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 なんて、こんなに仰々しくしていたら、笑われてしまう。クー姉の語ってくれた思い出は身近で、素朴で、魔王を倒したり、世界を救ったりするようなものではなかったけど、その小さな冒険譚は確かに、幼い俺にとって最高に面白い話だった。例えば、ある日彼女は夕焼けの塗り方について話してくれた。


「夕焼けってさ。町が紅葉しているみたいに見えない?」


 彼女は展望台のベンチに座り、オレンジ色に染まった町を眺めながら俺に話しかけていた。


「そう? 考えたこともなかったけど」


「私はさ。小学生の頃、葉っぱが赤く染まるのは秋の神様が緑の葉っぱを絵の具で赤く塗っているからだと思ってたんだよ。だから、夕焼けも町を誰かが赤く塗っているんだと思ったんだ」


 クー姉は苦笑して、こちらを向いた。栗色の長い髪の毛が微かに揺れる。夕陽が反射したのか、彼女の美しさ故か、一瞬感じた眩しさに瞬きをしてしまった。


「小さい頃の私も中々可愛いでしょ?」


「小学生だったとしても、中々ない発想を持っていたことは確かだね」


「今だって負けてないよ」


 彼女は首を傾げ、得意げに口角を上げた。それが面白くて、吹き出さないように笑いを堪える。そんな俺の姿を見て、クー姉も満足したらしい。


「まぁ、だから小学生の私は町を塗っているのが誰か突き止めようとしたんだ。ほら、葉っぱはいつ赤くなるのか分からないけど、夕焼けなら毎日夕方に見れるでしょ? それなら町を塗る画家を見つけやすいと思ったの」


 彼女の濃い茶色の瞳はきらきらと輝いていた。まるで、当時の胸の高鳴りをそのまま思い出しているようだった。


「私は張り切って、昼前から展望台で見張ったの。少ないお小遣いで買った双眼鏡を覗いてね。紅葉が秋の神様なら、夕焼けは夕方の神様かな? なんて考えながら。瞬きもせずにじっと町がオレンジ色に塗られるのを待っていたの」


「画家は見つかった?」


「ううん。飽きて猫と遊んでいるうちに町の色は変わってた」


 クー姉はそう言って、風に乗って落ちてきた真っ赤な紅葉を捕まえた。指でくるくる回すと放り投げる。葉っぱは地面に積もった紅葉達の上に乗っかった。


「それでも、私は諦めなかったよ。次の日、西の方に向かったんだ。水筒を持ってね。夕陽が西の方から差しているのは知ってたから、町を塗る画家は西からやって来る。つまり、画家の家は西の方にあるってことでしょ?」


「それで、その画家の家は見つかったの?」


 俺は再び先を促した。


「それがさ。どれだけ西に行っても夕陽は遠くにあるんだ。少なくとも、赤葉見町に家はないね。それに、探しているうちに気付けば町は夕焼けに染まってた。私までオレンジ色に塗られてたのに、その画家の姿は一切見えなかったんだ。余りの速さに私は画家捜しを諦めたよ」


 俺は彼女の愉快な勘違いを聞いて、今度は一緒に探してみたいと思った。理科の授業で夕焼けの仕組みは習ったし、町をオレンジ色に塗る画家がいるわけがないと知っていたけど、クー姉と一緒に探し回るのはきっと、とても楽しい。

 俺は今度一緒に探しに行かない? とクー姉に聞いたが、彼女の返事は素っ気なかった。


「えー。そんな画家がいるわけないじゃん。コウ君理科の授業で習わなかった? 夕陽が赤いのは太陽の角度のせいで、赤い光りだけが目に届くからなんだよ?」

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