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プロローグ 思い出 1

何年か前に書いた、懐かしい思い出のような話です。

 俺は布団に横たわり、カバーで覆われた蛍光灯を眺めていた。窓が開いているのか、秋の涼しい空気に頬を撫でられる。きっと、窓の外では紅葉した木々が青空の下、穏やかに揺れているはずだ。辺りは静かで、この世にはもう俺しかいないのではないかと思うほどだった。孤独に、穏やかに。人はこうして死んでいくのかもしれない。

 死について考えるときに、必ず思い出す人がいる。彼女は思い出の中にだけいる幻のような存在で、銀河鉄道999で言っていた、青春の幻影という言葉が相応しい。


「私はさ。人に優しく出来る大人になりたかったんだ。暴力なんて振るわないし、助けを求めている人を救ってあげられるような大人に」


 彼女は滅多に自分の未来について語らなかった。だから、その言葉は良く覚えている。彼女ほど優しい人もいないのにと当時の俺は思ったのだ。

 不思議そうに首を傾げる俺にクー姉は笑って言葉を続けた。


「いつかさ。私がいなくなっちゃった後にたまにで良いから思い出して。それで、私の代わりにコウ君にはそんな大人になって欲しい」


「急にどうしたんだよ。もう直ぐ死んじゃうような言い方して」


「あはは。ごめんって。そんなに怒らないでよ。ほら、そろそろ今年の秋も終わるでしょ? そしたら当分コウ君とは会えないからさ」


 クー姉は少し目を細めて、優しく俺の頭を撫でた。彼女はこれまで見た人の中で最も綺麗で、舞い落ちる紅葉のような独特の魅力を持っている人だった。俺は年上のクー姉に憧れ、彼女のようになりたいとすら思っていた。一時期、長髪にしてみたのもきっとその影響だ。

 彼女とは秋にしか会えなかった。それでも、数多くの輝くような思い出を貰ったのだ。別れから長い月日が流れ、俺も色んな思い出を抱えるようになったが、今でもあのとき貰った思い出を時々、綺麗な宝石を眺めるように光りにかざしてみる。


 思い出というものは死ぬときが一番抱えているのだ。


 俺が展望台でクー姉に会ったとき、思い出なんてものは二本の指でつまめるくらいしか持っていなかった。それでも、その頃の思い出を後生大事に抱えているのだから、分からないものだ。

 今でも、綺麗な夕焼けを見たときに思い出す。忘れられないあの景色。小学一年生の秋に見た、紅葉と夕陽で真っ赤に染まったこの町と、それを眺めるクー姉。栗色の髪が赤みを帯び、高校の制服は暗く闇に溶けそうになっているのに、彼女は安らかな顔でそれを望んでいるようにすら見えた。


「きっと、こんな楽しい時間もいつかは思い出に変わってしまう。そのまま放っておけば、さび付いて忘れちゃうと思う。だから、たまに思い出して誰かに話してあげて。そうすれば、思い出はいつまでも綺麗なままだから」


 思えば、出会った頃から彼女は自分がいなくなるということを意識していた。毎年秋になる度に記憶と変わらず、同じ制服を着て、同じ場所に、同じように現れる彼女と、いつか別れが来るということが上手く想像出来ず、クー姉がそんなことを言う度、俺は不思議に思っていた。

 でも、だからこそ。今、俺は語ろうと思う。思い出は語られてこそだと笑った彼女の為に。クー姉と出会った奇跡の為に。

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