僅かな鬱を夜に溶かす話
鬱というのは、世界に黒いインクを垂らしたようなものだ。
全ては暗く、重くなる。
明日はマシになっていますようにと願い、目を閉じる。
柔らかな布団の感触。麻のカバーに足を滑らせる。
最早自分と同一視してしまいそうなこの居。
脳内は痺れによって満たされた虚無。
不快。
常に不快と不幸の信号が流され、纏わりつき。
「眠れない」
諦めをつけるために口に出す。
本格的に鬱に落ちていけば、何もできなくなる。
まだ入口にいる。
のそりと、全てを刺激しないように、空間が止まっているのではないかと世界が錯覚してくれるように身を起こす。
落ちるようにベットから抜け出す。
しばし休む。
枕元の床に安置したペットボトルを掴む。
常夜灯のオレンジが中のミネラルウォーターに反射して光っている。
嚥下。
世界は気持ち悪い。
しかしながら。
しかしながら、どうにか、奇跡的に、肉体は動いてくれるようなので外出することにした。
上着を引っ張り出す。
布は音を立てる。
激しいストレスと歓喜。
裸足にサンダル。
ポケットにスマホだけを突っ込み、外へ繰り出した。
煙によって空気の悪くなった田舎だ。
それでも、冬の夜というのは澄んでいる気がする。
冷えに救われる。
生命維持のためにハイになるのか、気持ち悪さが僅かに薄れゆく感覚。
歩く。
歩ける。
足はシリコンの下にコンクリートを感じる。
(中略)
夜を抱いて眠った。




