2:ユノの目的
・前回のあらすじです。
『旅人のユノがユニコーンを倒す』
ケルティア大陸。
王家ペンドラゴンが、その半分近くを統治する、盆状の大陸だ。
西方の宗教国家、北東につきでた半島と、王都よりさらに東に位置する険しい山岳部および高原地帯が、管轄外の領地にあたる。
極東は古くからの民族が住む、土俗の信仰厚い土地だった。もっとも、それもごく一部に限られたはなしだが。
現在この世界【メルクリウス】には、竜を絶対唯一の神と奉じる宗教がある。
実際にメルクリウス世界の支えがなんであるのかを信者は知るよしもない。が、【魔族】という、魔物の血を持つ人種に対して、彼らは全面的に排除の姿勢をとっていた。
その風潮は、いまや大陸のほぼ全土におよんでいる。
そんな時流のなかで、辺境とはいえ、信者らに【異端】と忌まれる土俗の信仰がのこっているというのは稀有である。
あるいは【精霊】という概念が、彼の教義にさえ不可侵の念を起こさせるのか、単に時間の問題なのか。
『ビビアンという精霊の女をたずねなさい』
大陸の東へユノを魔法で飛ばした魔女の言葉。
マーリンという大賢者のみちびきによって、ユノは延々東をさまよい歩いていた。なにせ――。
(よく考えたら、ビビアンって人がどんな見た目なのかも、どんな感じなのかも教えてもらってないもんなあ)
はーあ、とユノは息をついた。
途中に町や村があったため、休息は不足ない。怪物との戦闘もまた、レベル(戦いによって鍛えられる、肉体面での強さのこと)が三ケタに達しており、多少の強敵にも遅れをとることはない。だが。
(手がかりがないんだもん。てっきり、そのビビアンって人がいる町にでもワープさせてくれるかと思ったのに)
とぼとぼ。
土の街道を行きながら、ユノは心のなかでぼやいた。
〇
夕やけの濃くなった空に、白い煙がのぼっていた。
煉瓦で築いた塀のむこうに、ひょっこり煙突群がのぞく。
「また色んな人に聞かなきゃいけないのかあ……」
元来が人見知りのユノである。
日本にいたときには高校生の身分だったが、ひっこみ思案な性格のために、友人とよべる相手はひとりもいなかった。ばかりか、同級生の男子グループに目をつけられ……。
どんより。暗い気持ちにユノはなる。
故郷でのできごとも、もう二度と会うこともない親への心配も、ときに精神をすり減らすのに、かつての自分の名前だけはどうやっても思い出せない。
それが、ユノが【メルクリウス】に留まるために、妖精の取った措置だった。
夕餉の匂いがする。旅先で嗅ぎなれた、野菜スープの香り。
空気がすずしさを増す道を、ユノは空きっ腹に手をあてて歩いた。