80話 もしかしたら彼女さんかな?
予想通りのハプニングはあったけど、お昼は続行。
というか
「ちょっとカイル、それって何よ」
「あーすまん、これも説明していなかった。パーティ用で注文すればセット大量とかコース大量にしなくても良いんだ。しかも割安になる」
「なるほど。まぁそういうの無ければあなたがここでお昼取るわけないか」
パーティ用があるとは盲点だったわ。確かにメニューは見たけど、個人用のしか見てなかったからなぁ。パーティ用があるなんて考えもしなかったし。
まぁ先に言ってもらいたかったのは確かだけど。
「で、すっごーく気になるんだけどさぁ、隣の可愛い子は誰?」
「わたくしも気になりますわ。特にそのお耳が良いですわね」
そう、カイルの隣には可愛い兎族の女の子が座ってる。
身長はアリサと同じくらい、真っ白な髪で長さはセミロング、目もパッチリしていて可愛い。体の凹凸はちょっと控えめみたいだけど。
「あーこいつは俺の弟子だよ。ほら、挨拶しろ」
「は、はいっ! 初めまして、自分はルーヴィといいます!」
ほほー、真面目な子っぽいね。ちょっと緊張もしてるようだし、貴族相手の経験があまりないのかな?
まぁそれは置いといて、カイルの弟子ねぇ。ほんとにそれだけなのかな~? 何となくそれ以上に見えるんだよね~。
「わたしはユキっていって、こっちがアリサ、向こうがエレンでその隣がレイジだよ。よろしくねー」
「は、はい! 師匠から皆様のことは聞いております!」
「……駄狐、どういう説明したのかちょっと言ってみてください」
「あー、まぁ、その、また今度にな!」
こいつ、いま明らかにアリサの顔見て言いよどんだぞ。まぁおかげでどんな説明したか予想できるけど。
「まぁまぁ。でもカイル、そんな可愛い子が居るのにユキ様を狙ってるんだね」
「いやいや親友よ、こいつとユキを比べたらどっちが上かなんてわかりきってるだろ? というか比べるまでもないだろ」
「いやまぁ気持ちはわかるけど、それを今言うのはどうかなぁ」
かわいそうなルーヴィちゃん、堂々と他の女と比較されてますよ。さぞかし不機嫌にって、あれ? 全然気にしてない? なかなか強い心をお持ちのようで。
「んで、二人っていつから付き合ってるの? 弟子が居るってこと自体初めて聞いたんだけど」
「付き合い自体は2年前からだな。弟子として鍛えだしたのは先月からだ。どうやら俺の親父、こいつを従者にしたいようでな」
そういえばカイルは天狐の里の次期族長候補なだけあって、実は結構なお坊ちゃん。それなのに従者とか居なかったんだよね。
でも理由があって、天狐の里でカイルの従者になれそうな人がほぼいないから。これはカイルの力についていけない者が多く、そんな弱い者を付けるのはお断りとカイル自身が突っぱねてるため。
このまま従者無しでも良かったけど、カイルの父親である狐族の長はそうは思わなかったようで。まぁ他の族長の子供には従者が居るのに、カイルにだけ居ないのは問題だと思ったんだろうね。
そんな中、カイルはルーヴィちゃんと知り合ったと。
出会いは運命的だったようで、魔物に襲われていたルーヴィちゃんをカイルが華麗に助けたらしい。まさに銀の貴公子だったとルーヴィちゃんがその場面を熱く語ってくれたけど、貴公子ねぇ……。
まぁルーヴィちゃんは元々カイルに対して強い憧れも持っていたそうで、気が付けば従者のような立ち振る舞いをその頃からしていたみたいね。
でも当のカイルは弱い奴を傍に置きたくないらしく、割と適当な感じで月日が過ぎていったと。
でも予想外の出来事が起こる。
そう、わたしがこの学園に通うという多方面が大騒ぎになる出来事。ホント大騒ぎだったようで、いろんな貴族さんがドタバタしてたとかなんとか。
天狐の里に伝わったのは、わたしが入学する数ヵ月前の土壇場だったようで、族長さんがすごい焦ったそうな。
対等に接したい一族の娘には従者が居るのに、自分の息子には従者が居ない、ということが原因だけど。完全に見栄だねぇ。
そこで白羽の矢が立ったのがルーヴィちゃん。
既に従者のような立場であったこと、弱いけど戦闘面での筋は良いということから、カイル付けの従者として急遽決まったそうで。
もっともそれに納得いかないのはカイル自身。
筋が良いといっても弱いのは確かなので、従者としての拒否が出来ないのならば鍛えよう、となったそうな。
「へー、ちょっと見直したわ。相手しないで無視もできたのにちゃんと鍛えようとか、偉いじゃない」
「だろ? 惚れても良いんだぜ?」
「その一言が無ければね……」
ほんとカイルって素がバカだなぁ。
余計なこと言わなければ好感度上がるってのに、ほんとバカだね。
「ルーヴィさんは魔兎ですの? 失礼だとは思いますけど、あまり魔力も感じませんから。アリサさんよりもだいぶ低そうですし」
「仰る通り魔兎です。2年前に進化しました!」
2年前ってことはアリサと同じだね。
でもエレンの言う通り、アリサとの差はちょっとの努力では補えないほど開いている。まぁアリサはすっごい頑張ってるから、比較しちゃいけない気がするけど。
でもなぁ、正直言ってルーヴィちゃん、本当に魔兎? ってくらい魔力が低いんだよね。魔力に頼らない体になってるわけじゃないから、単純に訓練不足ってとこかな。
となると、冗談抜きにカイルを見直したわ。
いくら筋が良くても、正直言ってここまで弱いと鍛えるのがすごく大変。基礎から鍛える必要もありそうだし、いっそのこと冒険者ギルドの初心者講習に任せた方がいい気もするレベルだから。
アリサも最初はそうだったけど、うちのメイド研修には基礎から鍛えるのもあったから、それで何とかなっちゃったわけだし。
メイドの基礎が戦闘の基礎にもなるとか、ほんとメイドって何なんですかねぇ……。
「とゆーことは、カイルのお気に入りってことだね」
「まぁそこそこ気に入ってるぜ。まだ修業は基礎中の基礎って段階だが、日々成長してるのは俺もなんかうれしいしな」
「結婚しちゃえばいいのに」
「それだけはマジでねーわ」
照れてるんですね、わかります。
しかしこれはカイルが教えたくないマル秘エピソードを聞けそうな予感。どこかで聞きだしたいなぁ。
「でも兎族かぁ。ウサギかぁ……」
「お嬢様、何か変なこと考えてませんか?」
「そ、そんなことないよー?」
アリサとエレンにウサ耳と尻尾付けて、セクシーなバニーガールにしてみたいなぁって思ったりなんかしたけど。
そしてその耳と尻尾をモフモフしたいなぁとも思ったりしたけど。
あ、やめて、思っただけだから、こっそり実行しようとしないから。だからほっぺたひっぱらないでぇぇぇぇぇ。ルーヴィちゃんに意識向きすぎてたのも謝るからぁぁぁぁぁ。
「はうぅ、アリサの愛がどんどん重くなってくる」
「重くないですから!」
「愛の部分は否定しないのですわね……流石ですわ」
うん、言いそうな気がしてたけど、エレンさん追撃はやめよーね?
その言葉で気が付いちゃったのか、アリサってば恥ずかしさのあまりさらに顔真っ赤になっちゃったから。
でもバニーガール、ちょっとやってもらいたいなぁ。今度お願いしてみよう。
「ところで二人とも、これは受けた方がいいっていうお勧めの学科はあるの?」
「そうだなぁ、精霊魔術がある精霊科なんていいんじゃないか?」
「精霊魔術かぁ」
この世界には様々な術が存在している。
まず〝魔法〟もしくは〝魔術〟と呼ばれるもの。
これはその名の通り、魔力を使って現象を発現させる。わたしの使う術式や召喚術なんかもここに含まれる。
次に〝精霊術〟と呼ばれるもの。
これは術者の精霊力を精霊に渡し、精霊が現象を発現させる。ただし精霊に認められた者しか使えないため、ごく少数の者しか使えない。わたしはバッチリ使えるけど。
そして〝精霊魔法〟もしくは〝精霊魔術〟と呼ばれるもの。
これは従来の魔法や魔術に対し、魔力ではなく精霊力、もしくは魔力と精霊力を合わせた形で現象を発現させる。習得は難しいけど、精霊が認めなくとも使えるちょっとした裏技みたいな術。
精霊に精霊力を渡すところは精霊術と同じだけど、現象を発現させるのは術者自身。精霊は魔法や魔術が精霊力で発動できるよう、力の変換をする存在となる。
厄介なのが精霊魔術は精霊術と違い、精霊側の意志は完全に無視されるところ。好まない相手の精霊力でも受け取ってしまったら変換するしかない、そんな状態。
精霊側も対策はしているから大事にはならないけど、ちょっと注意が必要なんだよねぇ。
まぁ精霊魔術が使えなかった場合でも、精霊魔術特有の構造式は役に立つことが多いから、みんなに覚えてもらうのはアリだなぁ。
なにより、わたしの知らない術式もあるかもしれないしね。
ただなぁ、この国って精霊関係の知識劣ってるんだよねぇ。あまり期待はしないでおいたほうがよさそう。
「自分は機工科がお勧めです。転生者の方の知識から作られた機械の作り方も学べますよ」
「ほほー、ちょっと面白そう」
古代エルフさんの技術はとんでもないけど、転生者さんがもたらす知識だってそれに劣らない物もあったりするからね。
まぁ転生者さんが新しい技術というかアイディアを持ってきたら、古代エルフの技術でさらに発展させるのがうちの国だけど。
「それじゃ午後はその二つ見に行ってみようか。いまいちだったら後でカイルに文句言うね~」
「なんでそうなるんだよ。まぁこれでも先輩だ、何か困った事とかあったら聞きに来てくれ」
「ほーい。んじゃ残りもさっさと食べますか」
では午後に向けてじゃんじゃん食べちゃおう。……この大量のコーヒーもどうにかしないと。




