第四章:裏切りの桂馬跳び
これはAIが書いたものです
「殿。真壁氏より使者が参っております」
政繁の報告に、小田氏治はわずかに眉を動かした。
真壁氏――常陸国の隣領を治める国人衆。かつては小田家の配下でありながら、近年は佐竹氏に接近している動きがあった。
「通せ。だが、言葉には気をつけろ。“詰ませる”気配があれば、すぐに引かせろ」
現れたのは若き使者。礼儀正しく頭を下げるが、その目にはどこか軽薄な光があった。
「我が主、真壁氏幹より申し上げます。小田殿の武略、見事にて候。されど、我らの領は佐竹殿に接しており、立場は微妙。今後の行く末について、そろそろ腹を割って話し合う時期かと――」
氏治はその言葉を遮り、静かに告げた。
「佐竹との連携について話し合いたい、という意味だな?」
「い、いえ……そのような、ただ、同盟の条件といいますか……」
「条件など、既に布かれている。それを見抜けぬ者は、この乱世では桂馬のごとく跳ねて死ぬ」
使者は黙り込んだ。その瞳に一瞬、狼のような光が宿る。――こいつは、刺客か。いや、それよりも悪質な“間者”だ。
氏治はそっと懐から一枚の布を取り出す。それは真壁氏の密書、すでに内通していた村の者から渡されたものだ。
「“佐竹に付くべし。小田の首を取れば所領の半分をやる”――貴様の主の本音はこれだな?」
使者の顔が一気に蒼ざめた。
「捕らえよ」
政繁の号令と共に、衛士たちが飛び込む。使者は短刀を抜くが、すでに囲まれていた。
「貴様ら、知恵を軽んじすぎたな。俺を“元の氏治”と思っていたのなら、大間違いだ」
その夜、真壁氏は佐竹との通謀が露見したことで孤立する。
だが氏治は動かなかった。処罰も攻撃もせず、ただこう告げた。
「許す。ただし、一度きりだ。桂馬は斜め前にしか跳べぬ。戻れぬ駒は、進むしかない」
この寛大な措置は、周囲の国人衆に衝撃を与えた。
――裏切り者に情をかけるとは、愚かか。
――いや、それだけ“読む目”があるということだ。
小田家への信頼は、静かにだが確実に高まっていた。
政繁は夜の城内で、ぽつりと呟いた。
「殿は、将棋で言うところの“桂馬跳び”を許した。普通の大将では、到底真似できぬ柔と剛よな……」
氏治は将棋盤を前に、次の布陣を考えていた。
「戦国は、将棋よりも複雑で、面白い。駒は裏切り、盤は動き、風が読みを狂わせる。それでも勝つには……全てを読むしかない」
そして、氏治は初めて「天下」の二文字を盤上に書き加えた。