6.保護司の男
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右記という男
ー保護司とは。ー
犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える国家公務員のことである。ただし給料は支給されない。 保護司法に基づき,法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員とされているが,その実ボランティアである。
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「ー右記さんは、今回が初めての保護司だと伺ったのですが、何かきっかけでもあったんですか?」
間借りしている会議室に、右記と名乗る男は背筋を伸ばしてソファに座っている。背もたれを使わず、前のめりに資料を眺めていたが、保護観察官にそう問われ、バツと勢いよく顔を上げ、はきはきと面接の時のように答えた。
「はい!人の役に立ちたくて!」
保護観察官はメガネをくいっと持ち上げ、男から視線を逸らした。
「そうですかそうですか。では早速説明しますね。今回担当していただくのがですね、鈴木よういちさんという方なんですけどね。今は34歳、8年前に、殺人の容疑で逮捕されています。」
「なるほど……」
鈴木という担当者は26歳の頃に、同級生の田所という男を殺したらしい。殺害方法はナイフでふたさし。明らかに殺意があり、犯行は計画的で死体は数日経った後の発見ということだったが、本人は犯行を認めており初犯ということで懲役10年という刑で済んだらしい。10年とは長いのか短いのか、と言うと、殺人の容疑は基本五年以上の懲役で、今回の殺人の場合は考慮が無ければ15年はあったと保護観察官は言う。さらに遺族はこれに納得がいかず控訴をし、結果は変わらず。
犯人は模範生ではあるが時折ぶつぶつと小声で何かを呟いているらしい為精神面での不安があり。
逮捕前での通院歴は無いが、刑務所で精神科を受診し「適応障害」と診断されたらしい。
控訴の結果が振るわなかったのも、この診断があるんじやないか、と遺族にしきりに責められた、と弁護士から聞かされた、と聞いている。確かに精神病は有罪か無罪かを左右すると言われているらしいが、果たしてどうなのだろうか。首を傾げながら男は考えた。
「遺族の方とは話しあいをしたんですか?」
「いえいえ、弁護士を挟んでのやりとりはあったらしいのですが、示談金等のやりとりは無いです。遺族の人達は、控訴が終わってからは特に何も言ってこないらしいんですよ」
「そうなんですか……」
ー加害者になるということは、誰かを犠牲にするということです。そこを含めて、我々は向き合わなくてはいけないのかもしれないですね。ーそう言う保護観察官の言葉に、男は涙を堪えて頷いた。
男は保護観察官の説明をひと通り聞きながら、時折うんうん、と相槌を打っていた。
「右記さん……いや、右記先生にはお会いして頂いて、環境調整をお願いします。」
「はい……!」
釈放の前に、住居や身元引き取り人がいるのかを調査する必要がある。
更生するために適切な環境があるのか。
監視ができる身元引き取り人がいるのか。
今回担当する人が、出所をする前に事前に調査するのが、保護司の仕事だった。
「調査報告書の記入はここはこの通りで大丈夫ですか?」
「はい、わかりました!」
この調査書の結果で、鈴木よういちの今回の出所が左右される。
男はメモ帳にびっしりとかかれた文字をもう一度読み返し、保護観察官に再度質問をした。
「大体報告書が出来てから数週間くらいはかかると思うけど、彼の仮釈放が決まったら宜しくね。」
「はい!こちらこそ頑張ります!」
鈴木よういちの仮釈放まであとーー