赤の頭巾をかぶったあなたは・・・まさか!? パ~トとぅ?
俺(神谷紡)と委員長こと平和島が教室に着くとまばらに人がそろいつつあった。
「ね?だから言ったでしょ」
「間違えなかったな」
そう言ってそれぞれの席に向かう。俺は自分の席に着くと目の前で小人がぶすくれたまま、こちらを睨みつけていた。
「おう、おはよう」
「・・・なんだよ」
歯をむき出したまま、犬のように唸る。
「・・・ぐるる」
「あ~あ、今日は飴玉持ってきすぎたんだよなぁ」
「はっ」
「だれか食べてくれる人いないかなぁ」
「じゅるっ」
「・・・食べたいか?」
「わん!」
「じゃ、お手」
「わん」
「おかわり」
「わん」
「それ」
「きゃん」
園児はうまそうに飴玉に食らいつく。見てて飽きないな、こいつ。
俺はとりあえず、飴を投げるづけながらHRまでの時間を過ごした。
「おはよう。朝のHR始まるぞ」
『は~い』
全員がいましがた入ってきた男性教諭の声で静かに席に着く。彼の名前は土師来隆司。鋭い眼光にきっちりとしたスーツがチャームポイント(?)だそうだ。
先ほどまでにぎやかだった教室が何故ここまで、彼の一言だけで静まり帰ったかというと彼の教育方針に大きな理由がある。
その名も『絶対なる教育』。彼が許さないものは必ず排除するといった教育方針で、色々と噂が立っている。たとえば、授業中に早弁をしている女子のご飯に「さくらでんぶだ。ありがたく思え」と言ってピンクのチョークの粉をぶっかけたり、ゲームを校内でしていた男子集団にあえてオンライン対戦で財産をすべて奪い去った後に没収したり、その他エトセトラエトセトラ・・・(クラス内の女子が嬉々としながら話してたよ)
とりあえず敵にはまわしたくないな。
「おい、神谷」
「はい・・・なんすか」
「園児を席に着かせろ」
何故、俺なんだと心でつっこみながら園児の前でヤンキー座りをして目線を合わせる。
「おい、園児。ゴーホーム」
「なんでお前に命令されなきゃいけない」
「昼にケーキをやる」
「ハイ、イエッサー」
敬礼をしてすぐさま席に戻る園児。あいつにとって甘味は絶対らしい。なんというプライドの低さ。
「まったく、飼い主ならきちんと躾しろ」
軽くこぼした一言にイラッと来たが、それを無視して俺は静かに席に着いた。
「では、さっそく一時限目を始める」
その声で静かに学校は始まった。
そのあとも静かに授業は進み、いつの間にかお昼となっていた。
「おい、ケーキよこせ」
「ほれ。今日の分」
俺はクーラーボックスからワッフル仕立ての簡易ケーキを園児に手渡すといつの間にか園児の周りに女子が集まり始めていた。
「いいな、えんちゃんばっかり」
「うわぁ、うまそう」
「じゅる」
女子はたいてい遠目にケーキの批評をする。平和島同様クラスの女子は俺のことを不良視しているため、実際に声をかけてくる奴は平和島ぐらいだ。
「うん、神谷君はやさしいね」
「なぜ?」
「必ず、お菓子を用意してるでしょ」
「まぁな。お前も食うか?」
「うわぁ、本当?神谷君のおいしいから好きよ」
「あと、これ。ミニワッフル。低カロリーだからダイエット中のやつでも食えると思う。あいつらにやってくれ」
「さすがだね。しかも、クリームまで付いてる」
「たまたま、材料が余っちまったからな」
「まぁ、そういうことにしといてあげる。でも、なんで自分で渡さないの?」
「ん?まぁ、俺が行っても恐がるだけだろ?」
「そんなことないとおもうけどなぁ」
「ほれ、さっさと行け」
「は~い」
平和島は女子のグループに入りこむと女子たちが嬉々としてワッフルを食べていた。少しばかり何も考えずその集団を見ていると背中に衝撃が
「モテモテだな。この不良」
俺のことを堂々と不良だというのは土師来教諭とこの男ぐらいだ。
「なにしにきた、五輪」
この男は五輪康。クラスに一人入るだろ、バカだ。よく土師来教諭につかまっている。
「俺にはないの、つぐ」
「ねぇよ」
「ぷー」
俺は五輪を無視して、昼飯を食い始めた。うん、美味いな。さすが俺。
「あ、そういえば、あの噂聞いた?」
「なんの?」
「おまえんちの近くの公園で二足歩行のオオカミが女の子探してるんだと」
「なんだそれ?」
「いや、俺もただの噂だと思うけど・・・一応、耳に入れとこうとね」
「・・・ただの噂だろ」
「まぁね。でも、もしみたら写メしてね」
「・・・いやだよ」
そんな馬鹿げた話をしていたらいつの間にか昼休みは終わってしまった。急ぎ気味で弁当を片づけ、次の授業の準備をした。
そのまま、学校の一日は平凡に過ぎていった。
「おし、帰ろうかつぐ」
「俺はバイトだ」
「また、本屋」
「しょうがねぇだろ」
「まぁいいや。ばいばい」
そのまま別れ、俺はバイトを閉店時刻までして帰路についた。その頃には空は真っ黒だった。
「そういえば、五輪が変なこと言ってたな」
それは俺の家の最寄りの公園。少しの好奇心で公園の中に足を進めてしまった。それがいけなかった。
「お前は赤ずきんを知ってるか」
うしろから聞こえてくる渋い声。振り向くとそこには茶色い毛に全身を包んだ二本立ちのオオカミがいた。
「・・・しらねぇよ」
「はっ、あいつは最悪だぜ。人の腹を切り裂いて毛皮にしやがった」
「それはお前が赤ずきんを食ったからだろ。しかも、腹を切ったのは狩人のおっさんだ」
なぜ、俺はここまでオオカミと流暢に話してるんだろうか。自分の冷静さに自分でも驚きだ。
「お前も赤ずきんの味方をするのか」
「そうじゃないけど」
「赤ずきんの味方は全員おれの敵だ」
そう叫び俺にオオカミが大きい口を開けて俺に食らいつこうとする。俺も終わりだな。そう思った時だった。
「いつまで根に持ってるの。そういうのは嫌われるわよ」
オオカミの顔面に入り込むきれいな蹴り。俺の視界に入ってくるのは小さな女の子。
金髪で、碧眼で、赤ずきんをつけた女の子。
「あたしの名前は赤ずきん。世界平和のために絵本の世界から来てやったわ!!」