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「畜生!畜生!!畜生!」
俺はディアブロの屋根を叩きながら叫んだ。
腰に差してあるM3913には4発、予備の弾装はもう無い。
助手席に座っている10歳のターゲットは涼しそうな顔をしてコークを飲んでいる。
(何で、いつも俺はこうなんだ?)
俺はこの10歳のターゲットと共に依頼人、ターゲットの護衛両方に追われている。
「なぁ、コークを飲むのも良いけど、お前は一体・・・」
俺は問い詰めても無駄だと悟り、ディアブロの運転席に戻った。
今回はディアブロの性能に助けられたが、次に襲われたら、たった4発の9mmパラベラムでこいつと俺を守らないといけない。
おまけに俺のディアブロは真っ赤なボディにSVと入っている。
「こりゃ、弾薬の補充と車が必要だな。」
折角、3十万ドルも払って買った愛車を手放すのは惜しいが、死にたくは無い。
「ねぇ、コークが無くなったわ、次はピザとダイエットコークにして。」
「それにこの車狭い。次はもっと広いのにしてよ」
口を開けば相変わらず高飛車なお嬢様。
「わかったよ、次のレストランで一服着けようや、な?それまで寝てろよ、もう22時だ。」
「嫌、まだ眠く無い。」
そう言いながら、ラジオのチューナーをいじっている。
相変わらずの雨だ。
MRのディアブロにはキツイが、相手も多少は似たような感じだろう。
そうこう考えている内にショボいファーストフード店を見付けた。
「ここで良いかな?」
お嬢様に聞く。
「良いよ、お腹減ったから。」
中々可愛い所を見せる物だ、と思いながら、スイングウィングドアを跳ね上げる。
「ん?降りないのか?」
「ドア開けてよ、このドア重い。」
やれやれ、お嬢様は仕方ないか、と思いながら跳ね上げてやる。
「このミックスピザとダイエットコークね。」
「俺にもピザ分けてくれよ。」
店員を呼んで、ピザとダイエットコークを頼む。
俺はその間、ラッキーストライクに火を着けた。
「ねぇ。」
「うん?」
「煙草止めてよ、臭いんだから。」
「そいつは失礼。」
何で、何時も女の尻に敷かれてしまうんだ。
しばらくすると、ピザが来た。
「あなたの分ね。」
と言って分けている。
どう見ても8切れ中1切れしか無い。
「全部食べられるの?太らない?」
と、冗談を飛ばしたつもりだったが、まともに取られたらしく
物凄い目で睨まれた。
「冗談だって、まぁ食えよ、俺の奢りだ」
言ってる間に食っている。
(まぁ、しばらくは運命共同体だから良いか)
20分もしない内に7切れのピザを胃に収めていた。
「寝床の確保が必要だな、モーテルで良いよな?」
「この小汚いスポーツカーから出れるなら良いわよ。」
(おい、俺のディアブロが小汚い?休みの日は毎回洗車してるのに?)
「じゃあ、決まりだな。」
一々、怒っていたら、俺の身が持たない。
「パパとママは心配して無いのかい?無断外泊は早過ぎると思うが。」
「良いよ、あなたと私を殺そうとしてるのはパパの部下だから」
「え?あ〜、確かにガードは俺を殺す気満々のマッチョマンばかりだったけど、お前を殺すって?」
「違う、私を誘拐するようにあなたに依頼したのはパパ、ガードもパパの部下だけど。」
いよいよ話がややこしくなってきやがった、何故自分の娘を消す必要がある?保険金か?
いや、それだけならわざわざ俺を使わなくても、いくらでも方法はある、何より世界有数の大企業の社長だ、保険金なんて、3ヶ月分の給料にも満たないだろう。
では、何故殺す必要がある?
「なぁ、パパは何でお前を殺そうとするんだい?」
「今は言えない、言ってもわからないだろうから」
悲しげに歌うようにして呟いた。
「わかった、今は聞かないよ、お前が喋りたくなったら言ってくれ」
そんな感じでハイウェイを80マイルで飛ばして、モーテルに入った。
一番安い部屋を取り、シャワーを浴びる。
「ベットは一つしかないから、お前使えよ。」
「え?」
「え?じゃないだろ、女の子を優先するのは男として常識だ。」
そしたら、モジモジしながら言ってきた。
「一緒に寝てくれないの?」
「は?」
今度は俺が驚く番になったようだ。
「だって、こんな知らない所で一人で寝るなんて怖いし・・・」
俺はつい吹き出してしまった。
「ハッハッハッハ、わかった、隣で寝てやるよ。」
「な、何がおかしいの!!」
ムキになって言ってくる。
「いや〜、可愛い所もあるもんだな〜と思ってさ、まぁ添い寝してやるから早くベットに入れよ。」
プンプン怒っているが、ベットに入っている。
「ねぇ、早く来てよ」
俺はサイドボードにM4013とディアブロのキーを置いてベットに入り込んだ。
「おやすみ。」
「あぁ、良い夢みてくれよ。」
明日はどこに逃げようとか考えている内にお嬢様は寝入っていた。
(良い寝顔じゃないか、事情はどうあれ、命に変えても守るか)
そうして俺も夢の中に落ちていった。
「う、う〜ん」
明け方なのに起きてしまった。
「眠くねぇ、手入れでもするか・・・」
サイドボードに乗せてあるM3913を分解した。
30分は掛けてじっくりと磨いていく。
その後はディアブロの調子の確認と飯の調達だな。
まぁ飯はあいつが起きてからでも遅くは無い。
後ろのボンネットを開けて、6リッターV12エンジンを覗いた。
(ちょくちょく見ないと駄目だよな)
快調なのを確認して部屋に戻った。
「よう、起きたか。」
「ん、おはよう」
「ちょっと煙草吸うから外に居るぞ、その間に着替えて・・と言っても着替えなんか無いか。」
「良いよ、部屋で吸っても、その代わりまたご飯食べさせて。」
何というか、下手な交渉人だな。
「飯なら何時でも食わせてやるから、な?」
「ありがとう。」
「じゃあ、とっとと出ようや。」
そうして、二人でディアブロに乗った時
(ん?あそこに止まってるメルセデスは何処かで?)
と思った瞬間に俺はニュートラルから1速に繋いだ。
後2秒遅かったら、二人で蜂の巣になっていただろう。
「なぁ、あのマシンガンで撃って来た連中は勿論、あれだよな。」
「そう、だと思う。」
狭いリアウィンドウを覗いたら、やはりあのAMGチューンのEクラスだった。
「躍起になってるな、どうしようか?速いのは好き?」
答えを聞く前に、6速から5速に落とし、一気に加速した。
流石、5.5リッターV8エンジンにスーパーチャージャーだ、10m後ろにぴったり付いてくる。
「良い事考えたけど、乗る?」
「もう、ここまで来たら乗るよ!」
120マイルオーバーの攻防でお嬢様は顔が真っ青になってる。
「じゃあ、一旦ハイウェイを降りるぜ。」
そうして、工場跡の一角にディアブロを停める。
「良いか、俺らには4発の銃弾しかない、わかるよな?」
互いに頷き。
「上手くやってよ。」
俺のディアブロを見付けた出したEクラスがやって来た。
(よ〜し、もうちょい来い。)
エンジン音を聞きながらじっと、フロントのトランクに入っている。
(いくら170cmとはいえ、狭いな。)
そうこうしてる内にEクラスのエンジン音が消えた。
(よし、お嬢様、上手くやってくれよ。)
と、祈っていると当然の如く話声が聞こえてくる。
「あんた達、何しに来たの?」
「お嬢様、何を言っているんですか、お父様も心配しておられますよ」
(たく、映画の時間はそろそろ終わりにしないとな。)
「おい!ギョエァ!?」
やってしまった、何て馬鹿な男なんだ俺は・・・
「キャハハハハハハ!!」
「いてぇ!!マジでいてぇ!!!」
「もう、何やってんの!」
何故だ、何故攻撃されない、あんな馬鹿をやったのに。
「いてて、まさかロックを外したと思ったら、しっかり掛ってやがってた。」
頭を押さえながら、外に出る。
そこには、MP5とM92で武装していた男2人が倒れている。
「何で、この人達寝てるの?」
「それは内緒!」
吐き捨てるように言って、後ろを向いてしまった。
2人の首筋を触って、脈をみる。
「死んではいない、か。」
さて、このEクラスはどうしようか、貰うわけにも行かないし、壊すのも勿体無い。
「ま、こいつらも、帰るのに足は必要か。」
とりあえず、弾とMP5は貰って行くとするか。
(あ、こいつらウィンじゃん。フェデラルじゃねぇならいらね。)
「どうぞ、お嬢様。」
そう言い、ドアを跳ね上げる。
「だんだん、わかってきたじゃないの。」
「そりゃ、48時間も一緒にいりゃな。」
そう言って、イグニッションキーを捻る。
「とりあえず、銃は当面入手しなくて良いな。この目立つ車を変えるか。」
「その前に、ご飯食べたいよ。」
「そうだな、飯・・・ん?」
リアウィンドウを見ると、物凄い速さでコルベット2台が追いかけてくる。
(不味い、やつは最新のZ06じゃねぇか、ディアブロでも難しいな。)
「また、飛ばすからな、飯はその後だ。」
「えぇ!?」
4速から5速に上げ、水温を見る。
流石ランボルギーニだ、高回転は安定しているな。
コルベットはスピードを落とさずに、真後ろに着いた。
そして、真横に寄せてきて、窓を開け出した。
「ヤバいぞ、伏せるんだ!!」
バリバリバリバリ!!
耳をつんざくような激しい撃発音。
(糞野郎が、アサルトライフルかよ)
ギリギリで避けたが、次は穴開きチーズより酷いだろう。
「仕方ねぇ、ちょいと反撃してやるか。」
ディアブロの狭い窓から手を出して、MP5を撃つ。
(まるでファントムだな)
流石に9mm程度じゃ、頑強なコルベットのボンネットは破れないようだ、と思ったら。
ドギャシャーン!
1台目のコルベットはいとも簡単に隣を巡航していたトーラスとドゥビルを巻き込んで、ポップコーンになった。
(ありゃ、簡単に終わったな、ショボいドライバー使うからだ)
「なぁ、生きてるか?」
と、助手席を見たら、お嬢様は祈るようにしている。
(やっぱりあれは怖いよな)
2台目のコルベットはやる気が失せたのか、マシントラブルで一気に失速している。
「ハッハ、お嬢、やったな、確認殺害戦果1だ。」
「あ、うん、何かとてもお腹減った。」
儚く笑いながら言った。
何故だろう、この哀しい運命共同体の少女がとても愛しくなって、頭をワシャワシャと撫で回した。
「んん。」
目をつむったまま、大人しく撫でられている。
「よし、何を食いたい?ピザか?フライドチキンか?」
「日本食食べてみたい。あなた日本人でしょ?」
「良い目を持ってるじゃないか、そう、俺は国籍こそ違うが日本出身だ。」
「じゃあ、美味しい日本食知ってる?」
「う〜ん、基本的にファーストフード世代だったからな〜、やっぱり、定番の寿司にするか。」
「お寿司は食べた事無いから、行ってみたい。」
「じゃあ、行こうか、この辺はたまに走りに来るから、結構わかるぜ。」
「わがまま、言ってごめん。」
本当に申し訳無さそうに言う。
「気にするなって、娘が出来たと思えば良い物さ。」
「ありがとう。」
また頭をワシャワシャと撫でながら。
「礼は言いっこ無しだぜ。」
そう言って、一直線に伸びるハイウェイから降りる。
飯を食って、一服着ける。
「煙草は控えた方が良いよ、それと髭剃ったら?」
「うるさいぞ、髭はモーテルに着いたら剃るさ。」 「髭剃った方が絶対格好良いって。」
と、笑いながら言ってくる。
俺はムスっとしたまま、ステアリングを握っている。
4マイル程走った所でガスを補充して、モーテルに泊まった。
シャワーを浴びつつ、髭を剃っている、お嬢は先にシャワーを済ませていた。
「あ、男前になった。」
「なぁ、明日はパパに会いに行こうと思うんだけど。」
そしたら、急に凄く怯えた表情で。
「嫌、絶対に嫌!!」叫ぶように言った。
「嫌がるのもわかる、けどな、お前を守る以上、何で親父に殺される必要があるのか気になるだろ?」
優しく、諭すように言う。
「でも、行ったら、あなたも私も殺される。」
「大丈夫さ、俺もお前も殺させはしないさ、な?2回も襲われたけど、2人で助けあったじゃないか。」
「それは・・・」
「確かに、一回目に襲われた時に、俺はモロにドジった、でも、相手は倒れていたな、そこは聞かないでおく。」
黙りこくってしまった。
「まぁ、こういう事は明日考えようや、今日はもう寝よう、疲れた。」
「うん、私も疲れた、もし良かったら、また昨日みたいにして。」
「あぁ、わかった。」
二人でシングルのベットに入り込む。
「手を繋いでも良い?」
「良いぜ、お嬢が安心出来るなら。」
小さくて暖かい手が包んでくる。
「じゃ、また明日。」
「あぁ、良い夢見てくれよ。」
お嬢が寝たのを確認してから。
「もしもし、俺だよ、ディアブロと交換出来る車はあるかな?」
「パワーがあって、AWDのセダンが欲しい。アウディのS6かクワトロポルテ辺りを頼む、あぁ、わかった、明日取りに行く。」
「ちょっとした訳有りでな、うん、いつも済まない。」
携帯を切り、お嬢の手を再び握る。
幸せそうな顔をして寝ている。
(あそこの親父なら最低でもA4かE3504マティックは用意してくれるだろう、それにしても今日は疲れた、早く寝よう。)
そうして、俺は夢の中に落ちて行った。
登場人物に基本的な名前はありませんが、今後の状況では
加筆します。