92話 初級の学園ダンジョン・・・2
ちょっと褒めすぎたかなぁ、ノエルの顔が緩み切ってるわ。
まぁ配信は切ったままだから、しばらくはいいけど。
「ということは、アリサさんの術装も量産型なんですの? 天魔でないのに術装を持っていて不思議だなぁと思っていましたから」
「あー、それね。ん~、アリサはどう思う?」
「私は大丈夫ですので、お話しされてもよいかと」
「そっか、なら説明するね。えっとね――」
エレンとレイジに2年前の出来事を簡単に説明。
拉致されて、アリサが捕まって、若干暴走したわたしが神聖王国の人を大量虐殺したこと。
そしてアリサの魔石がとられ、破壊されたこと。その代わりにわたしの魔石を半分あげたこと。
さらにわたしの魔石から術装の素を作成し、アリサ専用の術装を作り宿らせたことを話した。
エレンとレイジは少し困惑してる感じかな。でも嫌な感情はないね。
虐殺関係でドン引きするかなって思ってたんだけど、魔石をあげたことと、術装を新たに作ったことのほうが衝撃だったみたい。
「ということがあったわけ。なのでアリサの術装はまだ模造品だけど、れっきとした術装なの」
「なるほどですわ。正直なんと言えばいいのかわかりませんが、お二人が無事なら問題ないですわね」
「まぁそうだよね、結局悪いのって神聖王国の人だからね。僕としては同じ勇者がそういうことしてるって聞くと、関係ないけど申し訳なく感じちゃうなぁ」
ぎくしゃくしたり距離を置かれたりもせず、今まで通りなのはほんとよかった。
なんとなーく大丈夫な気はしてたけど、実際に話しても変わらなかったのはちょっと嬉しいものですね。
「それにいろいろと納得ですわ。アリサさんがユキさんにべったりになるのも当然ですわね」
「勇者よりも勇者みたいなことしてるよね。それに他にもなにかしてそうだけど、気のせいかな?」
レイジよ、その予想は大当たりだから追求はやめてください。
祝福あげたことはさすがに言わないからね。不老不死になるのもそうだけど、あれって人によっては告白とかの意味に受け取ることもできるから、話すのはちょっと恥ずかしいのです。
「まぁわたしとしては、今後アリサとノエルのどっちが先に術装を覚醒させるかに興味があるの。術装の素を使った術装と量産型の術装、どっちが宿主に適応しやすいかの実験に近いんだけどね」
「すごいことを考えてますわね」
「術装の素を使っての事例はほとんどないからね。アリサの術装はアリサが天魔に進化したら覚醒すると予想はしてるけど、ほんとわからないことだらけなの。でもそこが面白いんだ!」
完全に研究者目線だけど、このくらいは許してもらいたい。
術装の素も量産型も簡単に手に入る物じゃない。だとすれば比較できるのは今回だけって可能性が高いわけで、余計に気になっちゃうのだ。
そんなこんなでダンジョン探索再開。おっとカメラの配信も戻さないと。
それにしてもこの配信ってどのくらいの人が見てるんだろ? 生徒の半数以上が見てるとかはさすがいないよね。
「しっかし敵がちらほらいるけど、ほんと雑魚ばっかりだなぁ」
「ですわね。いっそのこと術式も封印して魔力弾だけで進みます?」
エレンが言いたいことはひっじょーによくわかる。
今も前方に魔物が20体ほどいたけど、アリサの術一発でドカン。しかも使ったのは火の矢という一番弱い炎の術、魔法ならファイアアローに相当するかな。
さすがに1体くらいは残るかなぁって考えてたけど、何も残らなかったし。そう、ドロップするはずの魔石すら消滅したというのがね。
これ以上火力を下げるとなると術式封印しかないんだよなぁ。
「いっそのことフロア内の敵を殲滅しちゃう? なんならエレンたちが見たことのない方法で殲滅しちゃうよー」
「あら、それは興味深いですわ。でしたら是非!」
うん、すっごい期待の眼差しだね。ただねエレンさん、どうしてわたしの手を両手でぎゅっと握ってくるんですかね?
しかもこの光景って配信されてるわけで、もしかしたら女の子同士的な噂がたっちゃいますよ? それでもいいんですか? まぁわたしは気にしないというか、どんとこーいですが!
「それじゃ早速、今回はこれを使います」
ポーチからヒトガタを1体取り出す。今は無理だけど、いつかはお母様みたいに胸元からスッと取り出したいものです。あのエロカッコよさはホント憧れる。
「それはヒトガタでしたっけ? しかも一番難しい零式ですわよね」
「そうだよー。んじゃ展開っと」
ヒトガタを空中に放り投げると、ヒトガタ自体が分身していき、わたしの周囲に何十体も浮かんで待機する。これ、カッコよくて好きなんだよねぇ。
もちろんカッコいいだけじゃない。
1体のヒトガタが分身するので、一度に大量のヒトガタを取り出す必要がない。さすがに何百体も一気に取り出すとか、いろいろと無理がある。
さらに周囲に展開させておくことで、どのような状況でも即対応できる強みがある。ヒトガタがどんなに強くても、対応が遅ければ無駄になっちゃうし。
展開が完了したので、ヒトガタに対し魔力をさらに流し込む。すると魔力を受けたヒトガタは金色の光をまとう状態になる。
これで準備完了っと。
「さーって、それじゃ全階層の敵を殲滅しなさい!」
わたしの命令を受け、ヒトガタが次々に転移していく。
ヒトガタは召喚獣のような使い方もできるので、これはその応用。敵を索敵し、発見したら目の前に転移。あとは敵の急所に致命傷となる術式を叩き込むという、ちょっとした殲滅部隊だね。
全部のヒトガタが転移したわけでなく、半数はわたしの周囲で待機している。
待機しているヒトガタは攻撃がきたら命じなくとも自動的に対応できる状態。自動防御からの反撃や追撃なんてお茶の子さいさい。
もちろん敵を指定して攻撃することも可能、全方位攻撃も簡単にできます。
というのをざっと説明したら
「相変わらずとんでもない方ですわね。わたくしには無理ですわ」
「しかもヒトガタのその使い方って、日本のアニメにあるような使い方だよね。応用力が凄いというか、何でもありというか」
「まぁわたしだからね! それにわたしって術装以外の武器が使えないし、一時期その術装も使っちゃダメな状況だったからね。術で接近戦もする方法とかいろいろ考えたわけよ」
近接用の術式もあるけど、わたしは術札が無いと発動できないという最大の弱点がある。
遠距離であれば術札を取り出す時間も作りやすいけど、近接だとそうもいかない。しかも近接の場合、防御にも術を使う場面が多いし。
取り出せないってなると、手持ちの術札が無くなった時点でわたしの戦力は思いっきり低下しちゃう。
そんな弱点を克服するため、わたしはヒトガタをうまく使おうって考えたわけで。術札が足りなくなるのなら、術札の要らない術を使えばいいだけだもんね。
「ちなみにこのヒトガタだけど、いろいろ改良したからこんなこともできるよ」
手のひらをかざしてると、ヒトガタの1体が戻ってきて魔石を置いていく。
魔石を置いたら戦場へまた転移していく。
1体が置いたら次のヒトガタが転移してきて、同じように魔石を置いてまた戦場へ戻っていく。
そう、戦利品やアイテムの回収機能まで備えてるという、ヒトガタに任せっぱなしで楽々稼いじゃおう状態。使い方もいろいろあるのでほんと便利。
「なんというか、逆にできないことを探す方が難しそうだね」
「ですわね……。ちなみに、できないことはありますの?」
「ん~、神卸をすればできないことがなくなるかな。会話ができないってのが唯一のできないことだから、神、と言っても正体は精霊だけど、それを宿らせれば解消できるよー」
「「ソウナンデスネ」」
おっと、なに呆れてるのかな? わたしが規格外なのは今に始まったことじゃないでしょうに。
アリサとノエルを見なさい、呆れずにしっかり頷いて……頷いてない!? しかも二人まで呆れてるよ……。
え? 先週見たときは数がもっと少なくて転移もしなかった? 物も運んでこなかった? そもそも自動防御に反撃と追撃って何ですかそれって逆に怒られたんだけど、なんで? 1週間あればこのくらいの改良は当然だよ?
「よければこれ、教えるけど? すっごい簡単だし」
「「「「絶対簡単じゃない!!!」」」」
あぅ、全否定された。慣れちゃえば簡単なんだけどなぁ。こんな風にヒトガタを整列させて躍らせることだってすぐできるのに。
って、あれ? さらーに呆れた目で見られてるんだけど?
「ヒトガタ本体であのような動き、できまして?」
「無理ですね」
「無理だよね」
「お嬢様以外できるわけないじゃないですかー」
はぅ、また全否定とか、ちょっと悲しい。コツさえわかれば誰でもできるようになるんだけどなぁ……。
規格外なので、とんでもないことでも平気でやってます




