きらきら森のたぬきさん
人里離れた森の奥に、いつもみんなの注目を浴びる、うさぎさんがいました。
うさぎさんは走れば風のように速く、どんな難しい問題もすぐに解いてしまう、とても賢いうさぎです。そのためいつも森の人気者でした。
朝日を浴びるたび、ふわふわの白い毛はやさしく光り、まるでキラキラ輝いているようでした。
森の仲間たちは口々に言います。
「うさぎさんってすごいな」
「あんなふうになれたらいいのに」
そして、そんなうさぎさんに、誰よりも強く憧れていたのが、たぬきくんでした。
たぬきくんは走るのが遅く、動きものんびりしています。
茶色い毛は森になじみすぎていて、目立つことはありません。
みんなの輪の端で、たぬきくんはいつも、キラキラしているうさぎさんを見つめていました。
ある日、たぬきくんは思いきって、うさぎさんに声をかけました。
「ねえ、うさぎさん。
どうしたら僕も、うさぎさんみたいに足が速くて、頭が良くて、白い毛がキラキラした人気者になれるの?」
うさぎさんは、少し驚いたように目を丸くしてから、やさしく微笑みました。
「たぬきくん。キラキラってね、みんな同じじゃないんだ。ひとりひとり、色も形も違うんだよ」
「きみは、ぼくと同じじゃなくていいんだ」
たぬきくんは首をかしげました。
その言葉の意味が、まだよくわかりません。
すると、うさぎさんは続けました。
「たぬきくん、自分だけのキラキラを探してごらん。
必ず、きみの中にもあるから」
たぬきくんは、その日から森を歩きながら考えました。
自分にできることは、なんだろう。
歩いているうちに、たぬきくんはいくつかのことに気づきました。
茶色い毛のおかげで、森の中ではすっと景色に溶け込めること。
幼いころからこの森で遊んできたから、どんな入り組んだ道でも迷わず歩けること。
試しに、仲間たちと遊んでみました。
かくれんぼをすると、誰にも見つかりません。
道に迷った小鳥の子を巣まで案内すると、まるで魔法みたいに、すぐにたどり着けました。
「ありがとう!たぬきくんはすごいね!」
そう言われたとき、たぬきくんの胸の奥が、ぽうっと温かくなりました。
こんなふうに、誰かの役に立てたのは初めてです。
「僕は、うさぎさんみたいに速くも賢くもなれないけど、森の中では、誰よりも上手に隠れられるし、道だって、迷わずに案内できる。それが、僕のキラキラなんだ」
その言葉を聞いて、うさぎさんはとても嬉しそうにうなずきました。
「たぬきくん、ほらね。やっぱり、きみだけのキラキラは、ちゃんとあったでしょう」
それから森では、動物たちがそれぞれ自分の得意なことを見つけ、困っている仲間を助け合うようになりました。
速く走れる者も、
遠くが見える者も、
静かに支える者も。
みんなのキラキラが集まって、
森は前よりもずっと、あたたかくなりました。
やがてその森は、
「キラキラの森」
と呼ばれるようになりました。
キラキラとは、誰かと比べるものではありません。
キラキラとは、誰かみたいになることでもありません。
自分にしかできないことを、大切にすること。それが1番大きくて綺麗なキラキラなのです。
その夜、森にはやさしい風が吹いていました。
たぬきくんは、小さな丘の上に座り、森を見渡しました。
遠くでは、うさぎさんが仲間たちと楽しそうに話しています。
その白い毛は、月の光を受けて、やっぱりきれいでした。
でも、もう胸は、ちくりとしません。
たぬきくんは、自分の足元に伸びる影を見つめました。
丸くて、少し不格好な影。
けれど、それは確かに、ここにいる自分の形でした。
「これが僕なんだ」
そうつぶやくと、胸の奥で小さな光が、そっと瞬きました。
誰かに見せるためじゃない。
比べるためでもない。
森は静かに眠り、キラキラは、今夜もそれぞれの場所で、音もなく、やさしく輝いていました。




