肝試し
今は良識ある中年男性の大山さんが、不良青年だった頃の話。
ある日悪友の一人が父親の車を持ち出して来て、どこかに行こうと言った。
季節は真夏だったため、“出る”と有名な城址公園に肝試しに行く事になった。
そしてそこに行くには、やはり出ると有名な国道を通って行く事にしたという。
公園も国道も夜はかなりヤバいという話だったので、仲間の一人がお守り代わりに“見える”下村君という友達も連れて来て、男ばかりの五人で夜中の一時頃に出かけた。
そして国道の、出ると言われている峠道にさしかかると……
車の中が異様に冷えてきた。
クーラー強過ぎるよ、と仲間の一人が言うと、車を持ち出した仲間が運転しながら
『この車ボロだからこんなにクーラーきかないんだけどなぁ』
と不思議そうに言った。
山道だからかなと誰かが言ったが、車内はすでに半袖シャツ一枚では寒いくらいになってきていて、皆妙な顔をした。
すると下村君が
『いるよ』
と言った。
それに皆、ホントかよ、どこにだよ、と言うと、草木が鬱蒼と茂って道の両脇が崖に面しているその崖の上に
『沢山の人影が並んでこちらを見てる』
と下村君は怯えて言った。
皆は両脇の崖を見上げたが、黒々とした木の影が見えるばかりで、らしきものは見えなかった。
いねぇよ、そんなの見えねぇよ、と言うと下村君は
『本当にヤバいから帰った方がいい』
と蒼い顔をして座席に縮こまってしまった。
それに皆は顔を見合わせ、恐怖が伝染した運転手の仲間が
『どうする?』
と半分怯えながら聞いてきた。
が、出てきていくらも経たないうちに逃げ帰るのも、と思っていると
下村君がうわっ!と悲鳴をあげた。
驚いて皆が見ると、下村君は気を失っていた。
あわてて下村君に呼びかけたり頬を叩いたりしていると、下村君は突如飛び起きて、わめき声をあげながら暴れだした。
その力は尋常なものではなく、狭い車内は大変な騒ぎになったという。
暴れる下村君を皆で押さえ付けようとしていると、後部座席の運転席の後ろにいた下村君はあろう事か運転している仲間の首を後ろから掴み、締め上げた。
車はあらぬ方向に飛び出して、ガードレール直前で止まった。
皆で車の外に下村君を引きずりだし、なおももがいている下村君をなんとか押さえ込もうとしていると……
またも突如、下村君はくたりと動かなくなった。
白目をむき、泡をふいたまま。
皆はその下村君を車に放り込み、救急病院に連れて行った。
「下村って奴な」
大山さんは言った。
「しばらくそのまま入院してさ。何日か様子がおかしくて、精神科にも診てもらってたんだって。でな」
下村君の友人が後から本人に聞いたところによると……
崖の上に沢山の人影が並んでこちらを“見て”いて、下村君はこれはヤバいと思っていたら、その人影の中から
ざんばら髪を振り乱した、まさしく時代劇に出て来る様な“落武者”の首が飛んで来て、フロントガラスを突き抜けて車内まで入ってきたのだという。
下村君はそれに驚いて悲鳴をあげた……
までしか覚えていないらしかった。
次に自分の意識が戻ったのは入院してからしばらくの事で、病院の廊下をフラフラとしている自分にはっと気がついた、のだとか。
「でさ」
大山さんは言った。
「その後、他の奴等もみんな具合が悪くなってさ。熱が出たり体調が酷く悪くなったり。俺はえらく腹を壊しちゃって。しばらくはお粥食べてもモドして」
医師に診てもらった仲間は、それぞれ夏風邪だとか夏ばてだとか言われたが、もちろん皆はそうは思えなかった。
「で、それだけじゃなくてさ」
更に大山さんは言った
「乗って行った車な。持ち出した奴が車庫に戻してさ、そのまま部屋で寝てたら、朝になってそいつの親父が凄い剣幕で部屋に怒鳴り込んで来たんだって。
どこで車をあんなにしてきたんだって怒るから、わけわからなくてさ、親父と一緒に車庫に行ったんだって。そしたら」
車のフロントガラスには大きく派手に放射状のヒビが走り、車体のあちこちが凹んで、泥や血の様なものが付いていたという。
「車庫に入れた時は、そんなになってなかったのに。フロントガラスにヒビなんて入ってなかった。俺も見てるし」
まさか人を轢いたんじゃ、という父親に、仲間は
『山道を走ってたから、知らない間に狸でも轢いたかも』
などとごまかしたが、こんなになってるのに気付かないわけが無いだろう、とこっ酷く叱られたとか。
「何かすっげーモノだったのかな。俺はまるで見てないんだけど。
結局皆で御祓いに行ってさ。その程度で済んでよかったなって、神主さんにも叱られちゃって」
これも若かりし頃の冒険談かな、と大山さんは苦笑していた。




