9話 ちょっとした趣味・・・2
部屋の一角にあるふすまを開けて中へっと。あ、一体どんだけ広い部屋使ってるんですかって感じの呆れ顔されたわ。だってそこはほら、わたしって結構なお嬢様ですから!
さてさて、この中にはわたしの趣味の一つがドーンと待ち構えてる、どんな反応するかな~。
「わぁ、これって小さいけれどお城と町ですよね、模型という物でしょうか? あ、こっちには小さなお人形さんも」
キラキラした反応、いいねいいね。気に入った物語と同じ光景をミニチュアで再現するジオラマなんだけど、すごく良い反応だわ。
わたしってこういったジオラマ作るのも好きだからか、いろいろとこだわって作っちゃう。こだわりすぎてドン引きされるんじゃないかと少し懸念してたけど、なくてよかった。
「これはジオラマって言って、特定の情景とかを模型や人形を使って再現した物なの。ここにあるのはちょうどさっき読んでた本の内容の一つで、勇者がお姫様かばって魔王と戦うところのだよ」
「すごいです! それにいまにも動きそうなくらい」
ジオラマにくぎづけだねぇ、良きかな良きかな。でも『動きそう』ね、ふっふっふ。
「じゃぁ動かすねー」
「え!?」
「術式展開、さぁ動くんだよ」
術の発動により人形たちがそれぞれ動き出す。人形以外にも馬車や風車、さらには川の水まで流れ始める。これぞわたしのこだわり〝超動くジオラマ〟完璧だね。
「あ、あのっ、う、動いているんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うん、動くように作りました!」
ドヤァ。
違和感が無いように動作を繰り返させるのに苦労したものだわ。
「えっとね、ここにある人形とか建物、水なんかも全てヒトガタで制御してるの」
「ヒトガタ、ですか?」
「ん~、ゴーレムコアって言えばわかるかな? それと同じようなものだよ。それをこれ全てに組み込んでるってわけ」
やっぱヒトガタって神聖王国にはないのね。せっかくだし教えちゃおう、術式に興味持ったらそれはそれでいいことだし。
「ヒトガタって言うのはこれの事だよ」
ポーチからヒトガタを1体取り出す。いつかはお母様みたいに胸元からスっと取り出したいなぁ、あのエロカッコよさは憧れる。
「紙でできた人形でしょうか。でも足が無いですね」
「ヒトガタもいろんな形があってね~」
アリサにざっくりとヒトガタの種類を説明
・ヒトガタ壱式 人が手足を伸ばし大の字をしているような形
・ヒトガタ弐式 人が装束を着ているように腕は振袖、足は袴の様な形
・ヒトガタ零式 人ではなく腕を水平に伸ばしたヤジロベエの様な形
これ以外もあるけど、他のはあまり使われないんだよねぇ。
「わたしは主にこのヒトガタ零式を使ってるの。このジオラマもこれの小さいのを使ってるんだよ」
「なるほど。でもその〝イチシキ〟とかの方を使わないのはなぜすか?」
「用途が違ってね、簡単に言うと」
・壱式 人の形をしたものを動かしたり、人のようにヒトガタ自体を動かすもの
・弐式 式神を憑依させたり、自分の魂を憑依させて分体を作ったりする特殊なもの
・零式 壱式としても弐式としても使え、やろうと思えば地形を操作することもできる万能なもの
「ってとこなんだけど、零式は他のヒトガタよりも魔力の消費が大きく制御も難しいの」
「いろいろあるのですねぇ」
「そゆこと。まぁそれはさておき、どうどう? わたしのジオラマ、驚いた?」
すごい感心してるようだけど、わたしはヒトガタの感想よりもそっち聞きたいんだよね。友達と一緒にお勉強ってのもちょっと憧れるけど、今は趣味を自慢したい方なのだ。
さぁさぁ
「正直に申し上げると、想像を絶しているので、ただ凄いとしか言えません」
「そうでしょそうでしょー。いやぁがんばって作った甲斐あったよー」
「ちなみにどのくらいの時間をかけたのですか?」
ジオラマのお姫様じっと見ながら聞いてきたね。あのお姫様の人形気に入ったのかな?
「たーしかすっごい頑張ったので、3日だったかなぁ?」
「はい?」
「寝ないで作ろうとしたらシズクさんにバレてねー。寝ないでやれば1日くらいかな」
こっそり夜起きて作ろうとしたのに、ふすまを開けたら目の前にシズクさん居るんだもん。『お嬢様がまた夜更かししそうなのを察知しましたので、先ほど転移して来ました』だもの、ほんと敵わないわ。
「わたしが本気出せばもっと、って、どうしたのアリサ? 頭抱えちゃって」
「素人目ですが、どう見てもこの内容は数年単位ですよ……。この人規格外すぎて怖い」
「えー? 怖くないよ~、自分でも言うのもあれだけど、ただの可愛い狐さんですよ~」
耳をピコピコ、尻尾フリフリ、意識して動かすのも慣れたものだわ。前世は獣人じゃなかったのに、今では逆に獣耳と尻尾ない状態が全然想像できないなぁ。
「そ、その、あの」
「どうしたのかなー?」
いやわかりますよ。アリサの目、明らかに尻尾触りたそうなんだもん。やっぱモフモフは正義だね! でも狐族の尻尾かぁ、わたしはいいけど、う~ん、まぁいっか。
「触ってみる?」
「いいんですか!?」
「お、おぅ、すごい食い付きね、まぁいいけど」
反応がすごくてちょっとたじろいじゃったわ。
許可はしたけど抱きついた形で触られるのはちょっと恥ずかしいので、背中を見せて触ってもらうことにする。なによりうちの人以外が抱きつくのって結構抵抗があるからねぇ。
アリサとは仲良くなりたいけどそれはそれ、これはこれだし。
「はいどーぞ」
「では失礼して……」
う~ん、もしかしたらまずったかも? なんとなーく身の危険を感じ、うひゃぁっ!?
「ちょ、まっ、だめだってアリサ、そんな」
「あぁ、すごい柔らかくてモフモフで、いい匂いがして」
「だ、だからって、顔を埋めないでー!」
触っていいとは言った、だが顔を埋めていいとは言わなかったはずなんだけど!? まぁ気持ちはわかる、わかるんだけどー。
はぁ、どうしたらいいのかしらこれ。満足するまでモフられるしかない、かな……。
「すみません、取り乱していました」
まさか30分くらいずっとやられるとは思わなかったよ。わたしの尻尾の魅力、ほんとすさまじいわ……。
しっかしこれはちゃんと説明しておかないとまずそうだね。
「えっとね、わたしならいいけど、他の狐族の人に対して同じことはやらないでね?」
「その仰りよう、何か特殊な理由があるのですか?」
「二つ理由があって、一つは尻尾の毛が魔力媒体になるからだね。いろいろと問題があるから、信用できる人でもあまり触らせないの。もしもその人に抜け毛が付いていたら面倒なことに巻き込まれる可能性もあるからだね」
「なるほど、その毛をどこで手に入れたとか問い詰められることになると、納得です」
この毛はどこの女の物よ! みたいな修羅場の方がまだましなのがほんと困る。
それに尻尾の毛1本で確か大金貨1枚くらいになるんだったかなぁ、やれやれだよ。
「もう一つはどのような事なのでしょう?」
「あー、うん、親愛とか求愛になるからだね」
「え?」
「これは狐族に限った話じゃなく、尻尾のある獣人の多くがそういう受け取り方をするの。家族とかの近い人なら信愛、他の人は求愛になるかな。なので相手を選ばないと、その」
「え、えっと、あの」
相当慌ててきたねぇ。でもだいじょうぶ、そういう気が無いのはわかってるから。
それにこれはわたしの失敗、知らない可能性を考慮して触らせる前に説明すべき内容だったわ。
「触るだけならいいんだけど、顔を埋めて匂いまで嗅がれるとそうなるから気を付けてね」
「は、はい……」
「まぁそういう意味でやってないっての、わたしはわかってるから安心してねー」
「あ、ありがとうございます」
友達になりたいなぁって思ってはいるけど、いきなりその先もってのは考えてないわけで。
しっかしこういう大事なこと、いくら只人ばかりの神聖王国でもちゃんと教えておけとね。わたしだからいいものの、他の獣人だったらどうなっていたことやら。
あ、そもそも尻尾を触らせないか。
さて、アリサは顔真っ赤だし、ちょっと変な空気だし、話題をガラッと変えた方がいいかな。
だとしたら~
「ねぇねぇアリサ、このお姫様欲しい?」
「あ、その、できたら」
やっぱ気に入ったんだね、このお姫様人形。物語のお姫様に憧れるとかもありそうだけど、わたしの力作なだけあって結構可愛く作ってるからね。
「そっかー、でもこれってヒトガタ入ってるからあげられないの。な、の、で」
「なので?」
「一緒に作りましょー」
「はい?」
高価な材料は使ってないから、奴隷だから持っていたらダメとかはたぶんないはず。それにちょっと憧れてたんだよねぇ、友達と一緒に作るって言うの。
「それじゃがんばりましょー」
「あ、はい」
「いやそこは『おー』でしょ」
「お、おー」
「まぁいっか、まずはー――」
せっかくなら前のよりも良い物を作りたいよねー、わたしもがんばろーっと。