第六章 終
死は、ひとつずつ、等間隔に訪れた。
リヴォル監察官。
メイベル・クローディ。
サラ・フォンティーヌ。
レナルド・エルヴァイン。
そしてファーマス執事。
最後に、名もなき旅の魔術師。
いずれも、“密室”で死んだ。
いずれも、“黒い花”とともに。
残されたのは、ひとり。
クレイグ・ファーンのみ。
霧が晴れたのは、七日目の朝だった。
空の色が変わり、風が通り、舟が近づいてくるのが見えた。
嶼を後にするクレイグの足元に、マンドラゴラの根が数本、乾いた音を立てて転がった。
彼は、それを拾わなかった。
船上で、迎えの男が尋ねる。
「……島では、なにが?」
クレイグはしばし黙し、やがて微笑を浮かべた。
その笑みには、悲しみとも達成感ともつかぬ、奇妙な静謐が宿っていた。
「いくつかの問いが、解けただけです」
そう言って、彼は空を見上げた。
遠く、嶼が霧に呑まれてゆく。
静かに、そして完全に。
その日の午後。
王都の禁術師ギルドに、一通の封書が届く。
差出人はクレイグ・ファーン。
だが、その中にあったのは報告書ではなく――一冊の論文だった。
題名はなかった。
ただ一行、扉の裏に記されていた。
「錬金術的存在論における自己完結的実験について」