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サイコパス主人公  作者: 猫田ててて
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臆病な男は殺人犯

サイコパス主人公



サイコパス主人公1



 どさり、と人だったものが倒れる音がした。


 逃げなきゃ。僕は反射的にそう思った。


 血の着いたナイフを落としそうになった。僕は先程、人をナイフで刺した。これは現実だ。そしてあろうことか、刺された人物はたった今亡くなった。


 脈も無い。瞳孔も開いたままだ。心臓の音だって聞こえてこない。ああ、なんてこった。やっぱり死んでいんだ!僕は自己嫌悪に苛まれるが、やはり卑怯者の僕だ。すぐに証拠隠滅に取り掛かる。自分の指紋をきれいに拭き取り、遺体はカーペットに簀巻きにして、端の方に寄せた。フローリングには血は着いていないのでコロコロをかけ、クイックルワイパーで拭き掃除を入念に行う。そして血の着いたナイフをハンカチで拭き取り、荷物をまとめ、自首もせずに逃げることにした。簀巻きにすることに必死だったので当然仏さんになった彼には手を合わせることすらしない。なんて奴だ、と蔑まれるかもしれないが、幸いにも蔑む目撃者もいなければ、監視カメラも無い。


 僕はそのまま窓から彼の家を出ていき、その場を去った。

 あてもなくとりあえず逃げた。自宅はしばらく行けない。

どこへ行こう。海外に行こうにも僕はパスポートをもっていない。国内もすぐにバレてしまうはずだ。いっそのこと、近くのホテルに泊まってしまおうか。ぐるぐると思案しながら僕はしばらく走り続けた。


 僕は驚くことに、その場を去った後も、「自首をしよう」とは少しも思わなかった。


 罪悪感はあるんだ。それでも僕は逃げることを選んだ。自分のクズさに反吐が出そうだ。

 

 もっと驚くことに、その数日経ったあとも、僕は警察に捕まっていない。殺人現場からたった2km離れた漫画喫茶で、漫画を読んでいたり、ネットサーフィンをしていたというのに。


 人を殺しても、お咎めがないのだろうか?

 人を殺しても捕まらないことが、得なのだろうか?ヤクザ界隈では警察から逃げきれれば、勝利と言われているらしい。らしい、というのは中学の頃の同級生が自慢げに言っていた話しなので、詳しくはわからない。だから僕は曖昧言い方をするんだ。なんとも卑怯で向上心の欠けらも無い僕らしい。あの時は仲が良くもない知人に合わせて、確かにそうなのかもしれないね、と苦笑いで頷いてた。 人として終わってる、そう蔑んでいた気がする。だって、そうじゃないか。そもそも人を殺めている時点で人生負けている気がする。少なくとも亡くなった人1人分は迷惑をかけているんだ。そんな気がするよ、と、当時の僕は心の中で呆れていた筈だ。今は大義も覚悟も無く人を殺しているんだ。僕はとても駄目な人間な気がしてきたぞ。


 僕が「気がする」とさっきから曖昧な言葉を選んでいるのは、殺人現場のすぐ近くで、漫画を読みながらコーラを飲んでいる現状があるからかも知らないれない。今、僕は悠々自適に過ごしているのに、未だに捕まっていない。オカシイなあ。


 人を殺してもお咎め無し、なんて、あるわけないじゃないか。それじゃあ、自宅で警察が待ち構えているかもしれない、って思うかもしれないけど、自宅にも誰も来ない。僕は自分で仕掛けた自宅の監視カメラを何度も何度も覗き込んでみた。けれど、今まで通り僕の家に訪ねてくる人はいなかった。当然警察の人も家に来ていない。どうして僕の家は今も昔も誰も訪ねてこないんだろう。


 警察が家に来ていないことへの安堵と、少しの寂しさから、僕はスマホを置いて飲み物を啜った。


 そもそも死体すら未だに発見されていないのもオカシイ。ちなみに殺したのは同級生の田辺くん。

 僕と同じ26歳の会社員で、車関係の事務職員。

 普段の彼の仕事ぶりは分からないけど、少なくともここ数日は会社に来ていないはずた。亡くなっているんだから当たり前だ。それなのに何日も無断欠勤をする社員を、会社は放っておくものなのだろうか。


 それとも職場の無断欠勤が何日も続いた時点でクビなのだろうか。「田辺また無断欠勤かよ。もうクビでよくね?」とか同僚に悪口を言われているのだろうか。田辺くんのしわ寄せを、他の人が補っているのだろうか。だとしたら、とても悪い事をした。いや、殺人なんてとてもとても悪いことなのはもちろんわかっているけどさ。でも、じゃあなんで警察の人はやって来ないんだろうか。


 もしかして、田辺くんを殺したことは、そんなに悪いことじゃなかったのかもしれない。

 だって、悪いことをしたら必ず、バチが当たるもんだ。

 そうおばあちゃんに、ずっとずっと言われ続けてきたんだ。お天道様は、見ているんだ、ってね。

 実際その証拠に、僕はズルをして、バレないで得をしたことなんて1度も無かった。宿題を家に忘れました、と嘘を言えばバレてさらに怒られたし、制服のネクタイを忘れてジャージを上から羽織って誤魔化したら、バレて生活指導の先生に説教をされた。隣の席の関内にカンニングをされたら、関内はすぐに先生にバレてテストを0点にされていた。カンニングをされた側の僕も、何故だか放課後に一緒に怒られた。見る方が一番悪いが見せる隙を作ったお前も悪いんだ、と1時間くらい居残りをさせられた。あれから関内は留年が決まって、学年が上がった年の6月に退学をした。関内の友達に、僕は何故だか殴られたことを覚えている。


 悪いことをしても、見過ごされる事なんてあるんだろうか?僕はもう一度スマホの監視カメラを覗いてみる。やっぱり招かれざる客は来ていない。

 ついでにスマホで時間を確認した。


 丁度入店から後10分で、24時間。ここの漫画喫茶店では、24時間に一度、必ず精算をしなくちゃいけない。お会計のついでに僕は家に帰って見ることにした。レジの前は誰もいなくて、店員さんの呼び出しボタンを押した。

「はーい、お待たせしましたあ~お会計で宜しいでしょうか~」

「……あっ、はい、……よ、宜しいです。お願いします、」

 咄嗟に敬語になってしまった。店員さんが女性で思わずキョドってしまった。大学生くらいの人だろうか。ふと、なんだか昔からあまり人と会話をしていないことに気づいて、僕は泣いてしまいそうになった。

「……あ、あの~すみません、ここの……漫画喫茶って、お会計一日に1回しないと駄目なんですよね……」

「そうですね~当店では24時間後に連泊に関わらず会計していただいております。ああ、もしかしてもう一度は入り直しご希望ですか?」

「あっ、いえっ、ダイジョウブデス。そのまま帰ります、」

 なんの気なしに気になっていたので質問してみたけど、店員さんに、「書かれているだろ、読めよ」とな思われたらどうしよう。いや、ちゃんと聞いている訳だしそんなことはきっと思わない。うん。僕はさっさと家に帰って確かめよう。

 僕がお店を出ていくと、カウンターからイケメンの男性店員が出てきた。彼は先程の女性店員と何かを話しているようだった。


 僕はあのくらいの年頃の時、こうやって異性と話すことなんてなかった。


 キレイな青春を横目に僕は帰路に着く。もしかしたら、今日にでも逮捕されるかもしれないから、その眩さに余計に落ち込んだ。

 


 ※※※※※※※※


 

「あのお客さん、さっきからここを「漫画喫茶」って言ってたけど、ここってネットカフェですよね?」

「あー、うん。まあ、たまーにそういうお客さんいるけど、伝わるしあんまり気にしていないわ。」

「はあ、そんなもんですかあ」

「まあ俺が雑なだけなんだけどね笑」


 



 その言葉は、当然男には届いていなかった。



臆病な男は殺人犯

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