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次の日、俺は塾をさぼって展望台へと向かった。秋月には、今日は歯医者に行くと嘘を吐いた。彼女は絶望していたが、月曜日に会ったばかりの友人より、八年来の友人の方が優先だ。塾が始まって一週間も経たずにサボるなんて、我ながら不良じみていると思った。
けれど、俺はクー姉に会うことが出来なかった。展望台へ続く階段が閉ざされていたのだ。階段の前に『この先工事中』なんて書かれた立て看板が置かれていたのではない。こちらは塾をサボってきているのだ。看板くらい無視して進む。そう。俺は確かに階段を上っていたのだ。展望台へと続く階段なのだから、上り切れば当然展望台へと着くはずだ。けれど、俺は階段を上り切ることが出来なかった。疲れたからではない。長い階段だが、終わりはあるし、今まで毎日のように上り切っていたのだ。今までなら。
——階段の終わりがなくなっていた。
これが、階段が閉ざされた理由だ。終わりのない階段を上り切る事なんてできない。クー姉の仕業だと言うことは容易に想像がついた。こういう不思議なことが出来るのは世界広しといえども彼女しかいない。赤葉見町は狭い町なのだから尚更だ。
彼女は塾をサボるような不良と会うのが嫌だったのだろうか。いや、こんなこと中学生なら誰でもやるし、こんなことくらいで不良になれるわけでもない。
答えは分かっていた。昨日の質問のせいだ。彼女は過去を知られるのを嫌っていた。俺はずっと怖かったのだ。聞いてしまったらクー姉が消えて仕舞うような気がして。そして、案の定、彼女は俺の前から消えた。この場合、消えたというか、それを確認することすら出来ないわけだが。十五夜の月も一緒に見れなかった。