ショートショートI「とけない」
「おい、お前がとけない魔法を使えるって本当か?」
戦士が酒場のカウンターで魔法使いに声を潜めて聞いている。
「あぁ、俺も信じられないが、確かに師匠にそう言われたんだ」
「まさか」
戦士は鼻で笑うと、魔法使いは剥きになった。
「よし、それなら賭けてみよう」
そう言って魔法使いは金貨を投げ出すと、戦士も金貨を投げ出す。
「で、どうするんだ?」
「今からあの男へ十分後、死ぬ魔法をかける」
魔法使いはそう言うと、ちらりと後ろの老人に目を向けた。
「十分後、死ななかったら俺の負け、死んだら俺の勝ちだ」
「乗った!」
戦士がそう言うと、魔法使いはニヤリと笑って立ち上がる。この勝負もらった、と考えた。なんせ師匠の折り紙つきだからな……。
彼は老人に近づいて、呪文をかけた。
「今から十分後にお前は死ぬ」
老人はきょとんとした顔で彼を見つめていた。
十分後、老人はピンピンしていた。そして別れ際、魔法使いの席へやってきてこう告げたのである。
「おい、若造、ハッタリをかますにしてももう少し上手いやり方があるじゃろ。あれじゃ、人を説くこともできやせんぞ」
いかがでしたでしょうか?
卑怯だ、という方は文句を言う前にもう一回読み直して下さい。
「解けない」とは一言も書いていません。ただ「とけない」と書いてあるだけで。