8話 ちょっとした趣味・・・1
アリサとのタイヤキパーティ(勝手に命名)から数日後、今日も穏やかな陽気。
あれからもちょくちょくあのロリコン勇者がうちに来てるけど、何の用があるんだろ。でもまぁたいていアリサも一緒に来るからいいかなぁ。今の生活に不満はないけど、もうちょっと歳の近い友達欲しいし……。
「というわけでアリサ、今日はせっかくなのでわたしの部屋にご招待しますよー」
「あのユキ様、どういう訳でそうなったのか全く分からないのですが」
今日もアリサが連れてこられたので、もっと仲良くなるためにもうちょっと踏み込んだ付き合いもしてみよかなぁと思ったのだ。
うん、自分でも会って挨拶の二言目がこれだと状況が全く分からないのは認める。でもあのロリコン勇者が帰るまでの時間しかないし、なら急がないとね!
「それにしても大きなお屋敷ですよね、お城くらいの広さがありそうです」
アリサを案内してるとついに言われちゃったわ。うちってやっぱでかいよね、ちょっとした小国よりもお金持ってればこうもなるのかな?
まぁ実はこの国で一番偉いのは王様でなくうちのお母様、二番目がお父様って裏の事情があるから納得だけど。
「でもうちって二階は無いんだ。離れにある結界塔とか観測塔よりも高くできないからだけど」
「建物の影ができないようにするためでしょうか」
「そんなとこ。なのでうちは地下室を作っているんだ~。と言っても生活は一階で、地下は研究部屋や修行部屋、あとは倉庫ばっかだけどね」
屋敷の案内をしながらついに到着。さてさて、わたしの部屋を見てどんな反応をしてくれるかな~。
「さぁ入って入ってー。あ、スリッパはそこで脱いじゃってね。わたしの部屋ってほとんど畳だからスリッパ要らないの」
「わかりました。失礼しま……わぁ、本がいっぱいですね!」
やっぱりそこに目が行くよね。でっかい本棚とぎっしり詰まった本が思いっきりその存在をアピールしちゃってるからねぇ。
本を読むのが好きなので、気に入った本があればどんどん集めちゃう。その結果がこのでっかい本棚でもあるけど。
いろんな国の図鑑や辞典、絵本やおとぎ話、古文書の類まで多種多様。我ながら集めてる本の種類多すぎだってたまに思うわ。
「何か読みたいのあったら取ってきていいよー。すごい珍しいのとかもあるけど、状態保存の術を付与してあるから乱暴に扱っても大丈夫だよ」
「は、はい! ちょっと見させてもらいますね」
お、目がキラキラしてるね。もしかしてアリサも本が好きなのかな? 好きだったらいいなぁ。
それにしてもこの状態保存の術って便利だよねぇ、ぼっろぼろの古文書でも術を付与しておけばそれ以上崩れないわけだし。おかげで何度も読み返して解析もしやすいのがいいよね。
あえて欠点をあげるなら、術を付与するには対象1個につき術札1枚使っての術式になるので、術札を使う分コスパが悪いくらいかな。こういう便利な術を考えた人、ほんとありがとうございますだね。
さてさて、アリサが本を探してる間に快適な読書空間も構築完了。座椅子は特製のアレにしたし、飲み物やお菓子もバッチリ。あと必要なのは~、お、気になる本があったみたいだね、1冊抱えてるわ。何の本持ってきたのかな?
「あのユキ様、この本って、なんですかそれ?」
「これはわたしの座椅子、熊五郎です」
「はい?」
「こっちはアリサに用意した座椅子、寅三郎です」
「いえ、あの」
「熊五郎の方が良かった?」
「いえ、まずその物体が何なのか、ご説明をお願いしたいのですが」
おっとどうやら他国にはこういった座椅子はないようね。この国なら似たような製品がいっぱいあるけど、こういうとこも違うんだねぇ。
「これはわたしの持っている大きなぬいぐるみです、立たせるとこの様に大人の人よりも大きいです」
「みたいですね……」
熊五郎を立たせたけど、うん凄い見上げちゃってるね。でもこの位ないと大きくなった時座れないからねぇ。
「で、この子を座らせます。そして人を抱きかかえる感じにポーズをとらせて、そこに座ります。これで可愛い座椅子の完成です!」
「は、はぁ。でもなんでわざわざぬいぐるみの上に座るのかが」
「まぁまぁ、一度座ればわかるから。はい座って座ってー」
アリサを強引に寅三郎の上に座らせてっと。ふっ、座ったとたんにアリサの表情崩れたね。
その肌触りと座り心地の良さ、さらにこの暑すぎず寒すぎずの温かさ、完璧でしょう。転生者が作った〝人をダメにするクッション〟といい勝負すると思うんだ。
「こ、これっ、すごいです! こんなの今まで一度もなかったです!」
おーすごい興奮してくれて、こだわりの素材を使って作っただけの甲斐はあったわ。こういう反応貰うとほんと嬉しいね。
「あと紅茶とお菓子もどうぞっと」
「あ、ありがとう、ございます」
「気にしない気にしない。どっちもこの街で買えるものだから、気に入ったらお店紹介するよー」
んー、神聖王国の奴隷という立場だからかな、わたしの方が用意するのにちょっと抵抗があるみたいね。この国だと奴隷だから下に見るとかは無く、対等に接するのが当たり前なんだけどなぁ。
それはさておき、これで準備完了っと。さてさてアリサは何の本を持ってきたのかな?
ほー、わたしも好きな恋愛小説だね。内容もいいけど表紙と挿絵もすごい綺麗だし、最初の1冊にもってこいだね!
「この本なのですけど、これってこの国の文字なのでしょうか? 凄い綺麗な字だなぁって思いまして」
「それは人魚さんの文字だね。国ほどの規模じゃないけど、海には人魚さんが住む集落があるの。これはその集落で昔から使っている文字になるよ」
「人魚ですか。それだと普通の人は読めないのでは?」
「そだよ~。なので普通は翻訳版の方を読むみたい。わたしは人魚さんの文字も覚えたから原本をそのまま読んじゃうけど」
前世の翻訳魔法が使えなかったけど読むのを諦めたくなかったからなぁ、
ほんとがんばって文字を覚えたわ。そういえばあとから翻訳版があることを知ってちょっとうなだれたの思い出した。
でも開き直って、逆にありとあらゆる文字を覚えようとする転換期ではあったけど。もしも最初から翻訳版の存在を知ってたらどうなったんだろ? 他の文字を片っ端から覚えようなんてしなかったのかな?
でもそっか、わたしの部屋の本って原本ばかりだから、このままじゃ読めないね。ならあれ使うかなー。
「ちょっと待っててね。たーしか引き出しの中に~」
引き出しの中をガサゴソ、アリサにじっと見られてるけど気にしない。せっかくだし、いくつか出した方がいいかな。ならこれとこっちと、これもかな。
「はい、これ使ってみて」
「これは?」
「わたしが他国とかの文字覚えたときに作った文字の変換表と、よく使う単語をまとめた辞典、それと会話などで使う構文をまとめた物だね。ちゃんと合っているか確認するため、こういうの作って知っている人にみてもらったんだ」
ほんといろんなの覚えたなぁ。これなら翻訳の仕事で食べていくこともできるかな?
「それじゃ使い方教えるねー」
「お願いします」
「まずこの国の言葉だと――」
時々聞かれながらだけど、アリサが本を読めるようになったのはよかったよかった。やっぱアリサも本を読むのが好きなのかな? 結構真剣だし。
そうだ! 気に入った本があったらせっかくだしあげちゃおう。でも奴隷だと取り上げられちゃうのかな?
「このお話も素敵ですねぇ。最後はみんな幸せになるところが良かったです」
「ご都合主義っていう人もいるけど、わたしもそっちの方が好きだねぇ。お話の中くらいみんな幸せでいいと思うんだ」
アリサの好みは最後は絶対にハッピーエンドなお話、ジャンルは恋愛系で特にお姫様が助けられて恋に落ちる王道と、まさに乙女って感じですねぇ。
鬱展開が好きですとか、悲恋物が大好物ですって感じだったらどうしようって思ってたからよかったけど。
「そうだ! アリサにいいもの見せてあげる」
「いいもの、ですか?」
「ついてきてー」
せっかくだもんね、いろいろ見せたくなるものです。




