82話 気が付いたら精霊講座?
タイトル通り、ちょっとした説明回です
精霊科の試験を受けてるけど、三人ともバッチリですね。
アリサはうちで2年以上、エレンとレイジも1年近く魔法や術を学んだ成果が確実に出てるわ。わたしの指摘もほとんどいらない状態で良かった良かった。
まぁ精霊術に関してはどうにもならなかったみたいだけど。
「よっし、こんなとこかな。精霊術は人によって少し解釈が変わるから、ここは採点外で先生の判断用にしているみたい」
「解釈が変わるとはどういうことですの?」
「そうだなぁ、精霊さんの力を借りるのは共通してるんだけど、その精霊さんを“友達〟として考えるか〝戦いの仲間〟として考えるか、みたいな感じかな? わたしが書いた答えは友達にお願いするやりかたなんだ」
もう少し詳しく説明すべきだね。それじゃ手のひらに風の精霊力を集めてっと。
すると手のひらには緑色の光の玉が作られる。作られた光の玉が徐々に人の形へと変化し、あっという間に緑色の髪をした手のひらサイズの女の子が現れる。
「こんなふうに友達になった精霊さんを顕現させて、精霊力を渡して使いたい精霊術をお願いする感じね。ちなみにこの子は風の小精霊だから、精霊術も風系統の物になるよ」
そう説明していると、当の風の小精霊は手のひらから飛び立ち、私の肩の上に座って頬ずりしてくる。相変わらずだなぁ。
アリサは見慣れてるけど、エレンとレイジはなんかすっごい物を見た顔になってるね。これはちょっと補足した方がいいかも。
「これはわたしとこの子の仲が良いからだね。最初はもっとよそよそしいんだけど、仲良くなっていけばこんなふうになるよ」
「何と言うか、ほんと凄いですわね。わたくし達に見える状態で顕現できるのはもちろんですが、とても親しくされてるのがさらにですわ」
「昔から精霊さんとも遊んでるからねぇ。ちなみに、本来は顕現させるにはちょっと難しい手順が要るんだ。でもわたしは呼び出したい精霊さんに合わせた精霊力を生み出すだけで、術式を構築しなくてもこの子たちを顕現できるわけ」
本来の手順は顕現させるための魔法陣や術式を構築し、魔力と精霊力を使って召喚する。普通の召喚と違い、精霊力も使うのが重要。
それに精霊を召喚する場合、たとえ召喚陣が完璧に構築できても顕現できないことがあるのがねぇ。
普通の召喚であれば魔力不足や不備が無ければ成功するけど、精霊の場合は精霊側の気分が重要になってくる。
呼び出したい精霊が好む精霊力を使い、精霊が顕現してもいいよって気分にならないとダメ。
特に精霊が好む精霊力を作るのが非常に困難。精霊それぞれの波長に合わせる必要があり、合っていないと精霊には不快な力になる。
わたしは生まれながらその辺は無意識にできちゃうけど、普通はそうはいかないみたいだし。
そんなことを説明したら、エレンたちは妬むじゃなくて凄いと褒めちぎるんだけど。嫉妬の欠片も無いとか、ほんと良い子たちですね!
「でもね、こんな風にいつでも顕現できるけど、実はわたしってこの子たちの力を借りて精霊術を使うことはできないんだ」
「どうしてですの? 仲はすごく良さそうなのに」
「わたしの精霊力が強すぎるのが問題なんだ。強すぎると精霊術に変換する際、精霊さんの負荷が高くなっちゃうの。わたしの精霊力に耐えることができるのは、今のところ精霊神だけだね」
顕現させるのには精霊力の強弱は関係ないけれど、精霊術を発動させるのには影響するんだよねぇ。
そもそも精霊術とは、精霊に対し術者が精霊力を渡し、精霊は受け取った精霊力を自身に取り込んで術を発動させるというもの。
ここで厄介なのが術者の精霊力の強さ。実は精霊によって受け取れる精霊力の強さの限界が決まっている。
ある精霊が100の精霊力で術を発動する場合、術者は100の精霊力を精霊に渡す必要がある。
一度に50の精霊力を引き出せる者であれば、精霊力を2回渡して合計100にすればいい。
150の精霊力を引き出せる場合、100を超えているのでそのまま渡せる。そうすれば精霊が受け取った150の力を特殊な力を使って100になるように減らしてから取り込む。
よくできた仕組みだけど、実はこの精霊力の削減が精霊に負荷をかける。限界とはこの負荷にどこまで耐えられるか、ということ。
エルフが一度に引き出せる精霊力を100とした場合、大精霊が1000、中精霊が100、小精霊が10くらいの精霊力が基準値となる。
そして精霊は、基準値の10倍まで精霊力を取り込むことができる。
エルフを100とした例の場合、相性最高は中精霊で精霊力の変換が要らない。小精霊も10倍の範囲なので対応できる。大精霊はエルフ側の精霊力が足りないので、10回引き出し精霊力を1000にする必要がある。
範囲を超えた力も扱えるそうだけど、それは精霊側の負荷が非常に高くなる。
負荷が高いと精霊は術者に対し嫌な感情を持つため、いずれ術者から離れていくことになる。
そして離れた精霊は他の精霊とも情報を共有するので、やがてその術者は精霊の顕現すらできなくなる。精霊だって嫌々やりたくないからしょうがないよね。
で、わたしは精霊力が桁違いすぎる。
エルフを100とした場合、1000000くらいになる。ほんと化け物って感じだけど、成長すればさらに上がるというのが非常に厄介。
しかも引き出す精霊力を抑えたところで、1000000が999900になる程度。ほんと参っちゃうわ、
もしも大精霊にわたしの精霊力を渡した場合、負荷が強すぎて大精霊が消滅する可能性が高い。ほんと強すぎるものも問題があるわ。
まぁ精霊術に使わなければ、わたしのバカみたいな精霊力は精霊にとってご馳走らしいからいいんだけど。
そんなバカみたいな精霊力の変換に耐えられるのは精霊神だけ。精霊神は他の精霊と異なり、変換できる精霊力の上限がない存在。
上限がないので当然わたしのようなバカみたいな精霊力であっても平気。なおかつ変換の必要がない最高の状態でやり取りもできる。わたしも化け物だけど、そんなことができる精霊神も大概だなぁ。
現状、ここまでバカみたいな精霊力を持ってるのは極少数。
わたしとお母様の他にも数十人は居るみたいだけど、会ったことないし亡くなった人もいるそうなので、正確な数は不明。
もっとも、精霊神たちはわたしとお母様、それとお弟子さんの数人にしか力を貸していないそうなので、宝の持ち腐れ状態になってる可能性が高いとかなんとか。ちょっと同情。
長々と三人に説明したけど、うん、勉強になったようで拍手されちゃった。ちょっと恥ずかしいです。
なんだかんだで精霊術のお勉強みたいになっちゃったから、気分転換も兼ねて風だけでなく火水土光闇の小精霊も顕現させたけど、ちょっとやりすぎた。
だってエレンが顕現させるたびに凄い凄いって言ってくるから、わたしもテンション上がっちゃったんだもん。調子に乗ってたせいもあって、周りの視線を気にしなさ過ぎたわ。
そのせいで
「是非ともその精霊を売ってくれないか? もちろん言い値で買うよ」
精霊は売りものじゃないから。これだから精霊の知識に乏しい国の奴は嫌い。
なによりレグラスやアルネイアといった〝普通の国〟では精霊を商品として扱うことはまずいないけど、〝変な国〟では魔道具扱いしてるから最悪なんだよね。
「顕現方法を私に教えたまえ。なんなら雇ってやっても――」
熱心なのはわかるけど、何でそう上から目線なんですかね。
ほんと貴族ってのはろくなのいないなぁ。しかもコイツ、下から数えたほうが早いくらいの下位貴族だし。
「それは精霊石では!? いったいどうやって作りだしたのだ?」
どうやるもなにも、精霊には顕現させるときにわたしの精霊力をあげてるから、精霊はそのお返しに精霊石を作ってくれるだけなんだよなぁ。
それになんか精霊石をすごい物みたいに言ってるけど、うちの国なら魔道具のお店で普通に買えるんですけど。
「ち、小さい子がこんなに。グフ、グフフフフフ」
うわぁ変態までいるよ。確かにこの子たち、みんな可愛い女の子だけどさ。
精霊は顕現させる際、術者の精霊力で姿は変わる。
ただそれは真の姿ではなく、あくまで仮初の姿。分体が顕現することもあれば、精霊力を固めただけの虚像な場合もある。
でもわたしが呼び出すと絶対に真の姿で現れる。
これはわたしに対して仮の姿では失礼と考えてるから。すべての精霊と友達ってのもあるけど、一番は精霊がわたしに対して強い好意を持ってるのが理由だったりする。その弊害が今に至るわけだけど……。
「斬りますか?」
「うん、落ち着こうねアリサ。気持ちはすっごいわかるけど、相手しちゃだめだよ?」
「ならばレイジを差し向けますわね!」
「エレン様、それも問題だと思うよ……」
予想してはいたけど、アリサとエレンが暴走しそうになってるわ。こういう息のぴったり具合は勘弁してください。
「レグラス以外だと精霊自体珍しいからね。なのにユキ様が六精霊を簡単に呼び出してるから、貴族としては喉から手が出るほどの状態なんだよ」
「そういえばそうだったね。ここまでなるとは思ってもいなかったけど……」
そういえば露店で魔石を精霊石って言ってたのもあったなぁ。
それにエレンのお披露目の時、貴族たちが精霊石にすっごい食い付いてたっけ。純度がとんでもなく高い物だったから、食いつくのもしょうがなかったけど。
しっかし国が違えば文化も技術、知識すら違うけど、ここまで精霊関係の違いがあるとちょっと不思議。うちの国が精霊との仲が凄く良いのもあるだろうけど。
「そうなると、この精霊科も微妙なのかな?」
「どうなのでしょう。駄狐が勧めるので利点はあるとは思うのですが」
本当に無駄ならカイルが言ってきそうな気がするんだよねぇ。あいつもなんだかんだでうちに通ってるせいか、それなりに精霊に関する知識を学んでるし。
ちょっとだけ期待しておこうかな。




