、星の名前を当てていく。手には携帯、検索した画面は手放せない。

キラリと夜空の星が黄色く光ったのを見て思い出す。

あの黄金の竜の事を。

ちらりと義夜さんを見ると彼もそう思い出していたのか、ふ、と微笑まれる。


「…俺がこうやって再び思い出せたのも、あいつのお陰なんだろう。名前を呼ばれた時、頭の中で黄色く光ったよ。すまない、と」

「ふふ、やっぱりいい子だったんだね」

「子って…。あいつにそう言える奴はいないぞ」


くすくすと笑いあって、手を握って肩を寄せ合う。記憶を共有するかのように、互いを交わらせるかのように。


こういった普通のカップルがするような事を、義夜さんは惜しげもなく私にくれる。

結婚を拒んだというのに、変わらず優しくしてくれる。

ごめんね、と呟くと頭をくしゃくしゃと撫でられて抱きしめられた。


「なんで謝る?俺幸せだけど。今この瞬間に一緒にいれる事が何よりも嬉しいのに、謝られる理由が分からないな」


変わらず頭を撫でる感触に、うっとりと目を瞑る。


「うん、私も幸せ。幸せでごめんね?」


ぎゅっと服を掴むと手が頬に伸びてきて、私を見つめる顔が近づいたと思った時、私の携帯が鳴った。


「…邪魔された」

「あ、はは…誰だろう…て、お母さんからだ」


確認すると、画面には『別に明日でもいいのよ(^_^)b』という文と共に不穏な顔文字がつけられていた。

親が言うセリフかー!と慌てて携帯を閉まっても時既に遅し。すり、と頬を撫でる手の主を見上げればにっこりと微笑む美貌の男。


「俺ん家来る?」




有名パティシエの部屋は、さぞお洒落で広くて綺麗な部屋なんだろうと思っていたら全くの真逆だった。

築20年程の6畳1DKにここぞとばかりに荷物が展覧されていた。私の部屋と変わらなゲフンゲフン。


「どうした?」


まだ玄関に突っ立っている私に首を傾げながら聞いてくる。どうやらこういう所には気が回らない人種らしい。

完璧な見た目を持っているのに、こういう抜けている所があると可愛く思ってしまう。ギャップ萌えというやつだろうか?それとも色ボケだろうか?


「あー…そっか、座る所がないな。ベッドにでも座ってて」


お茶入れると言って台所に立って湯を沸かし始めた。

言われた通りお邪魔しますと言ってベッドに腰掛けた。辺りを見回すと、ケーキの本や参考書、脱ぎ捨ててある見覚えのある服などがあって、本当にここで生活してるんだなぁと思ったら嬉しくなった。


「や、あんまりキョロキョロ見ないで。…汚くて恥ずかしいっていうものが今ようやく思い知った」


ほんのり顔を赤めると湯のみに淹れたお茶を差し出してきた。

ありがとうと受け取って飲むと、美味しかった。こういう所はちゃんとしているんだなとくすくす笑うと、更に顔を赤くした義夜さんに額を小突かれた。


「恥ずかしくなんかないよ。このままでいいの。義夜さんがここにいるんだなぁって実感できる」

「俺はお前がここにいるってまだ信じられないけどな」


湯飲みを取られ、肩を軽く押されたかと思うと背中には柔らかい布団の感触。


「よ、義夜さ…!?」

「そして俺のベッドに千陽がいる。それだけで頭がおかしくなりそうだ」


ギシ、とベッドが軋み、義夜さんが私の上にのしかかり、鼻と鼻が触れ合うくらいに距離が縮められる。


「ま、待って…!私言ってない事あるの…!」

「…何?昔男がいたとか言うのか?」

「そうじゃなくって!まだ新品!あああ、じゃなくて、あの、えっと…」


何と再び目を覗き込まれる。


「私の身体…普通じゃ、ないの。遠くまで見えるし、今だって耳をすませばルヴォワールの時計の音も聞こえる…っ。食べなくても生きていけるし、私、あの日義夜さんを見つけに走って行ったの。握力も測ったら凄いと思うよ!?それでね、こ、子供も出来にくいかもしれな―――」

「それで?それは千陽でなくなったという事なのか?」

「っ」


するっと私の髪の毛を一房掴み、口付ける。その間も赤茶の瞳は私を見据えたままで、逸らす事は許されない。私に愛を囁く唇は、髪から額へ、額から頬へ、そして頬から唇へ。


「どんな身体でもいいじゃないか。千陽は千陽。俺の店に通って、木苺のプリンを美味しそうに頬張ってた、今は同僚で恋人の、俺の可愛い大好きな女の子だよ」


それに昔と逆になっただけじゃないか、と再び唇が落とされる。

おしおきではないキスは、更に糖度を増したように私の身体を溶かしていく。


「子供が出来にくい、か。―――本当にか?」


ニヤリと笑い、角度を変えて触れた事のない場所を探して深くなる。頭がじぃんと痺れてうっすら涙が浮かんでくる。


「ふ、ぁっ」


それを見つけた義夜さんが涙を指ですくったかと思うと、目を細めて頭と腰に手を回し更に荒々しく貪ってきた。

深くなるキスと義夜さんから漂う甘い匂いにうっとりしていると、唇を離した義夜さんが熱っぽい瞳を向けて囁く。


「…お前から甘い香りがするのって、かなりクるな」


同じ香りを纏っている事に嬉しくなって、両手を背中に回す。甘い香りが一層濃くなった気がした。

落ち着きかけた私とは反対に、回されていた腕に更に力を込められて頭はベッドに沈み、浮いた身体は義夜さんにピッタリと重なる。きっと布越しに再び私の騒ぎ出した煩い心臓が伝わっているだろう。

口の中に流れる吐息が心を震わせ、流れてくる唾液が喉を潤し私の一部となっていく。


好き。


それ以外の言葉が見当たらない。


「千陽、千陽。好きだ。好きでたまらない。お前が欲しい。俺に頂戴―――」


唇を離し、荒くなった息と共に与えられる言葉。


「私も、大好きだよ。義夜さん」


壮絶な色気を出し全身で私を求める目の前の人に、離さないでと服を掴んだ。



ねぇ、義夜さん。

あの甘い夢の続きを見せて。




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