89話 禿げの先生はあの人だった!
神聖王国の人もこの学園に在籍してるのかぁ。
まぁ神聖王国の人はダメですっていう法律もないから、在籍していてもおかしくはないんだけど。
ただなぁ、なーんか嫌なんだよなぁ。わたしの中で神聖王国は完全な敵になってるせいだと思うけど。
「あれが神聖王国の人なのか。僕と同じで日本人のようだけど、正直弱そうだね」
「あーそれね。思いっきり勘違いしてるけど、わたしたちに匹敵するほど強いレイジの方が異常なのよ? 勇者ボーナスだって普通はもっと弱いものだからね」
そもそも他の勇者がレイジみたいに強かったら、おそらく神聖王国か傭兵帝国がこの世界の覇者になってるわ。
「しっかし部隊で来てるのかな? 同じような銃を持った人がたくさんいるから、ちょっとだけ警戒した方がいいかも。まぁわたしたちには通じない武器ではあるんだけどさ」
同じような銃を持ち、似たような格好をしているのが10人ほどいる。
あの10人が一斉射撃してきたとしても、わたしたちなら簡単に対処できる。学園でそんな物騒なことが起こるとは思えないけど、念には念で用心しておかないと。油断は一切しません!
それから30分くらい待ってるけど、まだわたしたちの番にならないとかどんだけ人が居るのよ。しかも減るどころか増えてる感じだし。
試験自体は止まらずに進んでいるっぽいけど、こうも人が多くちゃどうにもならないね。
しっかしなぁ、暇なので軽く様子も見ていたけど、ほんと雑魚ばっかだわ。なーんかわたしたちの方が場違いって感じがしてきたよ。
それに疲れてきたし、試験受けるのをやめて帰ろうかなぁ。
って、あれは
「マクレンせんせー」
担任であるマクレン先生が居たよ。なんでここにいるんだろ?
「あーお前たちか。ここに居るということは、お前たちも受講するのか?」
気付いたマクレン先生がこっちに来たけど、相変わらずの迫力だね。
怖くなった生徒さんたちが左右に分かれて道になるとか、先生どこまで威圧したのよ。わたしたちには通じないけどね!
「フルーレ先生に勧められたので来てみました!」
「ほう、フルーレ嬢からか。まぁお前たちなら当然だったか」
まぁわたしたちの素性なんて当然知ってるからだね。知らなかったら担任としてちょっとやばい。
「先生はどうしてここに? 担任だからわたしたち生徒を確認しに来てるってわけじゃないよね?」
「知らんのか? オレも冒険科の講師だぞ?」
「うそん?」
いやまぁ確かに勉学ってよりかは冒険って感じの見た目だけどさ。
あれ? そういえばフルーレ先生が『禿げた男の人が一番偉い』って言ってたけど、マクレン先生も禿げてるよね。つまりそういうこと?
「お嬢様、ハゲですよハゲ! おそらく一番えら、むぐ」
「ノエル、少し黙ってましょう。そもそも面と向かってですね」
「なんだ? 新顔もいるが、従者を一人増やしたのか? まぁ気にするな、俺のハゲは意図的だからな!」
ハッハッハと豪快に笑ってるけど、意図的ってつまり威圧するためってこと? 確かに目つきも鋭いからちょっと怖めだけど、威圧になるかっていうと、う~ん。
わたしたち基準だと威圧にならないけど、普通の人だと違うのかな?
「ということは、マクレン先生がこの学科で一番偉い方ですの?」
「その通りだ。試験がどの程度進んだのか確認しに来たわけだが、こりゃ1週間はかかりそうだな」
周りの生徒の状態を見て呆れてるけど、まぁそうなるのもわかるわ。
召喚された魔物と1対1で戦うだけなんだけど、なぜか遅い。
ドラゴンやデビルといった上位種類の魔物が相手なら、それなりに遅くなるのはわかる。普通の人だと倒すどころかパーティで掛からないと無理な敵だからさ。
だけど、召喚される魔物ってスライムとかゴブリンという雑魚中の雑魚だよ? 金属でできたスライムとか、金色に輝くゴブリンとかじゃなく、いたって普通のスライムとゴブリンだよ?
そんな雑魚に対し一進一退の激しい攻防してる人が多いんだもん。普通にありえないよこの光景は……。
「お前たちからすればありえない光景なんだろうが、これが現実だ。レグラス以外の国は大体こんなものだ」
マクレン先生が呆れながらも説明してくれる。そういえばお姉様からもその辺を聞いたっけ。
「まぁここから強くなれば良いだけなんだが、そのための努力を怠る奴も多くてな。自分は転生者だから秘めた力があるだの、一族に受け継がれた能力があるとか言って、ろくに修行もしない者ばかりだ」
バッカじゃないのって思う転生者や貴族の人あるあるですね。
「ということは、冒険科はそういう腑抜けを鍛える学科なのかな? 僕も異世界から召喚されたからわかるけど、召喚時に得た力だけじゃこの世界の上位に食い込むことは不可能だからね」
「その通りだ。冒険者ギルドに任せるのもいいんだが、そうすると無駄に死人を増やす結果になりそうでな。見ての通り、力はないくせにプライドだけは高いやつが多い。自分は強いと勘違いする者までいる。そんなのが冒険者ギルドの初心者講座を受けるわけないからな」
すっごいなっとく。
冒険者ギルドだって死人を増やさないように対策として初心者講座を設けてるけど、転生者や貴族なんかは受けないことが多い。前者は自惚れ、後者は見栄からだけど。
そもそもこの世界、冒険者ギルドで発行される級は一種のステータス。
銅級になるだけでモテモテになったり、一目置かれるような存在になったりする。銀級以上なんてさらにすごいけど、銅級からの進級って結構難しいとか。
だからか、無謀な奴ほど実力が無いのに上位の級になろうとする。それこそ無理な依頼を受けたり、ダンジョンの深くに潜って強力な魔物を倒そうとしたりする。
だけど現実は甘くない。無謀な冒険者は死亡が当たり前、運が良くとも再起不能の重症を負うことが多々ある。
冒険科はそんな馬鹿を減らすための学科の一つと。
馬鹿を減らすだけでなく、冒険科で出される課題をすべて達成できれば一流相当になり、冒険者ギルドへの斡旋もしてくれる。冒険者ギルド側もその評価を受け、鉄級以上の級を保証してくれるみたい。
なにより冒険科は授業としてダンジョンに潜ることができるので、他の学科と違って学びながら収入を得ることができる。
訓練のため付き添い込みで中級層に潜ることもあるそうなので、結構な儲けになるとのこと。中級以上は素材もそこそこ高いからねぇ。
貴族なんかは見栄のため、学園内の強い生徒に依頼をかけて上級層に潜ることもあるらしい。上級層のお宝を飾るためっぽいけど、そこまでして見栄を張りたいのかねぇ。
「まぁ受講試験はお前たちなら余裕だろう。ならせっかくだ、上位の受講試験を受けてみないか?」
「上位の、ですか?」
「ここも精霊科と同じでな、特に優秀な奴だけオレが教えることになってる。お前たちが学べる内容は無いかもしれんが、上位合格者の生徒はダンジョンに潜るだけで単位を取ることもできる。つまり、精霊科の授業以外は好きにできるってことだな」
「なーるほど。でもわたし、ダンジョンに籠るだけでなく先生の授業も受けたいかな。わたしの知らない内容もあると思うし、なにより他の人がどのように学んだかを知っておくのは重要。もしも他のパーティと合流することになっても、変なトラブル起こさないで済むと思うしね」
わたしの場合、フローラさんに教わったことをベースにしつつ、家族の意見を取り入れた内容になってる。そのせいなのか、ダンジョンというよりは戦場向けの対応だったりするんだよねぇ。
ダンジョンは普通こう潜りますっての、あまり知らないのも事実。当然うちのメイドであるアリサやノエルも知らないし、わたしのやり方を教えちゃったエレンとレイジも知るわけがない。戦場ならお任せだけど、ダンジョンでは常識外れパーティに仕上がってるというのがなんともね。
「その心構えは良いぞ。まぁ期待はしないでもらうとしてだ、上位の試験は見世物の意味合いもあるから、そこだけは覚悟しておいてくれ」
「もしかして、戦いを他の人が見れるように映像で映し出すとか?」
「それもあるんだが、上位の試験は学園が管理しているダンジョンへ潜ってもらう。といっても5階層しかない簡単なものだ」
学園が管理しているダンジョン、なかなか興味を引く言葉ですよ。ダンジョンの管理はすごく難しいって聞いてるから、どんな状態にしてあるのか気になっちゃうね。
学園のダンジョン、これはすごく楽しみですな~。




