第三章 死
発見されたのは、温室だった。
館の裏手にひっそりと建てられた小さなガラス張りの棟――
誰かがふと「ここは使われていないのでは」と口にしたことが、発見のきっかけだった。
倒れていたのは、薬品商のメイベル・クローディ。
両目を見開き、口から泡を吹いた状態で、花壇の隅に崩れ落ちていた。
指先には引っかいたような傷。胸元には裂けた布。
そして何より、その口元から漂う、ほのかに甘い香気。
サラがつぶやいた。
「……毒草の香り。吸引型、あるいは気化溶剤によるものかもしれない」
温室内の気流は完全に閉ざされていた。窓は閉め切られ、外から施錠。
内部には多数の薬草が吊され、いくつかは瓶詰めされていたが――
ひとつだけ、木箱の中で枯れかけた植物が異彩を放っていた。
「これは……フェル・マンドラゴラ……?」
クレイグが眉をひそめる。
だがそれは、昨夜見た乾燥花ではなかった。
生の状態で保存されていた、まだ呼吸しているかのような濃紫の葉。
レナルドが口を挟む。
「なあ、ちょっと待て……昨夜の事件と、これ、繋がってんのか?」
沈黙が支配する中、サラが硬い声で応じた。
「少なくとも、“花”はこの嶼に複数存在している。死の意味を繋げるのは、まだ早い」
クレイグはその会話の背後で、ひとつの可能性に思いを巡らせていた。
――花ではない、この島そのものが試験管なのではないか?
その仮説を口にすることはしなかった。
ここで言葉を重ねるよりも、今はただ、黙って観察するほうが賢明だ。
誰が何を見て、何を見ようとしないか。
沈黙のなかに現れるもののほうが、真実に近いこともある。
そして夜。
嶼に再び沈黙が降りる。
今夜は、誰が、どこで、どのように死ぬのか。
あるいは、自ら選んで“消える”のか。
見えない手で盤上に並べられた駒が、少しずつ欠けてゆく。
だがまだ誰も気づいていない。
盤を動かしているのが、誰なのかを。