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メビウス  作者: ののせき
5/7

1‐5

「それで高丸、お前のカードは何処にあるんだ」

「はぁ…。しょうがない立つか…」

「………」

 高丸が重い腰を上げ、正座したが、そこから足り上がる気配が無い。動かなきゃダメか? みたいな顔をするものだから空は、襟を掴んで持ち上げ、立ち上がらせた。

「全く…。急かすんじゃない。旅は長いんだろ?」

「…それは、まぁ」

「旅はゆっくりやるものだと思うぞ?」

「それで? 何処に在るんだ?」

「問題が1つある」

「なぁに…」


「その場所は、呪われている」


「……呪い?」

 その空の声はまるで、それに対して懐疑的ではなく、むしろ理解に深いようだった。

「知ってるのか?」

「あ、ああまぁな。大昔、この土地に来た魔王を撃退したのがそれだと伝わっているよ」

「……それは妙だな。この土地の情報は門外不出。というか、外に出ようとしたヤツだって居なかったはずだ。外は魔物だらけだしな」

「…黒蜜って子は?」

「アイツは、アホだったからな」

「答えになってねぇよ」

「要するに、同じ事が出来るって事だ」

「…………なるほど」

「今までの俺だったら、勝てなかった。でも今なら」

「……そういう事か。分かった。付いて行くよ」


 【クロカミ】に伝わる【魔王襲撃事件】。


 【魔王】はかつて、人間がこの近隣に潜んでいる事を察知し、群れを率いて訪れた。4人の眷属を携え、獣も、木々も薙ぎ倒しながら着実に包囲が完成する。だがある一人の人物が魔王の前に出た。それは邪悪なオーラを放ち、弱い者から順にまるで魂のみを削り取られたかのように命を落としたのである。


 しかし魔王を殺すには至らず、それは闇の中に眠り今なお復活の時を待っていると噂されている。


 以来、そこは呪われた土地として広まり、人間も、魔物も誰も近付く事は無かった。


「皆が死んで、街を護る呪詛が壊れたんだ。でも、死して尚、強い怨念が未だに残っている。…不思議だな。伝わらないはずの情報が伝わっているなんて」

「噂程度だったんじゃないか? なんならここに来ようとした人間だって少なく無かったはずだよ」

「…………かもな。金丸はこの土地を棄てて大国に逃げる方向で考えていたみたいだ……し!!!」

「……………お…」

 空の身体を抱き寄せてその身体を胸に押し付けた。空の後方、金属が弾ける甲高い音が響き、火花が散る。


「気配なんて全く…」

 一人、着流しの男が立っていた。白銀の刃を携え、鞘に戻すとスッと姿が消えた。

「呪詛だ。【白夜辻斬幽霊びゃくやつじぎりゆうれい】」

「一体誰が…」

「金丸だよ。アイツは死ぬ直前までこの場所に呪詛を撒いていた」

「……それほど、カードを取り戻されたくなかったんだな」

「そうだな。アイツは分かってたんだよ。もしも、王の座を揺るがす者が居るならば、俺だって」

 語気、彼の纏うオーラ、その全てが違う。邪悪で禍々しく、鋭い。

「傍を離れれるなよ。空」

「あ…うん…。分かった」


黒蜜…


「?」


黒蜜はどこだ…


「…………」


お前は…俺の妻になる…。未来永劫、俺の子を成す。一体いつまで俺を待たせるか…。


「…金丸か?」

「……ああ。つまり、やっぱり黒蜜は此処には居ないのか…」

「確かに」

「いつから…。いや、探してるって事はやっぱり生きてる…。でもなんで」

「会って聞くしか無いんじゃないのか?」

「…それはそうだが」

「まぁ君なんてデッキに同じカードを2枚入れちゃうド素人だしなぁ…」

 ドンッ

 高丸の身体が前方に倒れた。

「すまない。やっぱり俺は此処で死ぬよ」

 空はそれを赦さず、また襟を掴んだ。

公式占(こうしきせん)じゃ無くて良かった……よ…」

「どうした?」

「…前」

 長い首がうねる長い髪の女が視えた。魔物ではない。それを視ただけでそれが、【妖怪】であると分かる。

「【妖怪 轆轤首】」

「あんなに鮮明に視えるものなのか…。生きてるみたいだ…」

「心臓が無ければ生者じゃないなんて、人間の傲慢な考えだ。良くも悪くも、死して尚生きる者はある」

「心って事ね」

「ふっ。臭い言い方だけどな」

「どうする?」

「……どうするって。押し通るさ。俺に出来るのはそれだけだ。謀略とか、作戦とか、そんなものは苦手でね」

「……全く。調子付いちゃって」


 そこは、建物の最上階。柱に支えられた広間に、黒い2つの渦が視えた。


「……あれは」


「金丸が備えた2体の魂。領域を護る呪いだ」


い…つ…まで…一体…いつまで待たせる気なのだ…。黒蜜…。


 中央に現れた。人面の黒鳥。涙を流し、慟哭している。

 【妖怪(ようかい) 以津真天(いつまで)


 長すぎる首がうね、蜷局を撒いた。長い髪の女は袂から刀を抜く。

妖怪(ようかい) 轆轤首(ろくろくび)


お前…もしや高丸か…? 


「……ああ」


 それらは、叫んだ。


ああああああああああああああああ!!! なぜお前が生きて!! 黒蜜!! 黒蜜なのか!! アイツは!! アイツは俺の妻になり!! お前の前で!! アイツを鳴かせ!! 俺の子を産み! アイツの前で、お前を殺し!! アイツの全てを手に入れる!! その為に!! その為にお前を未だ生かしていたのに!!! 黒蜜は何故!! くろみつ…は…。お前は…やはり殺しておかなければならなかったのか…。いつまで…いつまで俺は、この街の王であらねばならんのだ…。


 誰を見ても、何処を見ても、まるで、鏡を見ているような気分だった。


『金丸様。おはようございます』と毎朝起こしに来る女も、シミだらけで、腐った瓜のような顔をした女だが、鏡を見れば、自分も同じような顔をしている。


『兄様。今日はとても天気が良く、気持ちがいいですね』

 双子の弟が居た。顔の肉が垂れた、不細工な弟だった。だが、鏡を見れば、そっくりな顔が映し出される。だからいつの間にか、鏡を見るのが嫌になった。


 あの子だけは、あの子達だけは違った。


『高丸? ねぇって高丸? ちょっと手伝って? デッキ作るの』

『え? 今ちょっと…』

『ねぇ義父さん義母さん!! 高丸貸して!?』

『はぁいはい。良いよ。行ってらっしゃい』

『ちょっとお母さん!』

『良いじゃない。仲良くおやり』


『たっかまーるくんっ。お外行こ?』

『俺には無理だって』

『手。握ってあげるからほら。アンタはアタシの婚約者なんだからさ。エスコートって言葉知ってる?』

『知らない』

『じゃ教えてあげる。こうすんの』

『ちょ!?』


あの笑顔を…。あの顔を、お前の死で、涙に濡らし、俺が汚し…。俺のモノに…。


 そっくりな顔をした誰かが吐露した。


『高丸くん。可愛いわね』

『黒蜜さんとほんとお似合い…』


『あの子達が、王だったら良かったのに…』


 この時、【悪路王 高丸】という存在に対し、金丸は激しい、堪え難いほど激しい殺意を抱く。


『金丸。金丸よ。良いか。これだけは、絶対に、忘れないでくれ。これだけは。この街に居る者は皆、偉大な先祖の血を引く、家族だ。誰一人、決して、誰一人、例え過ちを犯そうとも、殺めるなどあってはならん。金丸。分かるか』


 この時、金丸は呪われた。


『…………………………はい。お父様』


『ねぇ聞いた? 高丸君』

『なになに?』


 屋敷の者は時に、密かに高丸の話をするようになった。


 彼は年相応に顔立ちもハッキリしていて、髪も綺麗に生え揃い、艶やかに陽の光を跳ね返す、綺麗な身なりをしていたから、注目の的だった。

『占い、かなり上手なんだって』

『黒蜜さんといつも練習してるものね!』

『黒蜜さんが習ってる側なんだってよ?』

『えー…良いなぁ…。なんで私じゃ無かったのかなぁ…』

『私は貴方が羨ましいわよ。高丸くんとはめっちゃ近縁の従姉でしょ? ね。家庭ではどうなの?』


 屋敷の最上階から、いつも見ていた。黒蜜は高丸の膝に座って、高丸は彼女の髪を結う。終われば入れ替わって、黒蜜が高丸の髪を結った。二人が重なって寝そべって、高丸の肩に額を添える黒蜜の手が高丸の反対側の肩を撫でながら抱き寄せる、何人も寄せ付けない二人だけの領域を作っている様。


 憎くて憎くて堪らない。


「!!!」


 ユラッと、高丸が一人、2つの魂の中央を歩いた。不敵に笑み、余裕をぶちかまし、紙に手描きしたたった一枚のカードを指で抓む。


ああああああああああああああああああ!!! 憎い!! 黒蜜はまだか!! なんで俺の元に帰って来ない!!! いつまで!! いつまで俺を待たせる…。俺はいつまで…。


「【花舞春風舜撃剣かまいはるかぜしゅんげっけん】」


 桜吹雪をすり抜ける、縦横無尽の斬撃が二つの魂を切り裂いた。


 嫌な気配が突如消える。夕日に照らされる桜吹雪の中央に立つのは、血に汚れた少年が一人。


「ったく。君さ。4年前においでよ」

「4年前って。8歳だぞ」

「君…やけに若いな…」

「ピチピチだよ」とかそんな風に言って鼻を吊り上げるものだから、高丸は試しにその頬を抓ってみた。

「確かに」

 納得の張り具合だ。揉んだり、撫でたりしていると、空の顔がどんどん熱を持った。

「は、早くカードを見つけないとさ!!」

「…分かってるよ」

 扉が開かれた。そこは、倉庫となっている。あまりに古く、そして広い。

「見つけられる?」

「任せろ」

 埃を立てながら、物を蹴って、先に進む。可能性として燃やされている事も考えたくらいだったが、それは本当に乱雑に、農具の上に放り投げられていた。


「俺のカードをこんな雑に…」

「それが、君のカード?」


 エイの革を用いて作られたデッキケース。埃を被っているが、未だ衰える事も無い頑丈な作りだ。中を開いた。空は視た。


「!?」


 ヘドロ。中に人骨のような者が突き出している。高丸はその中に手を入れ、引き出した。


「カード…」

(幻覚…)


「…改めて聞こう。【心得(こころえ) (くう)】」


「?」


「お前はこの【悪路王 高丸】に、何を望む」


 勇者候補 【心得(こころえ) (くう)

 占星術師 【悪路王(あくろおう) 高丸(たかまる)

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