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15歳のエッセンス

作者: ぽてと未来

未熟な男子中学生の本当に本当にしょうもない日常を観察してきた。その結果を記す。

 「山手線ゲーム!」


 今日も始まった。気温25℃、快晴、午後4時、住宅街の中にある公園。都会でもない田舎でもない普通の中学校の帰り道だ。


 「今日のお題はーーー?」


 今日は部活のある隊員が居ないのでいつもより人が多く、8人ほどだ。ここで説明しておくと、隊員とは同じ校区内に住んでいる仲のよい友人らのことだ。そのコミュニティを「ONT」(オランウータンの英語名、orangoutanから引用、深い意味はない。)と名付け、謎の脅威に対抗する組織として結成された。



 要するに、単なる中学生の遊びだ。



 「今日のお題は、国語の教科書の文章にありそうなタイトルー!」


 一人がその場で思いついた適当なお題を提示する。一同は屋根付きのベンチに座りお題に沿う回答を考える。


 「それじゃあ、いきます!」


 頃合いを見て、誰かの合図によってゲームが開始される。ゲームは手拍子と共にリズム良く進んでいく。


 「おでかけ」


 「日本人は和食が嫌い!?‐食べ物と"生き方"日本人を探る‐」


 「公園とぼく」


 即座に考えたとは思えない、高度な回答が見受けられた。


 「ファンタスティックえびふらい」


 これは駄作だ。こんなギャグセンスの持ち主が組織に居たなんて。傑作による爆笑と、駄作に対する嘲笑が混ざり合う空間が生成される。

 

 この空間は彼らにしか作れない存在とも言えるが、意図して生み出せるものでもない。


 「じゃあ、次のお題はーーーーーーーーーーー」


 しかし彼らはそんなことなど意識せずに、ただ純粋にゲームを楽しむ。


 やがて外は薄暗くなり、各々が芝生に積まれたリュックサックの山から自分のものを回収し、帰宅へと向かう。


 「うへ、重すぎっ」


 何人かが少し苦しげな声を発する。今は定期テストの一週間前なので、対策に必要な教材を持って帰る必要があった。


 「肩痛ぇー、誰か持ってくれー」


 重たい鞄を背負い、隊員らはそれぞれの家へ帰った。









 「テスト勉強してる?」


 昨日よりもやや気温が高い昼休み、いつもの組織が学校のホールにあるベンチに集まっている中、そんな質問が出た。


 「してない!」


 「してる人いるのー?」


 そりゃそうだ。テスト週間に公園に寄り道をして、日が暮れるまで山手線ゲームをしている集団がテストの勉強などしているわけがない。


 「半年後には受験だろー、みんなどこの高校行くん?」


 最近の異常な暑さで忘れていたが、もう秋の始まりと言える時期だ。来年の春には別々の学校に行き、こうして時間を過ごすこともなくなるかもしれない。


 「まあ、無難に公立の苔石高校かなー」


 「俺は近いし私立の西山高行く」


 意外にも、この集団の学力は中の上といったところで、それなりに進路の選択肢はある。


 「結構高校はバラバラになりそうだな」


 「ONTは不滅だよ、絶対に」


 隊員の一人である元生徒会長の小岡がそう言うと、なぜか言葉の重みを感じる。小学校から変わらないメンバーでやってきた彼らにとっては、15年の人生で初めての別れのようなものだ。


 「てか今日、工藤居なくね?」


 「あいつなら昨日蟻食って体調崩したから休み」


 「それにしても、テスト面倒だー、なにもわからないし」


 急に話題が戻る。中学生の会話は好きなように構築されていくため、展開が目まぐるしい。


 「どの辺がわからないの?」


 「全然全部」


 RADWIMPSみたいな返答が聞こえたところでチャイムが鳴った。5時間目は1組が技術の時間で木工室へ移動なので、やや急ぎ目に解散された。









 「テスト終わった―――い!」


 中学校の定期テストなど、終わってみればあっけない。高校のように膨大な範囲が出ることもなく、多数の教科があるわけでもなくて比較的楽だ。


 「みんな帰ろうぜー、あれ、今日バスケ部あんの?」


 「おう、テスト期間終わったしな」


 そうして、部活の無い隊員のみで帰宅していく。もちろん、公園には寄る。


 「今日は給食の牛乳と小豆ゼリーをこっそり持ち帰ってきましたー!」


 大人にとっても小学生にとっても、持って帰ってきた牛乳など飲み物でしかないが、中学生にとってそれは可能性の宝箱である。


 「これどうする?」


 「牛乳とゼリーを混ぜて一週間埋めるとか?」


 くだらない。だが、満場一致で可決となる。今だけは意味のないことをすることに意味がある、人生において唯一無二の時期なんだ。そんな根拠も論理もない思想を引っさげて、土を掘っていく。


 「これ、一週間後まで掘り出すなよ」


 「え、来週これ飲むの?」


 「まあ罰ゲームとかじゃね」


 まったく何のためにそんな危険を冒すのか。誰一人そんな疑問を抱くことはなく、牛乳と小豆ゼリーの混合物は人が通らなそうな公園の隅に完璧に埋められた。


 「しっかり埋めたことだし、帰るとするかー」


 重い鞄を背負い、公園を出る。今日は少し秋の風だ。


 「明日の体育、自由時間らしいぞ。」


 「よっしゃ!バレーやろうぜ!」


 中学生によくありがちな会話が繰り広げられる。


 「んじゃまた明日」



 今日も夕焼けの空の下でいつものように解散した。


 






 今日が「ONTの隊員で帰る残り回数」が100から99となる、そんなちょっとした節目の日だったとは誰も知らずに。

観察結果

何度も繰り返された日常が、その日常を生きた経験が、価値のある存在だったと気づくのはずっと後であり、何も知らない中学生らは今日もいつものように過ごしていた。

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― 新着の感想 ―
ちょっと前まで中学生やってましたが、わかるわかる!ということがあって読んでいて楽しかったです。 クラスメイトの男子達の会話の話題が確かにコロコロ変わってたなーと思い出したりして、懐かしくも寂しい気持ち…
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