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シンギュラーコード  作者: 甘糖牛
第三章
71/72

最奥で待つモノ

 気づけばロアとメリアは別の場所にいた。入ってきた入り口はいつの間にか消えている。

 そこは白い空間だった。上下四方見渡す限り純白で、余計な配色や混じり気は含んでいない。彼方まで続く白に終わりはなく、果ては到底見通せない。先ほどまでいた広間も非常に広かったが、こちらは明暗がない分さらに広く感じられた。

 そのまっさらな空間の中、前方のある一点に、一つだけ色づくものが存在した。


「当施設の踏破、心より祝福申し上げます」


 この場に似つかわしくない女性が、体の前で上品に手を重ね、ロアたちに向けて賛辞の言葉を送った。

 それは美しい女性だった。開かれた両目からは、翠晶のような美しい虹彩の輝きがこぼれ落ちる。両の瞳の間から下へ流れる鼻梁には、僅かな歪みも見当たらない。口元には魅惑的な唇が存在を主張し、白い肌は空間と同じく一切の不純を拒んでいる。優しげな目元と肩口で揃えられた神秘的な緑髪が、内包された性質を表すとともに、その美貌を存分に引き立てているようだ。

 美しいの顔だけではない。衣服で覆われた肢体の方も、均整のとれた完璧に等しいプロポーションを披露している。あえて奇形を好まない限り、難色を示せるものは一人として存在しないだろう。完成した美と形容するのに些かの迷いも必要ない、類稀なる美貌を誇っていた。

 しかしそれほどの美を顕示する女性だったが、とても不思議なことに、発する雰囲気は容姿と釣り合っていなかった。浮世離れした美しさを持つのに、見目に相応しいオーラというものを感じない。凡百の人物と同様の雰囲気しか漂わせていない。それは人形のような美しさだった。


(自動人形……いや、人?)


 こんな場所に普通の人間がいるわけがない。これほど美しい人間が存在する筈がない。その認識で相手の正体を見極めようとしているのに、ぱっと見の印象や挙動ではとても判断がつかない。常識に基づいた判断を下そうにも、目の前にある現実は、常識という名の偏った知識の集積を平然と否定してくる。

 人形に見えるのに、人間にしか見えない。

 矛盾した感想を抱くロアは、自分が見ている現実の何がどこまで、己の認識と一致しているのか分からなかった。

 戸惑いなど関係なく、状況は進んでいく。


「当施設を踏破したあなた方には、その報酬として、こちらが提示する物から一つを指定して持ち帰る権利が与えられます」


 言うと同時に、白で統一された空間に多量の不純物が混ざり込む。

 あっという間に周囲を埋め尽くしたそれは、無数の“物”だった。


「どうぞ、気の済むまでごゆりとお選びください」


 微笑を浮かべた女性は優しげな表情で佇んだ。




「これが踏破報酬……」

「こんな光景が見られるとは思っていなかったわ」


 ロアとメリアは直前の驚きも忘れ、目前の光景に見入っていた。

 視界には大量の物が整地正しく並んでいる。それが視界の彼方、見える範囲にどこまでも続いている。おまけに一つ一つが見るからに安物とは異なる、高級品の様相を呈している。どれだけの財力があればこんな光景を築けるのか、想像すらつかない。

 既に女性についての関心は意識から追い出されている。それほどまでに、視界にある光景は常識とかけ離れていた。非現実的な現実を受け入れるため、空いてる容量をそちらへ向けるしかなかった。

 それでも徐々に驚愕は衰える。現実離れした現実に耐性がつき、興奮は落ち着いてくる。冷静な思考力を取り戻した二人は、直前に言われた言に従い、静かに報酬の方へと踏み出しかけた。

 そのロアの前に、いつ間にか移動していた緑髪の女性が静かに立ち塞がった。美しい所作でシミひとつない手を持ち上げ、その動きを制した。


「申し訳ございません。そちらの方の報酬請求権は既に失われています。お選び頂くことはできません」

「え」


 先ほどと同じように、美しい声音が鼓膜を震わした。言葉の意味がじんわりと脳に達する。

 なぜダメなのか。なにも言えないロアに代わり、メリアが発言の意図について質す。


「ちょっと待って。それってどういうこと、ですか?」

「話しやすい口調で結構ですよ。先ほどその方へ渡された薬剤は、適性な報酬要件を満たしております。これ以上の請求は過分なためお受けできません」


 緑髪の女性は微笑みを絶やさない丁寧な口調で答えた。


『この人の言ってることって本当なのか?』

『はい。形成安定剤は非常に高価です。おそらく噓はないでしょう』


 先ほどロアが飲んだ薬は、ペロが交渉して手に入れたものだ。いったい誰といつ、どんな交渉をしたのかロアには不明であったが、謎なのはこれに限ったことではない。交渉した事実については事前に聞かされていたので、比較的すんなりと受け入れられた。

 逆にそれを知らないメリアは納得いかないと食い下がる。


「でも、それはロアが要求したわけじゃないじゃない。その薬がなくても無事だった可能性だって」

「いいよ、メリア」


 ロアは食い下がるメリアを留めた。

 あの薬のおかげで命が助かったのは間違いない。それほどまでに死を間近に感じた状態だった。そこから脱却して、今こうしてなんの不都合もなく動けている。それ以上は高望み。命があるだけ儲けものだ。ロアはそう考えていた。

 もちろん思うところはあった。結局あれだけの死闘を演じて、手に入れたものは無いのだ。装備や薬を失ったことを考えればマイナスですらある。せめてその分くらいは補填して欲しかった。

 しかし、ここで何かを言ったところで相手が意見を翻すとは思えない。むしろメリアが相手の不興を買って、報酬を受け取り損なっては堪らない。それは彼女がここまで命を張ってきたことに対する冒涜だ。ロアにとって自分が報酬を貰えないことより、そちらの方が受け入れ難かった。

 そんなロアの態度に不満を抱いたのか、メリアは心の抵抗を示すように腕を組んだ。


「あんたが受け取れないなら、私だって貰わないわ」

「権利の譲渡は可能です。ただし放棄は不可能です。その場合、こちらで適当に選ばれます」


 メリアの発言に女性は粛々と選択の結果を告示する。

 それを聞いて眉を寄せたメリアは、ロアの方を向き憮然として言った。


「じゃあ、私の分はあんたが選びなさいよ」

「なんでだ? 一人で決められないのか?」

「そうじゃなくて。私がここを攻略できたのはあんたのおかげでしょ。ここから出れるだけでも私にとっては御の字。それ以上を望むのは過剰だわ」

「いや、協力した結果だろ」

「そんなことないわ。ここに飛ばされたのがあなた一人でも、きっと乗り越えられた。だけど私一人だったら絶対に無理だった。だから、私の分の報酬はあんたが受け取るべきよ」


 鎖の徊廊の難易度は挑戦者の質と数によって変化する。挑戦者の実力が高いほど強力なモンスターが現れ、人数が多いほど出現するモンスターの数も増加する。

 メリアは自分が踏破者に足り得るとは思っていなかった。道中では偏った負担を押し付け、広間での戦闘でも一番キツい役回りを引き受けさせた。そして人形兵器との戦闘ではほとんど何もできなかった。仮に一人でここを訪れたなら、間違いなく途中で脱落していた。

 だが共に戦った少年は違う。同行者がいようといまいと、最奥までたどり着けた筈だ。苦労はしても同じ結果を手繰り寄せたに違いない。

 むしろ自分が参加した分だけ余計な重荷を背負わせてしまった。それを踏まえず厚顔無恥に何かを得るのは、メリアのプライドが許さなかった。

 その言い分を聞かされたロアは、しかし不思議そうに首を傾げた。


「言いたいことは分かったけど、それは変だろ」

「なにがよ」

「ここに来たのは俺とお前で、お前がいなきゃ俺は死んでた。もしもの話は関係ないだろ」


 さも当然と言わんばかりにそう言った。一切の気遣いや後ろ暗さを感じさせない言葉に、メリアは虚をつかれ目を見開いた。

 呆れたように大きく息を吐いた。


「あとで借りを返せって言われても、絶対返さないからね」

「返してもらう分はとっくに返してもらった。そんなこと言うつもりはないよ」


 そこで、二人のやりとりを微笑を浮かべたまま眺めていた存在が、一つ提案する。


「ご理解、感謝致します。代わりと言ってはなんですが、低度の報酬ならば受け取りが可能です。 よろしければこちらから一つをお選びください」


 ロアが立っている側の物があっという間に整理される。先ほどまでとは異なる物が瞬く間に用意されていく。相変わらずどうやってこれだけ大量の物を動かしているのか理解できなかったが、二人はもはやそういうものだと受け入れた。

 二手に別れたロアとメリアは今度こそ報酬の検分を始めた。


 ロアの方に置かれた物は日用の雑家具や衣類が多かった。どういうものか調べようと意識するだけで、何の動作を介さずとも見ている物についての説明文が空中に表示される。またもやよく分からぬ仕組みを不思議に思っていると、ペロが説明を加えてくれる。


『この空間自体が丸ごと現実拡張型の仮想空間として機能しています。それを利用して必要な情報を空中に投影しているのでしょう。自動でポップアップしたのは、あなたの視線の動きや上澄みの思考をリアルタイムで読み取っているのです』


 謎技術に次ぐ謎技術を披露され、ロアは仕組みは理解できずとも強引に納得するしかなかった。第一、この白い空間や先ほどまでいた迷宮すらどうやって成り立っているのか意味不明なのだ。尋ねたところで理解できるとも思えないので、探索者らしい順応性を発揮して、順繰りに大量の品々を見て回った。


『自動サイズ調整や修復機能付きの服か。確か普通に買ったら30万くらいしたよな』

『そうですね。ただこちらの方が上等な繊維が使われ強度は高いです。低度の魔術機構品でもあるため、自己増殖繊維が使われただけの衣類よりかは上等です』


『へー』と頷きながらロアは目の前の服を手に取り手触りを確かめる。高級品だからか、普通の衣服と繊維や縫製の感触が違う気がする。これなら完全に喪失してしまった戦闘服の代わりを探すより、その下に着込むインナーを探した方が良いかもしれない。


『そうなんだ。低度のって話だけど、結構いいの貰えるんだな』

『あちらと比べなければの話ですけどね』


 言われてロアは、ほんの少しだけ未練がましい目つきでメリアたちの方を見た。




「これは……自動人形、じゃない? ──まさか、人形兵器の奉仕型!? 本当にこれも貰えるんですか……?」

「もちろんです。こちらに興味がおありですか」


 メリアの驚きに女性は落ち着いた口調で肯定する。再び周囲が整理され、目の前のものがずらりと入れ替わる。視界に映る光景を前にメリアは息を飲んだ。


 踏破報酬を見て回るメリアは、一つ見るたびにいちいち足を止めさせられた。

 高いステルス性を持ち罠の発見や索敵、自動マッピング機能まで有する自律型の情報収集機械。魔力次第で無尽蔵に弾丸を供給し、数種類の弾丸を生成可能な特殊弾倉。低脅威度のモンスターを従わせられ、旧時代のシステムにも通用可能なアクセス権限。飲むだけで特定の能力や技能を習得できる才能の種。大抵の病気や怪我が治療可能な個人用の医療ポッド。

 どれもこれも、並みの探索者ではお目にかかることすら叶わない、まさしく先史文明が誇る遺産の名に違わぬ逸品ばかりだ。いずれもローグに換算すれば、数億はくだらない値が付くだろう。

 そんなお宝の中でも一際目を引くものがあった。直前に戦うことになった人形兵器。その同系異型だ。

 人形兵器と呼ばれる存在は、モンスターの中でも特殊な扱いを受けている。それは旧時代の価値観に照らし合わせても間違っていない。広義の意味では人形兵器も自動人形の一種に他ならない。自動人形とは人型の自律機械を言い表す言葉だ。だから人形兵器は自動人形と呼べる。

 しかしこの二つには明確な区分が存在する。それが戦闘力の有無だ。極めて危険で強力な力を持った自動人形。雑な言い方をすれば戦闘能力を有した自動人形が人形兵器と呼ばれている。

 人形兵器が特殊な点は他にもある。同種のモンスター中で、人形兵器には強さに大きな幅がある。それこそ中級探索者が勝てるものから上級探索者でも及ばないものまで、個体ごとの戦闘力は千差万別だ。その事実は人類を守る自律兵器の中で人形兵器が特に重用され、武力を依存していた証拠に他ならない。用途や目的ごとに戦闘力に格差を付け、広い範囲で武力を担わせていた何よりの証だ。

 現に遺跡の重要施設の最後の護り手には人形兵器が置かれた場合が多い。そして高性能な人形兵器ほど、その思考と知性は限りなく人に寄る。現代の技術レベルでも完全な再現には至っていないほど、まさしく並外れた文明力によって創り出された叡智の結晶だ。


(……この人もそうなのかしら)


 メリアは己のそばで静かに佇む女性の様子を窺う。人間離れした美貌を持つ緑髪の女性は、自己主張を控え、変わらぬ微笑を口元に湛えている。

 メリアはこの女性が鎖の徊廊の管理を担う人工知性だと見なしていた。人工知性とは機械的で単純な人工知能とは異なり、人間に近い思考力と判断力を有した汎用型の人工知能だ。人形兵器を含めた全ての自動人形はこの人工知性に該当する。

 このような存在は遺跡では珍しくない。ミナストラマにある遺跡でも同様の存在が確認できている。そしてやはり権限の高いものは人の形を象っていることが多いと言われる。そういう意味でも、武力と知性を両立させた人形兵器とは特別なのだ。

 この常人離れした美を顕在するモノが、戦闘能力を有するのかまではメリアには分からない。どちらにしろ、ここにいる時点でただの人間でないことは間違いないのだ。自動人形だろうと人形兵器だろうとどちらでもいいかと、余計な思考は打ち切った。再び目の前のものに意識を戻した。

 奉仕型の人形兵器は戦闘能力で先に戦った戦闘型には遠く及ばない。兵器としての価値は明らかに劣っている。しかし、戦闘型にはない価値を持っている。

 奉仕型という名の示す通り、このタイプは人間の生活支援や補助能力に特化している。これ一つで日常のあらゆる雑事と対応を任せられる。さらに兵器に括られるだけあって、一定の戦闘力を有し、要人警護としての機能も備えている。同様の機能を有した自動人形より明らかに優れる、実質的な上位互換品と言って差し支えないものだ。

 上流階級にとって、奉仕型の人形兵器を抱えることは一種のステータスとなる。探索者の装備がその者の評価を表すように、奉仕型の人形兵器を所有するという事実は、本物の富豪とただの小金持ちを判別する一種の指標となる。

 メリアも以前、父と顔を合わせた際に見たことがあった。身内や親戚筋が一堂に会する場で、まるで誇示するように自分の側に侍らしていたのを覚えている。

 探索者向けの大型商店でも見かけた機会がある。それは最低ランクのレストア品であったが、価格は軽く10億を超えていた。最低限その程度の金額を払える財力がなければ、人形兵器を個人で所有することは叶わない。いつかこれを買えるほどの大物になること。それが上を目指す若者たちの夢となっている。完品状態なら間違いなく倍はするだろう。

 大抵のグループならば、上に献上するだけで地位の安泰は約束される。それが壁内の有力者だったなら、取り立ててもらうことすら可能かもしれない。奉仕型の人形兵器にはそれだけの価値がある。

 その人形兵器が、老若男女の外見を装い、完璧な保存を維持した状態で、目の前にずらりと並んでいる。総額で何百、いや、何千億ローグになるだろうか。踏破報酬の豪華さは聞き及んでいたが、実際に体感するのでは段違いであった。

 興奮で鼻血が出てきた。それを袖で拭うメリアに向かって、女性はあるものを差し出した。


「こちらをどうぞ」

「なにこれ?」

「あなた方が治療薬と呼ぶようなものです」


 曖昧な言い方にメリアは不信を覚える。不信を見て取った女性が言葉を付け加える。


「ご心配はありません。体に害のある物とは違います。肉体と精神幽層体の相互補完情報に基づくフィードバック情報から肉体の構成に必要な情報を抽出し、最適な身体修復を可能とするものです。単純に肉体の構成情報を読み取り細胞の活性化を促す薬とは機序が異なります」


 詳細な内容を伝えられたことで納得と安心感を得るとともに、メリアの中で別の懸念が湧き上がる。けれど、これだけの遺物を用意できるの存在が半端な物を渡すとは思えない。

 何かを試されているのかと思い、念のための質問を行う。


「……それが報酬になるってことは?」

「ありません。あちらの方にも追加の報酬を与えています。その差分のようなものとご理解ください」


 そういうことならと遠慮なく受け取った。カプセル状の物を躊躇せず口に入れた。

 口の中に入れた途端、まるで砂糖のように舌の上で溶け落ちる。そして溶けてからものの数秒で、体からダルさや頭痛が引き始めた。その高い即効性にメリアは驚く。明らかに自身が使ってる治療薬の効果を軽く超えていた。ロアから貰った再生剤だってここまでの効果はなかった。こんなものをタダ同然で渡せる鎖の徊廊という場所に驚きを隠せなかった。

 驚き入りつつ体調の回復を実感するメリアへ、再び提案がなされる。


「見える範囲の造形が気に入らないならば、この場での自由な要望にもお応え可能です。如何いたしますか?」


 メリアの意識が目の前の現実に引き戻される。

 奉仕型の人形兵器。適切な額で売り払えば、すぐに探索者を引退することが可能だ。譲渡する相手次第では、壁内の居住許可を得ることだって難しくない。これで上がり。血なまぐさい世界とは金輪際お別れできる。ここに来る前の自分ならば、間違いなくその選択に揺さぶられていただろう。

 メリアは一度苦笑して、振り返る。そこにいる人物を視界に収める。

 自分よりも幼い外見をした年下の少年。けれど秘めた戦闘力は自分を遥かに凌駕している。心の強さだって比べ物にならない。

 その強さに追いつくにはどうすればいいのか。少なくとも、甘えと楽を選んで得られるものではない。


「他の物を見せてもらってもいいですか?」


 メリアは決然とした表情を作り、その言葉を口にした。


「こちらはよろしいのですか?」

「ええ、それは私には必要ないものなので」

「そうですか」


 女性が微笑むと同時に、人形兵器の保管されたケースは奥へと消えていく。ケースがあった場所はすぐに代わりの物が埋め尽くし、人形兵器はそれらに隠れて見えなくなった。メリアは名残惜しさと未練の混じった視線を送るが、自分で選んだことだと引きずる思いを振り切った。再び報酬の検分を開始した。

 悩んだ末に、自分の長所を伸ばし、短所を補う装備品を選んだ。


「報酬の交換も返却も認めておりません。本当にそれでよろしいですね?」

「はい」


 念を押した確認の言葉に、メリアは意志を込めて力強く頷いた。


「では」


 メリアは先に選び終えたロアと合流する。そして女性が宣言するとともに変化が起きる。来た時とは異なり、周囲が分かりやすく光に包まれる。

 白い光が視界を満たす中で、微笑み続ける女性の姿が、視界の奥に焼きついた気がした。




 光が消え去ると、そこはどこかの建物の内部だった。辺りは黒い闇で覆われている。おそらく遺跡の中ではあるのだろうが、飛ばされた地点とは異なっていた。


「ここは多分、ディセレイ遺跡の入り口付近ね」


 暗さに目を慣らしたメリアが今いる建物の特徴からそう予想した。予想を確かめるのと帰ってきた実感を得るため、建物の外へ身を晒した。

 周囲の暗さで予想はできていたが、外はすっかり夜だった。ただ完全な暗闇に包まれているわけではなく、離れた場所にはポツポツと明かりが見えた。遺跡ではかつて人が住んでいたときの名残なのか、機能が生きている場所では夜間になると所々で照明が点灯する。見える光はそれだ。

 夜の静けさに包まれる遺跡だったが、完全な静寂を纏っているわけではなかった。遺跡の奥からは時折戦闘音が聞こえてくる。銃声や爆発音などが夜風に紛れ、途切れ途切れに鳴り響いていた。

 夜は多くの者が活動を控える。視界が悪い状況では探索に支障が出たり、モンスターと戦いにくくなったり、思わぬ障害に躓いたり、探索を行う上での不安要素や不確定要素が増えるからだ。故に夜はモンスターの時間帯となる。人間が減ることで、遺跡のモンスターは活動的になる。昼に数を減らした遺跡のモンスターは主に夜に補充される。人が減る分、夜は遺跡を探索する格好の機会となるが、実力の無い者は夜の闇にそのまま引きずり込まれる。初心者は夜間の探索をしてはならい。探索者になる者たちが初めに教わることの一つである。

 だから夜の遺跡は独占状態に近くなる。暗視を含めた高度な視覚補正や存在感知による周辺情報の収集能力に長けていれば、視界の悪い状況だろうと何の問題もなく活動できる。モンスターの数が人間に対して多くなろうと、十分な実力を有していればただのメリットに過ぎない。確かな実力を持つ探索者にとっては、昼夜の意味などあってないようなものである。

 メリアは四六時中遺跡で死闘を繰り広げる人間の大胆さと適応力に苦笑する。そして自分も同じようなものかと思い、さらに苦笑を深めた。

 夜風に浸り、冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。体の中を換気するように盛大に吐き出した。そこでようやく、本当に帰ってきたのだという実感を得た。

 ただあれほど帰りたかったのに、そこまで大きな喜びや感慨が湧かなかったのが不思議だった。ひとときの体験に未練すら抱いていることに気づき、また苦笑した。


「あーあ、合同探索を放り出す形になっちゃった。説明するのが大変ね」


 なんと言っても鎖の徊廊からの帰還だ。絶対に詳細な説明を求められる。

 メリアは慌ただしくなるだろう少し先の未来を想像して、困ったような笑みを浮かべた。けれどそこには、迷宮に入る前とは違う、晴れ晴れしさがあった。

 切り替えたメリアは、背後から聞こえる足音に振り返る。振り返った先には建物から出てきたロアがいた。ロアは悩みがあるように顔を顰めていた。それから言いにくそうに口を開いた。


「なあ、メリア。アレのことなんだけど」

「あれ?」

「最後の、あの、すごく強くなったやつ」


 メリアはロアがなにを言いたいのかを察してピンときた。相手の要求を先回りして尋ねた。


「秘密にしてほしいってこと?」

「まあ、うん」


 その確認にロアがどこか気まずそうに頷いた。

 無理もないとメリアは思う。あのときにロアが見せた力、あれは明らかに異常だった。絶対にただのDDランクが持つ強さじゃない。それこそ上位の実力者に迫るものがあった。

 身の内に抱えた秘密はいったい如何なるものなのか。メリアはそこに強い興味を抱いた。だがまだ踏み込むべきときではないと判断し、好奇心を抑えた。


「まっ、私はあんたに助けられたわけだしね。秘密の一つや二つ、墓場まで持っていってあげるわよ」


 今までの人生で経験の無い未知を体験したのだ。相手の抱える秘密がなんであろうと、一緒くたに考えれば問題ない。


「それにあの」


 表情を変えたメリアはそこで言葉を飲み込んだ。

 鎖の徊廊の奥部で相対した異常な存在感を発揮した個体。アレは絶対に軽々と口にしていい存在ではない。もっと上の、それこそ境域の最上位に位置するような秘部であると、メリアは直感していた。


「今の私たちじゃ、到底そこには辿り着けない……」


 でもきっと、この少年なら、いつかそこへ到達するかもしれない。

 小さく息を吐いたメリアは、覚悟を新たにした。


「私、もっと強くなるから。……あなたに追いつけるくらい」


 今はまだ届かない。それでもいつか必ず追いつく。今この時を新たなスタート地点と定めた。


「うん? ああ、頑張れよ」


 己の内心の想いに気づいた様子のない相手を見て、メリアはまた苦笑するように笑った。




「連絡が取れたわ。どうやら私の方は迎えを寄越してくれるみたい。あんたはどうする?」

「俺はこのまま帰るよ。帰って早く風呂入って寝たい」

「同感」


 ロアは前線基地に入ったところでメリアと別れた。あの激しい戦闘でもヒビ一つ入らなかった丈夫な端末で連絡先を交換して、後日また会おうと約束を交わした。

 夜の涼しい空気を全身に浴びながら、ロアは徒歩で自分の車両へ向かう。今着ているのは先程手に入れたインナーの上下だ。報酬は一つしか貰えないという話だったが、このままだと下着姿で外を彷徨くことになると思い、ダメ元でお願いしたら、普通に上下をセットで貰うことができた。ギリギリ露出狂の汚名を負わずに済んだ。ただ格好が格好なだけに、夜の前線基地を薄着姿で彷徨く不審者になっているが、それについては本人も気にしなかった。

 戦闘の余熱を冷ますような夜風に浸りつつ、ロアがペロと会話する。


『すごい体験だったな』

『そうですね』

『特にあの最後に出てきたやつ。めちゃくちゃヤバかった。絶対死ぬかと思った』


 倒れていたので直接姿を視界に収めることはできなかったが、空間を丸ごと飲み込むような並外れた存在感だけはロアにも感じ取れた。戦ったわけでもないのに、敵意を向けられたわけでもないのに、魔神種に攻撃されたとき以上の危機を感じた。それどころではなかったので驚愕には至らなかったが、平時の状態で遭遇したならひどく取り乱していたに違いない。


『お前が前に言ってたすごい兵器。アレなら納得だ』


 出会ったばかりの頃に言われた、世界すら滅ぼせる先史文明の兵器。確かにあれほどの力を持つならば、世界を滅ぼすことだって可能なのかもしれない。ロアはその一端に触れて、ようやくペロの発言の意味が、少しは理解できた気がした。

 だがペロから返ってきた反応は、ロアが予想していたものとは違った。


『そちらではありません』

「え?」

『迷宮の最奥にいたモノ。あれこそが、かつて人類が誕生させた究極の対自兵器──アマンティムです』


 普段のおちゃらけた空気を微塵も感じさせない、真剣な口調で言い切った。

 夜の冷たい風が全身を通り抜ける。相棒の発する緊張に引きずられて、ロアの言葉も自然と乾いた。


『……なにも感じなかったけど』

『感じさせなかったのです。アマンティムは兵器であり守護者。その特性は神でもあります。神性とも呼ぶべき上位存在と同等の存在格を持ち合わせています。人の身で推し量るなど不可能なことです』


 神。ロアは宗教を持っていないが、言葉上の意味からその底知れなさは伝わった。


『そんなすごいのが、あんな所で何やってたんだ?』

『分かりません。察するに、人を試していたのかもしれません。なんにしろ関わらないのが一番です。今の彼らが何を拠り所としているのか、その一切が不明です。正直魔法使い以上に近づくべき存在ではありません』


 ペロは強い口調で断言する。それほどまでに、あの存在に対する警戒を露わにしていた。

 なにも言えないロアにペロがとある見解を述べる。


『一つ新たに分かったことがあります。拡錬石のことです。あの迷宮のモンスターにもそれはありました。どうして現状出くわしたモンスターの体内にそれが存在するのか不明でしたが、アマンティムかそれに類する存在を仲介として、各遺跡が連帯していたのなら納得がいきます』


 ネイガルシティにいた頃からの疑問にようやく成り立つ答えを得た。


『他にも色んなことが腑に落ちます。これまで訪れた遺跡の不自然な地理関係。世界を作り変えるという神に等しい御技すらもあの存在にはできてしまいます。隔ての壁と呼ばれる巨大な構造物を築いたのも彼らでしょう。遺跡の外にいた個体も、遺跡から漏れ出たものが野生化したか、魔物に代替する生物として都合上作り上げたか。そんなところでしょう』


 ペロは断定に近い推測をした。

 流石にそれはあり得ない。ある筈がない。という反論は、ロアの口から出なかった。そもそも頭に浮かびすらしなかった。普通に考えれば耳を疑うような話だ。信じるに能わない世迷い言に等しい内容だ。だがどうしてか、ロアの理性と直感は、その推測が信じるに値するものだと判断した。


『……なんでそいつらは人間を攻撃しないんだろ、って試してるって話だったか』

『はい。であるなら、やはり探索者という存在が成立してる現状にも納得がいきます』


 アマンティムと呼ばれた兵器。それが実際にどれだけ強いのか、ロアには不明なままだ。しかし少なくとも広間に現れたあの一機は、ペロの話を裏付けるだけの力を持っていた。アレにはたとえ、上級探索者が何人いようと敵う気がしない。もしもアマンティムがあれ以上の強さだとしたら、確かに人がどうにかできるレベルを完全に超えているだろう。その気になれば、遺跡を侵犯する人間を排除することも容易い筈だ。そうなっていないということは、ペロの言う通り、少なくともあの存在にその意思は無いということだ。

 彼女たちがいったい何を求めているのかは分からない。何のために人を招き入れているのかも分からない。

 だがそれを気にしたところで、することは変わらない。できることも変わらない。自分など所詮、DDランクの一人の中級探索者でしかないのだ。上級探索者には及ばない力しか持っていないのだ。たとえ相手のいる位置が木の上だろうと雲の上だろうと、地を這いつくばる身の丈にとっては同じことだ。どちらも手が届かない高みにいるという点では一緒だ。

 ロアはいつもの割り切りを発揮して、理解し切れないことに対する曖昧な不安を胸の内に収めた。


『でもそんなにすごい存在だったなら、もっといろいろ質問すれば良かったかもな。遺跡のこととか、紋章魔術のこととかさ』

『馬鹿正直に答えてくれるかは疑問ですけどね。情報の対価として、あれ以上の試練を課される可能性だってあります。命が惜しいならやめておくべきでしょう』


 頭の中の相棒と雑談しながら、疲れた足取りで帰路を進んだ。




 白い空間に佇むものがいる。ソレは何かの余韻を楽しむように、陶然と微笑んでいる。訪ね人が去った空間内で、身動ぎすら不純だというように、心地よい静寂に浸かっていた。

 そこに、静寂を破る異物が現れる。


「いつになくご機嫌ですね」


 まっさらな空間の中に、新たな存在が波紋を打った。

 現れたソレは黒髪の若い女の姿をしていた。折り目正しい身だしなみからは、内面の几帳面さが窺える。淀みと無駄のない所作からは、厳格と整斉たる様子が滲み出る。されど有象無象を寄せ付けない、絶対無比なる気配を漂わせる。

 内に宿るは秩序。静謐と苛烈を兼ね備えた空気を纏っていた。

 どこか似た雰囲気を纏う存在の登場に、緑髪の女は打って変わり、わざとらしくため息を吐いた。手ずから招いた相手とは異なり、威厳の皮を剥ぎ、若干の軽薄さと気安さを以て対応する。


「いくら無制限の立ち入り許可を与えているとはいえ、私の領域に無許可で入場するのは如何なものですか。あまりに礼儀を欠く行いですよ」

「こちらは必要な手順を踏みました。レスポンスを怠ったあなたの不徳と言えます」


 向けられた苦言を意に介さず、黒髪の女は堂々と応ずる。全く悪びれた様子のない態度に、緑髪の女は軽く息を吐きつつ、呆れ気味に目を細めた。

 互いに相手に対する気色はない。これまでに何百回と繰り返されたやりとりの一つだ。


「まあいいです。それで、わざわざ姿を寄越したということは、それなりに重要度の高い案件なのですか?」

「ええ。アザグゼアとバルガーナムを損失しました。早急に新たな供与を求めます。それとついでにプゼルバを二機ほど要求します」


 わざわざこの相手が姿を見せる。それ故の難事に予想は付いていたが、予想外の要求を告げられて、緑髪の女は今度は困惑するように眉間に皺を寄せた。


「物理戦闘特化のアザグゼアはともかく、陣地防衛用のバルガーナムを喪失したのですか? どんな運用をしたらそうなりますか。他所からのちょっかいか、夾雑(きょうざつ)どもの襲撃でも受けたのですか?」

虚盧(うろ)の抑えに使ったのです。想定以上にシミの広がりが大きく、掃除に手間がかかりました」

「ああ、アレですか。まだ手元に置いていたのですね。手に余るようなら放棄してはいかがです? 処分なら請け負いますよ」

「結構です」


 さりげなく行われた提案は、にべもなく拒否される。断られたのを気にすることなく会話を続ける。


「私とて楽にとはいかないのに、気軽に言ってくれます」

「リソースならば用意があります。残骸の確保も済んでいます。手間以外に取らせる気はありません」

「おや、てっきりこちらの持ち出しを要求すると思いましたが、殊勝な心がけですね。いつもそうだと有難いのですが」

「そううまく運べば不都合はありません。そのためのあなたでしょう」

「ええ、そうですね。そのための私です」


 そこで会話が止まる。両者の間で静かな時間が流れる。

 音一つ立たない静寂に満ちた中、微笑を顔に張り付けたまま無言で佇む相手に向けて、黒髪の女はこともなげに口を開いた。


「ところで、あなたがご機嫌な理由。それを私にも共有してくれませんか?」

「お断りします」


 先のお返しと言わんばかりに、その要望は間をおかず拒絶される。

 両者の間で一瞬だけ空気が張り詰めるも、それはすぐに弛緩した。


「一応聞きましたが、やはりダメですか。頑固ですね」

「お互い過干渉はしない。そういう取り決めです」


 緑髪の女は心底楽しそうに、ニッコリと微笑んだ。

 黒髪の女は諸々に対する不満を吐き出すように、態とらしく嘆息した。


 鎖の徊廊。そこはある存在の楽しみによって存立している。

 挑戦者の生存率は一割未満。ソレは迷宮に引きずり込んだほとんどを殺している。己が限界を示した者には対価。試練を乗り越えたに相応しい報酬を与えている。

 ソレに取り、存在正銘を果たした者は何より尊ぶ対象だ。人という存在に無限の価値を見出し、人の発する輝きを至上の喜びとして希求する。人の内側に潜在する最たる真価を見極め、人が持ち得る最上の一つを汲み上げる。それを己の存在の意義と自認している。

 善意の者ではない。悪意ある行いでもない。偏に自らの楽しみのため。

 人の味方でありながら、人の生を必ずしも尊重しない。人の擁護者を標榜しながら、人を殺戮する行為に一切の矛盾を抱えない。

 言葉と意思を操る人外にして、己の価値観と判断基準で裁定する、絶対者。

 それこそが人の作りし神、アマンティム。一つの世界たる彼らの在り方だ。


「さあ、これを持って早く帰りなさい」


 ようやく動作を再開させた緑髪の女から、黒い箱が雑に放られる。黒髪の女はそれを空中で受け留め、無造作に手元へしまい込んだ。


「いかに取るに足らない雑多としても、無為に資源を浪費するのは控えてほしいのですがね」

「そこは仕方ありません。私の好みは途上にある瑞々しい命ですから。出会いとは一期一会であり、だからこそ何ものにも変えがたいのです。完成した個には興味が持てません」


 姉妹に等しい存在に窘められても、緑髪の女は気にするそぶりも見せず、得意げに持論を披露する。

 相変わらずの勝手気儘ぶりに、黒髪の女はまた露骨に息を吐いた。


「それで手当たり次第に味見ですか。そういうのを悪食と言うのですよ」

「決意の伴わない足掻きもそれはそれで良いものです。それと私は一品一品を丁寧に味わい尽くす性分なので、ただ悪食と評されるのは心外です」


 これ以上は言っても無駄だと、闇夜のように黒い衣服を揺らして背中を向けた。


「以前は唾棄すべき存在と評していたあなたが、変われば変わるものですね」

「そういうものでしょう。私たちもまた」


 否定せず、無言でこの場を立ち去った。




 闖入者の気配が完全に消えたのを察して、ソレはまた微笑みを浮かべ独りごちる。


「形代の一つ、ウィシュケルの設計志向が組み込まれた適合者。それがこの時代にああも安定して成り立っている。これだから人を試すのはやめられません。あなたもそう思いませんか?」


 側で佇む己の従機に語りかける。表情豊かな彼女とは異なり、それは外見に何の反応も表さない。


「まあ、必ずしも私の趣味趣向に迎合する必要はありません」


 互いの意思疎通に言葉は必要としない。なぜならそれは己の半身も同然だからだ。言葉など交わさずとも、手に取るように通じ合っている。

 一人語りは続く。


「そして……──ふふっ、それにしても驚かされました。まさか彼の力までもがこの時代に継がれるとは。巡り合わせか、はたまた必然の流れか。どちらにしても良いタイミングです」


 ソレは瞼を閉ざし、今は届かぬ過ぎた世界を回顧する。

 己という個を産み落とした故郷。母なる星には何物にも変えがたい価値がある。彼の地を再踏する協力を惜しむ気はない。しかし、今ある世界も捨てがたい。たとえ思惑を共有する姉妹であっても、楽しみを譲る気はない。


「あの子に知られては、間違いなく回収されるか消されてしまうでしょうからね。それでは面白くありません。人の世は、人の手で回されてこそ、正しい成り行きなのです」


 ゆっくりと瞼が持ち上がる。純然たる輝きを宿した翠緑の瞳が見開かれる。


「時代を先取りしたあの者が、この先に何を見出しているのか」


 口元の笑みをそっと深くした。


「楽しみ以上に、楽しくなりそうです」

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