91話 初級の学園ダンジョン・・・1
転移門の先にあったのは、まさにダンジョンって感じの石造りの迷路だわ。通路自体はそこそこ広いので戦いの支障はないかな。
「とりあえず術装、魔衣、竜装は無し、レイジも勇者装備無しでいくよー」
「近接攻撃も封じていいかもしれませんわね。もしも術が効かない変異種が現れたら考える、ということでよいです?」
「問題なっし。それじゃいっくよー」
完全になめてるけど、敵が雑魚すぎて一人でも余裕なんだよねぇ。
それに各種異常耐性は常に発動中だから、もしも毒とかの罠があっても大丈夫。
おまけに魔衣とかを発動しなくても、わたしたちの着てる服ってそこらの鎧よりも丈夫な素材でできてるからなぁ。初級層だとボスの攻撃すら無効化しそうだわ。
「おっと、最初の犠牲者発見だよ! 距離は100メートル、3体いるけどおそらくゴブリンだね」
「その奥にはスライムが4体ですわね。近くに来たものに攻撃をする配置みたいですわ」
わたしとエレンが言うことにみんな頷く。ちゃんと認識してるみたいでよかったよかった。
索敵能力にも個人差がある。わたしとエレンはほぼ同じだけど、アリサたち3人との差は大きいからねぇ。3人も能力は高いほうだけど、わたしとエレンは能力が高すぎるからなぁ。ほんと化け物同士だよ。
「せっかくだし、ノエル、ちょっと片付けてみて。術式の扱いがどの程度うまくなったかも見たいし」
「いいですよー。それじゃぶっぱなしますねー! 術式展開、断罪の雷!」
断罪の雷は非常に高い攻撃力をもち、広範囲を殲滅するための術式。
まず対象範囲一帯に雷の巨大なドームを構築し閉じ込める。そしてドームの中では無数の雷撃が走り、対象を完全に破壊するとんでもないもの。
とゆーかこれって拠点殲滅とか、スタンピードをいっきに殲滅するような術なんだよなぁ。
って、まてまてまてい!
「バカノエル! こんな狭いところで広範囲の殲滅用術式使うんじゃない! 術式展開、破邪の結界!」
急いで防御用の結界を展開。
結界の展開が完了した直後、ノエルの放った術の衝撃波が一気に迫ってきた。衝撃波は結界ですべて防いだのでダメージは無し。結界張らなければ割と洒落にならないダメージになってたよ。
術の展開速度も威力も申し分ないんだけど、やっぱりこの子は抜けてる。ゴブリンとスライム相手に殲滅用の術式使わないでよ……。
「あ、あはは、ちょっと失敗しましたかね?」
「ちょっとどころじゃないよもう」
「ノエルにはお仕置きが必要ですね。お嬢様はお優しすぎるので、代わりに私がやりますね」
「それは勘弁してください! 先輩のお仕置きは本気で痛いから!」
うん、ノエルが華麗に土下座したんだけど、配信されてるから控えてほしいかなぁ。優秀なメイドっていうより、面白いメイドって印象になっちゃうよ?
まぁお仕置きってお尻100叩きだからねぇ、回避したいのはわかるよ。以前お仕置き中のノエルの状態を見に行ったら、ちょっとマジに泣いてたもんね……。
「それにしてもすごい威力ですわ。下の階層まで穴が開いていますもの」
「だねぇ。せっかくだし、ダンジョンが修復される前に降りちゃおう」
ノエルが作った大穴を使い、下の階層に降りる。
だけどさすがはダンジョン、穴が開いたのは直下の階層のみだね。3階層くらいぶち抜くかなって思ったけど、そうはうまくいかないものね。
「そういえばユキさん、一つお聞きしたいのですけど」
「な~に?」
「先ほど術装を使わないと決めましたが、ノエルさんもですの?」
そう言ってエレンはノエルのほうを見てるけど、うん、バレバレになるからノエル、もうちょっと落ち着こうね。目が泳ぐだけでなく、明らかに挙動不審になって、しかもわたしに助けを求めるような目線までしだしてるよ。わたし以上に隠し事ができない子だからなぁ。
まぁせっかくだし、エレンたちにも説明しておこう。
「そうね、ちょっと説明するよ。アリサ、カメラの配信を切っちゃって」
「わかりました。あら? 中断には理由が要るようですけど、どうします?」
「ん~、ノエルのお仕置きのためってことにしといて」
「お嬢様ひっどーい。職権乱用だー、横暴だ―」
どこかの抗議デモのように拳を掲げて、何バカなこと言ってるのよこの子は。
うん、こりゃほんとにお仕置き入るね、アリサの笑顔が非常に恐ろしいものになってるもの。わたしは止めないからね?
「結論から言っちゃうと、ノエルも術装を持ってるの。でもその術装って〝量産型〟なんだ」
「量産型、ですの? 確か術装は複製ができなかったはずでは?」
「そうだよー。ノエルの持ってる術装の正式名称は〝量産型仮想術式装備〟になるの。量産された仮初の術装ってことね」
うん、エレンがとんでもないことを聞いてしまったって顔してるね。
この世界で一番強い武器は何かと問われたら、ほとんどの人が術装と答える。まぁ実際は武器じゃないけど。
だけど術装は量産なんて普通はできない。できないから他人の術装を奪うって人が出てくるわけで。
術装自体の量産は無理だけど、純度の高い精霊石を使えば術装に近い装備を生み出すことができる。〝量産型仮想術式装備〟はそんな術装に近い装備を改良し、より術装に近い存在へと変化させた装備。
もちろんレグラスの国家機密。配信どころか、周囲に人が居るだけで一大事になる内容だね。
「ノエルはその量産型を使ってるの。というか、うちのお弟子さんどころかレグラスの親衛隊クラスはみんな使ってるよ」
「と、とんでもないですわね。術装に近い装備を持った兵が大量とか、レグラスは武力面でも世界の頂点というのは納得ですわ」
「まぁ本来の意図とは違うんだけどね。そうだなぁ、ノエル、ちょっと術装出してみて。わたしの期待通りだったらお仕置き無しにしてあげるから」
「ほんとですか!? なら頑張っちゃいますよー」
我ながら甘い。ノエルに対してだけでなくアリサに対しても甘いし、最近はエレンやレイジにも甘くなってるんだよなぁ。まぁ問題はないからいいんだけどさ。
「ではではいっきますよー、術装展開!」
ノエルの前に魔法陣が形成され、光の玉が顕現する。色は若干青っぽいかな? 濃い青っていうより薄い青って状態だけど。
やがて光は収束していき、二振りの青色を帯びた小太刀へと変化する。ダガーじゃなく小太刀なのがいかにもうちのメイドさんって感じだよね。
うちの人たちは和風の武器を好んで使う。ノエルも和風の武器を好んでいるので、量産型の術装も希望に沿って小太刀になったと。
ノエルは小太刀を逆手で持って戦う。これは狼族の利点である素早さを最大限活用し、一撃の重さよりも手数で勝負という戦闘形式に合わせた結果。あとは『かっこいいから』って言ってたなぁ。
「どうですか? そこそこ馴染んできたと思うんですけど」
「どれどれ」
ノエルから術装を受け取って軽く振る。うん、だいぶノエルの魔力に適応してきてるね。わたしが魔力を流しても形を維持できてるし、ちゃんと成長してる。予想よりも成長してるって感じもするかな?
「あの、ユキさん、いろいろと聞きたいのですけど、なんかもうこんがらがってしまいますわぁ」
「ごめんごめん。それじゃ順に説明してくね」
改めてエレンたちに説明。
まず、量産型は厳密にいえば術装じゃないので、顕現させる際の詠唱が必要ない。魔石に宿るのは同じだけど。
術装じゃないということは、他人の量産型を借りることも当然できる。
そもそも術装は、お母様のような特別な人以外は所持者しか持つことができない特殊な装備。だけど量産型はあくまで〝術装のような装備〟、所持者が許可すれば誰でも持つことができる。
それだけでなく、量産型には大きな利点が二つある。
一つ目が『体内に魔石があれば誰でも所持者になれる』ということ。
天魔でなくても所持することができ、術装に認められる必要も一切ない。
二つ目は『所持者に馴染むと、いずれ本物の術装に進化する』ということ。
術装自体の量産は無理でも、術装を増やすことはできるという裏技だね。
もっとも、全部の量産型が術装に進化するわけじゃない。100個あればそのうち1個が術装になれば良いほう。
ただ、その確率は修行や環境で大きく異なる。実際、うちに居る人はみんな量産型から術装へ進化、もしくは進化途中。まぁうちの人たちってみんなお父様やお母様、シズクさんがうちに置いても良いって人を吟味し、さらに鍛えてるから当然なんだけど。
「というわけ。で、ノエルのも量産型なんだけど、順調に術装になりつつあるの。この調子なら100年くらいで術装になるんじゃないかな?」
「マジですか!? 300年くらいかかるかなぁって思ってたので、ちょっと嬉しいですー」
「あと30年も経ったら、たぶんわたしが持った時に拒否反応が出るくらい進化してるかも。うん、ちゃんと頑張ってるようでえらいえらい」
「えへへー」
ノエルの頭をなでなで。頑張ってる子はちゃんと褒めますよー。尻尾思いっきり振っちゃって、そうとう喜んでるわ。
でもね、尻尾振りすぎるとスカートめくれるから、もう少し抑えようね。




