ミナストラマ
「車の補給してくれて助かった。ありがとう」
「いいってことよ。こういうときに備えて余分に蓄えてある。大したことじゃないさ」
モーテルに立ち寄った主な目的である、車両の動力源の補給。店主のドノバンと交渉して、あっさりと要望を聞き入れてもらったロアは、今まさに出発の準備に取り掛かっていた。
「目的地は決まってるのか? どこに行くつもりなんだ?」
「ミナストラマ地域ってとこだ。知り合いから勧められてそこにした」
出発を直前に控えて、最後の機会に彼と雑談を交わしていた。
「ほお、ミナストラマか。あそこは成り上がるなら格好の場所だが、上級以上の連中も珍しくない。DDランク程度がソロでやってくのは大変だぞ」
「無理そうならまた別のとこに行くよ。そこに拘りがあるってわけじゃないし」
「くくっ、そうか。ならせいぜい、困窮探索者にはならないようにしとけよ」
困窮探索者とは、より高い難易度の遺跡に挑んだ結果、資金や装備を全て失い、落ちぶれてしまう探索者のことである。探索者の装備品は、下級ランク帯でも数百万ローグはするほどに高価だ。この額は壁外で地道に働いたところで、容易に稼げる金額ではない。そんな装備を不慣れな新天地で失い、おまけに自らの貯金を全て吐き出してしまえば、そこから這い上がることは実質不可能となる。そうして探索者でいられなくなり、露頭に迷う者たちの行き先は大抵決まっている。彼らは最終的に、借金を背負い命がけの探索を強制させられるか、裏社会の犯罪組織に身をやつすことになる。
「仮にそうなっても、下手に探索者グループやチームに入るのはやめとけよ。あいつらはそういう連中の足元を見て、不利な条件で契約を結ばせてくるからな。金貸し連中も同じだ。だから困ったときは協会を頼れ。中級探索者なら無担保無利子で一定額の融資を受けられる。返せなきゃ悲惨だが、それでも他よりはマシだ」
忠告のこもった話を聞かされたロアは、それでもこの件に関しては楽観的に考えた。
『まあ、俺にはペロがいるし、装備がダメになってもまたナイフから始めればいいだろ』
『いくら私でも貯蔵魔力が尽きたらどうしようもないですけどね』
ペロからそう言われ、貯金だけは常に一定額確保しようと、すぐに考えを改めた。
いよいよ準備も終わり、ロアは自分の車両に乗り込んだ。短い間とはいえ、世話になったドノバンへ別れを告げた。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。もう会うことはないかもしれないけど、元気でな」
「ああ、お前さんこそ達者でな」
開いたから窓から手を振ったロアは、それを最後に前へと視線を送った。
車を発進させて、一晩の宿を後にした。
モーテルを出立してから数時間。ミナストラマまで残り数十キロまで迫ったところで、ロアは空に不思議な物体が浮かんでいるのを発見した。
「なんか空飛んでるな」
窓から軽く頭を出して頭上を見上げる。正確な距離は不明であるが、目測から大きさはかなりのものに思えた。空を飛ぶ乗り物が存在することは知識として知っているので、上空にあるのはそれと同じようなものだと推測した。
『あれはおそらく浮遊島ですね』
「ふゆうとう?」
予想していたものとは別の単語がペロから飛び出したせいで、ロアは首を傾げた。
『人工的な観光資源の一種です。重力に抗する強力な力を発生させて大質量を宙に浮かせたものです。島とは言いますが、一種の遊覧船に当たりますかね』
『あんなのもあるんだ』
『低級資源やエネルギーだけは無駄にありましたから。中には町を丸ごと一つ浮かせた空中都市なんかもある筈ですよ』
『ほえー』
都市を空中に浮かせるなど、一体どれだけの労力や金がかかるのか。ロアの頭ではとても想像がつかなかった。
『あそこってモンスターとか出るのかな?』
『どうなんでしょうか。迎撃用の防衛兵器が設置されてる可能性は高いでしょうが、地上にいるモンスターと同じなのかは分かりません。ただ未だに撃墜されずに残っているならば、相応の戦力を保有していてもおかしくはありません。この時代の人間に制圧されていなければの話ですが』
『探索者って、あんな空の上まで行けるもんなのか』
自分もいずれ、空中に浮かぶ都市を探索する機会があるのだろうか。そんなことを考えながら、ロアがぼんやりと上空を見上げていると、唐突にある疑問が浮かんできた。
『そういえばさ、遺跡の名前ってどうやって決まるんだろうな』
『名前ですか?』
『そうそう。〜遺跡って呼ばれ方してるじゃん? あれってどうしてそう呼ぶようになったのかなって』
今までは気にする理由がなかったせいで、遺跡に名前が付いていても漠然とそういうものだと受け入れていたが、空中都市にも決まった呼び名があるのかどうか気になり、初めてそのことを疑問に思った。
『予想を述べるで良いのなら、当時のものがそのまま使われているのだと思います』
『当時ってことは、国だっけ? その時の名前ってことか』
『はい。セイラク遺跡のセイラクとは、当時地上に存在した国家、シェウン民主共和国のセイラク市ということになります。市というのは国の行政区分の一つです。イメージとしては、現代の都市に相当するものと考えていいでしょう』
『へー、そうなんだ。……でもあれ? ペロって確か、そういう情報持ってないんじゃなかったっけ?』
出会ったばかりの頃にそんなことを言われた気がした。
『そうですけど、以前宝石を見つけた際に書類が付属していたでしょう。今言った情報についてはそこに書かれていましたよ』
『あー、興味なかったから読んでなかったな』
一目見た時点で金目のものになりそうになかったので、ろくに目を通すさずにリュックの中へしまっていた。次に同じようなことがあったときは、可能な限りちゃんと見るようにしようと思った。
空を漂う頭上のものをぼんやりと眺めながら、ロアは残り少ない道程を進むのだった。
「あれが新しい都市か」
地平の先に見えるのは、頂上部分を覗かせた、高さが不揃いの無数の構造物だ。それが人の営みを表すかのように、大きく左右に広がっている。見覚えのある光景を視認したロアは、視界に映るものが目的の都市だろうと予想する。車載のナビゲーションシステムには、ウェイドアシティという名が記されていた。
「ようやくだな。日数的にはそうでもないけど、体感的には結構かかった気がする。早く宿で体を休めたい」
ドノバンのモーテルで一泊を過ごしたものの、気分的にはそこまでぐっすりと休めたわけではなかった。やはり安全が保障されていない土地では、心の底からゆったりとした時間を過ごすのは難しい。ロアとしては、数日振りの安眠を早く手に入れたい気分だった。
視界に都市の姿を収めたロアは、もう危険はないだろうと気を緩める。
そのせいで、車両に接近する存在に気づくのが遅れた。
「わっ、モンスター!?」
車の進路方向には人ではない何かがいた。その姿は明らかにモンスターと呼ばれる怪物だった。
ウェイドアシティに来るまでの道中でも、遺跡の外をうろつくモンスターを見かける機会は何度かあった。だがいずれも距離は離れており、接触する機会は訪れなかった。だからロアにとっては、サルラードシティを出てから初めて遭遇するモンスターだった。
前方から走ってくるモンスターに、いつの間にかここまで接近されていたことに気づかなかったロアが、慌てて対応を模索する。車を操作して避けるか、止めて戦うか、このまま轢き飛ばしてしまうか。複数の選択肢が頭に過ぎる。
結局ブレーキをかけて強引に車を停車させたロアは、すぐに装備を持って車から飛び降りた。素早くブレードを引き抜いて、対峙する敵へ油断なく構えた。
『いえ、攻撃は少し待ってください。なんだか様子がおかしいです』
『おかしいって、モンスターなんだからそれはおかしいだ、ろ……?』
言われてみて、ロアも確かに変なことに気づく。目の前のモンスターは近くまで寄ってきたのに、十数メートル離れた位置で止まっていた。じっとその場にとどまり、何かを待つようにこちらの様子を伺っていた。
流石に何かが妙だと感じたロアは、攻撃もせず、武器を構えた状態のまま同じように立ち尽くした。そうして互いに十秒ほどにらみ合ったところで、この場に別の何かが近づいてきた。
斜め前方向からは、新たに大型のモンスターが走り寄ってきた。その姿を捉えた瞬間、流石にそれはまずかろうと、ロアは慌てて車へ戻り逃げる準備をする。
だが、その行動には待ったがかけられた。
「ごめんなさい! ウチの子が勝手に突撃しちゃって!」
「え? 人?」
聞こえてきたのは人の声だった。見れば新しく近寄ってきたモンスターの背には、一人の少女が跨っていた。何がなんやら訳のわからないロアは、理解できない状況が続き、困惑を顔に出しそうになった。
しかし、すぐに緩みを消して先の存在へ強い警戒の目を向ける。少女が跨っているモンスター。これの存在強度が普通ではなかった。つい先日相対したCランク帯のモンスター、それと同程度の存在感を放っていた。少女自身が身につけている武装に関しても、もしかしたら同ランク帯の装備品に匹敵するかもしれない。
対照的に、初めに近寄ってきた方は気配が希薄である。ロアの感覚では高くてDランク帯相当というところだ。以前ならともかく、今さら脅威になる相手ではない。
危険度を測り終えたロアは、再び車から降りて少女たちと対峙した。
「あの、本当にごめんなさい。この子、私の言うことも聞かないで、勝手にそっちに行っちゃって」
「……いや、それはいいけど」
もしかしたら殺し合いになるかもしれない。そう警戒して身構えていたロアであるが、二度目の謝罪を聞いて毒気を抜かれた。変わらず油断ない姿勢を保ちつつも、表情からは険が取れた状態で接する。
「あー、それで何か用なのか?」
「え? 用? 用はこっちにないけど」
少女の素と思われる反応に、ロアは自分が変な聞き方をしてしまったことに気づく。なんだか急に気まずくなって、そのまま口を閉ざした。
「……えーと、それじゃあ、お互いに何もなかったということで。謝罪とか賠償は無しで」
「あ、うん」
会話の流れ的に、やや妙なことを言われてる気がするが、ロアは特に反応を示さず聞き流した。
少女はもう一体のモンスターを呼び寄せると、最後に一度だけ振り返って、また来た方向へ戻っていった。
「一体なんだったんだ……?」
一人に戻った状況で、ロアはそんな呟きを漏らしてから車内に戻った。
先ほど会話した探索者。それが遠くに点となる距離にまで移動したところで、少女は跨るモンスターに指示を出してその足を止めさせた。
停止したモンスターから下乗すると、軽く尻を払いながら、忌々しげに一方向を見つめた。
「チッ……一人だからと思って見誤ったか。まさかあの状態から踏みとどまるとは。話ぐらいは聞いてたってことか」
少女は思惑が外れたことで、苛立たしげに舌を鳴らした。
ロアが乗る車両にモンスターが接近したのは、偶然ではなかった。少女が狙って嗾しかけたものだった。その目的は相手から先制して、所有者のいるモンスターを攻撃させることだった。
「……いや、あの反応は知らなかった。慌てて攻撃しようとしたのを見るに、初めて見るのは間違いない。……取り損ねた」
ミナストラマ地域は境域中から人が集まる場所である。名声や一攫千金を求めて、あるいは高難度の遺跡に挑んで成り上がるために、遠方から多くの探索者がこの地を訪れる。そこには当然、知識や経験が浅く、探索者間では常識とされることすら知らない者たちだって含まれる。
ミナストラマではモンスターを従える者、いわゆるテイマーという存在が一般的だ。少女のように遺跡探索へモンスターを連れ回し、戦闘や探索で補助的な役割を担わせる。維持費は高いが、手頃に戦力を拡充し、人的損失を避けるには有効な方法である。
すなわち境域において、所有者のいるモンスターというのは個人の財産として扱われる。人を積極的に加害したのでなければ、これを故意に損壊させた場合、その所有者への敵対行為も同然となる。事情によっては、協会などから賠償命令が発生することさえある。
これが少女の目的だった。自身に所有権のあるモンスターを無知な探索者に嗾ける。相手の攻撃を誘発し、それが叶ったなら賠償金を要求するか、そのまま争いに持ち込んで相手の装備や車両を奪い取る。追い剥ぎ行為は発覚すれば、方々から制裁を受け兼ねない悪質な行為であるが、向こうから手を出させれば責任の所在はうやむやとなる。私的戦闘は両成敗として、都市も協会も取り合わない。丸儲けだ。
少女は遠方から確認した相手の様子から、外でそこそこ活躍して拠点を移した探索者だと判断した。まだ若く経験の足りない、勘違いした探索者。こちらの武力を見せつければ、すぐに怖気付いて引き下がると思っていた。仮に戦闘になったとしても問題はない。自身のモンスターなら問題なく圧倒できる。そのような打算を持って事に臨んでいた。先に攻撃さえさせれば、当初の目的は間違いなく果たされる。その筈だった。
なのに、そんな目論見は前提から潰えてしまった。
「くそっ、久しぶりの手頃な獲物だったってのに。……帰るか」
ため息を吐いた少女は、危険な目に合わせたのを申し訳なく思いながら、自分に従ってくれるモンスターたちの体を労うように撫で付ける。モンスターたちはそれを抵抗せずに受け入れる。
それから今日はもう目的は果たせないだろうと考えて、大人しく帰途につくのだった。
『え? それじゃあれって、見たまんまモンスターを従えてるってことなのか?』
『はい。あの少女が支配権を持っていると考えて間違いないでしょう』
つい先ほど遭遇した不思議な事態。人に従うモンスターと従えた少女。その答えをペロから教えてもらったロアは、疑問に変わり新たに驚きの感情が芽生えていた。
『モンスターも人の言うこと聞いたりするんだな』
『当然と言えば当然なんですがね。自動守護存在はその名の通り、人々を守るために生み出されたわけですから、人を襲う現代こそ異常な状態と言えます』
本来は人類を守るべき作られた兵器が、今ではその人類に対して牙を剥いている。現在を生きるロアにとっては当たり前の常識でも、それが普通ではない状況なのは理解できた。
『どうして人を襲うようになったんだろ?』
『権限の違いでしょうか。私や彼らは旧時代に由縁を持っていますが、現代の人間に付き従っています。反面人を襲うのは、既に主人なき跡地を護持し続けている個体です。かつての防衛システムが新たな命令を更新せずに、同様の指揮系統を維持しているのだと思います』
今の境域に住む人々は元々そこに定住していた者ではなく、外から来た者たちの子孫だとされている。移民、流民、難民、棄民。遺跡の叡智を手に入れた当時の支配者たちが、勢力の基盤となる人材を求めたことで、壁の外に存在する国から多くの人々が移住してきた。
遺跡側からすれば、そういった者たちは庇護の対象ではなく、自らの土地を侵犯する敵だ。たとえかつての主人であろうと、正規の手続きから外れた侵略者を迎え入れる道理はない。排除するため大量のモンスターを生み出し対抗した。それが現代まで続く人とモンスターの争いの原因だというのが、境域に住む人間の間では主流の考え方となっている。
『それはそれで解せませんが』
『そうなのか?』
『はい。中には私のように、かなり自由度の高い権限を持った個体も存在する筈です。現代の人類との争いを無意味で不毛と捉え、対話交渉に切り替えるモノがいて不思議ありません。もしかしたらどこかには、この時代の人々に友好的な擬似人格もいるのかもしれません』
言われてみればその可能性も確かにあるだろうと、ペロという相棒を持つロアはやけに納得できた。
『それと、ネイガル・サルラード間にあったモンスター地帯。加えて私たちが邂逅を果たした始まりの森。あそこにいたモンスターたちは、一体何だったのかという疑問も残ります』
『えっと、遺跡の外にいるモンスターってことか?』
『そうです。自動守護存在には自己複製能力や増殖能力など、部分的に個体数を増加させる機能を持つものもいますが、生物特有の生殖機能はありません。あそこにいたのが自動守護存在であるなら、どうやって個体数を維持しているのかが不明となります。あそこにはそれらを生み出す設備が存在しないからです』
『よく分からんけど……それも千年で変わったとか』
『無くはないのでしょうが、やはり腑に落ちません。仮説はあるのですが、そちらが成り立つ前提もさっぱり分かりません。分からないだらけです』
疑問を吐き出す相棒に変わり、ロアは情報端末を取り出した。既に都市の影響圏内に入っており、端末は再び使用可能の状態にある。それを使い、今の話について調べてみた。
『普通の検索には引っかからないか』
ならばと、探索者のアクセス権限でも試してみる。
しかし、この方法でも該当する情報を見つけることはできなかった。
『こっちも駄目だな。DDランクってそこそこ上だと思うけど、そんなにすごい秘密ってことかな』
『そうですね。体制側にとっては魔神種や魔法使いの存在のように、秘匿したい理由があるのかもしれません』
無理なら仕方ないかと、ロアは諦めて端末をしまった。
『まあ、俺はこれからも探索者を続けるつもりだし、そういう疑問も解消できるようランク上げ頑張るよ』
『期待してます』
気を切り替えたロアは、そうしていよいよ、新しい都市にたどり着くのだった。
都市の影響圏内に入ったことで、自動運転が都市側からの誘導を受ける。他の車両に混ざって、都市の玄関口に向かって吸い込まれるように進んでいく。
自動アシストを受けて進む車の中から、ロアは窓を通して流通経路にもなっている大通りの景色を眺めた。
初めて訪れる都市の景観を視界に入れ、半開きになった口から感嘆の声を漏らした。
「おわぁ……」
そこには、これまで住んでいた場所とはまるで違う光景が広がっていた。
大通りの左右には派手な街頭広告に彩られたビルが立ち並び、実物のような立体映像が人の姿を空中に投影している。建物と建物の間の空間には、企業のマスコットキャラクターが軽やかに遊泳し、道行く人へ自社製品の宣伝を行っている。それらの近くを、何事もなく空を飛ぶ人や車両が通過していく。
ネイガルシティやサルラードシティですら見られなかった、未体験で鮮烈な景色が、この地を訪れる来訪者を賑やかに出迎えていた。
「都市一つ違うだけで、こんなにも違うもんなのか」
都市による発展具合の差を見せつけられて、ロアは興奮で胸が高鳴る思いがした。
だが、驚きはそれだけにとどまらない。気を落ち着かせるように一度息を吐いたロアは、今度は地上の光景へと目をやった。道を行き交う者たちの姿も、これまでいた場所とは大きく様子が違っていた。
ロアはそのうちの一人に焦点を当てた。そこには動物みたいな耳を頭頂部から生やした人物が、普通の人間に混じって当たり前のように歩いていた。精巧な飾りかと思えば、視覚から判断できる質感は本物と見紛うほどだ。よく見ればピクピクと動いてさえいる。
何が何だか理解が及ばないロアは、困惑を顔に貼り付けた。
「……なんか、頭から変なの生やした人がいる」
『あれはおそらく有機デバイスの一種でしょうね。より高度な身体拡張を目的とした外付けの感覚器官です。以前リシェルたちの車にあった生体プローブ型の情報収集装置。あれをより人体に馴染ませたようなものでしょう』
言われた内容はイマイチ理解できなかったが、そういうものであると強引に処理した。
一つ疑問を解消したロアがまた別の者へ視点を切り替える。
『それじゃあ、あの、なんか全体的にモコモコしたやつは?」
『着ぐるみタイプの強化服ですかね。当時は色々なデザインがあったようですから、その一種なのかもしれません。あるいは義体置換技術で、肉体そのものを改造している可能性もあり得ます』
『なんでそんなふざけた格好……って、ああ、娯楽だって話だったな』
現代では理解できない話であるが、当時の人間は娯楽代わりにモンスターと戦っていたのだ。その気楽さやおふざけが表れた象徴というのが、着ぐるみというふざけた格好なのかもしれない。ロアは納得し難い納得を示した。
「いや、そんなのをわざわざ着てる時点で、今の人間も変わらんか……」
先史文明の遺跡から手に入る遺物には、戦いの場で身につける装備としてはそぐわない見た目のものも多い。特に娯楽目的で作られた迷宮遺跡からは、当時の世相をそのまま反映したデザインの品が数多く産出される。着ぐるみに見える強化服や特定職業をモチーフにした装備品などが、その筆頭である。
そして、それらの遺物は状態はもとより、性能も市販で売られている装備より優れていることが多い。そのため手に入れた探索者たちは、特に外見を気にすることなく使用している。中には奇抜なデザインを、自身やチームのトレードマークとして知らしめている者たちも存在する。
いよいよ驚きも萎んできたロアは、更にいろんな者たちへと視線を向けた。そこには肌の色が青や紫の者、手足が五本本以上ある者、モンスターのような外見をした何かまで。街を織り成す背景に自然と溶け込んでいる。
急に別の世界に入り込んだような気分になったロアは、これまで築き上げた常識と違いすぎて、疑問に思う気力も湧かなくなった。
「世界って広いんだな」
しみじみとそう思うのだった。




