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孤絶の嶼  作者: 吸坂路庵
2/6

第二章 集

 朝が来た。

 だが、それは夜の延長のような、薄く濁った光だった。

 嶼を覆う霧は夜のあいだにさらに濃くなり、空も海も、地平も境界を失っていた。


 


 食堂に集まった六人は、椅子に腰かけながらも、誰も箸をつけようとはしなかった。

 昨夜、リヴォル監察官が密室で喉を切られて死んでいた。

 状況はきわめて異様だった。室内に争った形跡はなく、窓も扉も魔術で封じられていた。

 そして何より、死体の傍らに咲いていたのは、絶滅したはずの魔草――フェル・マンドラゴラ。


 


 「この島は……魔に染められている」

 最初に口を開いたのは神学博士のサラ・フォンティーヌだった。

 彼女の声は平坦で、まるで何かを確信しているかのような静けさを湛えていた。


 


 「霊的な封印があるわ。この館にも、島全体にも。これは、外の世界とは違う……異界だわ」

 「馬鹿を言うな。理屈が通らん。これは殺人事件だ」

 レナルド・エルヴァインが声を荒げた。

 「誰かが――この中の誰かが、奴を殺した。それ以外に考えようがあるか!」


 


 誰もが顔を見合わせる。

 そして次の瞬間、その視線は一斉にひとつの場所へと向けられた。


 ――クレイグ・ファーン。


 


 「錬金術……あの黒い花。あなたしか知らないでしょう?」


 


 クレイグは、ゆっくりと首を横に振った。


 「そう思われても無理はありません。しかし、私はこの嶼に来たのは皆さんと同じです。

 私が知りたいのは、この事件の真相――それだけです」


 彼は相変わらずの落ち着きでそう言った。

 だが、彼の目の奥では、微細な光が、見えぬ計算を重ねていた。


 


 やがて沈黙が落ちた食堂で、執事ファーマスが静かに朝食を片付け始めた。

 言葉を発さず、まるで命じられたように動くその様子に、誰かがつぶやく。


 「……あの男、生きてるのか?」


 


 そしてふたたび、嶼に沈黙が降りる。

 密室の殺人、得体の知れぬ島、姿を見せぬ主催者、正体不明の執事――

 すべてが、ひとつの意図のもとに並べられた、錬金術的構成物であることに、まだ誰も気づいていない。


 


 その日の午後、ふたつ目の死体が発見される。

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