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7話 これが至高のタイヤキです

少し長いです

 お母様の隣に座り、わたしの隣にアリサが座る。両手に花ですねとバカなことを考えるのはわたしくらい……でもなさそうだけどまぁいいや。


「こっちがユキちゃんのお茶ですよ~。それとこっちがアリサちゃんのだけど、お茶で大丈夫?」

「は、はひ、だ、だいじょうぶです」


 アリサ、まだ気が動転してるみたいだねぇ。免疫が無いのか、はたまた妄想が激しいのか、ちょっと気になるね~。





「はい、お母様に質問が!」


 ビシッと手を挙げるわたし、癖は抜けないものです。


「はい、ユキちゃんどうぞ」


 そしてノリノリで返してくれるお母様、さすがです。


「一人何百個まで大丈夫でしょうか?」

「え? 何百? え? ユキ様、何百って、え? え?」


 変なこと言ったかな? アリサがすごい驚いてるわ。子供でも500個くらいなら行ける気がするんだけど、う~ん。


「そうねぇ、今日は1000個くらいまでは大丈夫じゃないかしら。お休みの子もいるからね」

「おぉ~。でもまだあまり食べれないので400個くらいにしておきまーす」

「無理して食べ過ぎちゃだめよ? 余ったら取っておけばいいだけだからね」


 ほんとは1000個行きます! って言いたいけど、さすがに無理。もう少し大きくなれば行けそうな気もするけど、まだまだ小さいからなぁ。


「それじゃいっただきま~す、あーむっ! もぐもぐ。あれ? どうしたのアリサ、もしかして1000個じゃ足りなさそう? ならわたしの分あげるよ~」

「いえいえいえいえ、ちょっと待ってください。このサイズですよ、私の頭よりも大きいサイズですよ、1個ですら多すぎると思うのですが!?」


 何やらアリサがおかしなこと言ってる。うちの人たち見る限り、食事量は只人族とか関係なくみんな同じくらい。なのに1個でも多いとかおっかしいなぁ。あーそっか、遠慮しているのね。気にしないでいいのに。


「遠慮しなくていいんだよ、足りなければまた作ってもらえるしね~」

「そうよアリサちゃん、気にしないでどんどん食べていってね」

「あの、いや、その、えっと、ですから、だって、おかしいんですってばぁぁぁぁぁぁ」


 あれ? 遠慮しすぎてアリサが壊れた。どういうことだ、なぜここまで遠慮するのだろう。う~ん。


「あーもしかしてアリサ、タイヤキ見たことないとか? それともあんこが嫌い? カスタードのもあるけど、そっちもダメかな?」

「いえ、タイヤキ自体は前にご褒美でいただいたことがあり、甘くてとてもおいしかった覚えがあります」

「んじゃなんだろ、形が違う? ほかの国だとタイじゃなくてヒラメになっているとか?」

「あの、えっとですね、そもそもこの1個が大きすぎてですね、私の手より少し大きいくらいが普通だと思うのですが……」

『えっ!?』


 わたしどころかみんなで驚いちゃったよ。でもそうだよね、そんな小さいサイズとかありえないよね。

 あれ? そういえばタイヤキは前世にもあったような。確か大きさは14センチくら……、あぅ前世の記憶だとアリサの言うサイズのほうだわ。むぅ、食べ物のサイズが違うってなると、これは嫌な予感がする。


「ね、ねぇアリサ、あなたたちの食事量ってこのタイヤキで言うと一食でどのくらいになるのかな」

「大人の方でも半分もとれば十分です……」

「つまり半皿分ってことだよね?」

「1個の半分って意味です」


 そんな小食だったのですかー、じゃなくって今のわたしって超大食いってことじゃないですか! 相当まずいんじゃ。うぅ、おでぶーさんにはなりたくない……。


「あぁそういうことね。昔ユキちゃんに私たちは精霊に近いって言ったの覚えてる?」

「あ、はい! ばっちり覚えています!」

「精霊に近いということは、普段から魔力と精霊力を多く使うの。身体機能と魔石の維持と成長が主ね。その分を食べ物で補おうとしているだけよ」


 あーそっか、普通の人ならカロリー消費するけど、わたしたちは動くのにも魔力や精霊力を使ってるんだっけ。それに天魔になると魔石はおっきいから、維持するだけでも相当な魔力を必要とするんだったかな。そりゃ食事量も増えるわけね。


 ならば気にせず食べましょう、はむはむ。やっぱおいしいなぁ、さすが至高のタイヤキ。あ、これ白玉入りの当たりだ!


「同じように他の種族も体内に魔石が生まれてくることがあるの。魔石が生まれた後は生活環境で変わってくるかしら」

「変わるっていうと、わたしたちみたいに精霊に近くなるんですか? むぐむぐ」

「精霊に近いのはユキちゃんと私だけね。普通の人は精霊に近くはならないけど、同じように魔力を使う身体になることはできるの。折角だから説明するわね」


 精霊に近いのってわたしとお母様だけなんだ。ちょっと特別感!


 お母様の説明だと、重要なのは魔力の回復方法みたいね。


 だけどその方法は厄介なようで、

 ・食べ物は魔力にならない。これは魔力を含んだものを食べても同じ。

 ・魔力の回復は大気中の魔素を吸収、それを魔力に転化しての自然回復が主。ただし効率が悪く回復量が少ない。

 ・最も効率の良い回復方法は魔力ポーションのような専用の薬を使用すること。でも高いし、一度に大量摂取すると毒になる。


 ふ~む、魔力の回復って結構大変なのねぇ。それにこれだと魔石の成長に回す魔力を確保するのも厳しそうだなぁ。


 でも生活環境が変わると特殊な能力に目覚めることがある。


 それは〝大気中の魔素からの魔力変換〟が高効率になる能力。どこまで効率よくなるかは個人差があるけど、誰でも手に入れることができる便利な能力。

 むしろこの能力が無いと魔石の成長はおろか、魔法を使うのすら困難になる基礎中の基礎の能力だそうな。確かに魔法を撃つたびにポーションがぶ飲みは無理があるよねぇ。


 それともう一つ〝食べ物を魔力に変換〟という特殊な能力に目覚める人もいる。

 これは食べ物のエネルギーを魔力にも変換できるすばらしい能力。魔力ポーションを使わなくても瞬時に魔力を回復することができるとか、ちょっとチートっぽい能力だね。


 ただし、食べ物からの変換能力は環境魔力の質や量、それと本人の努力が足りなければ目覚めない特殊な能力。魔素からの変換効率の改善と違い、誰もが手に入れることができる能力じゃないのが厄介だねぇ。わたしは生まれたときから持ってたみたいだけど。


 そしてそんな魔力の回復手段が豊富になった体であれば、身体機能も魔力で動くように体が変化していく。同時に豊富な魔力は魔石の成長も促す、ということね。


「つまり、能力に目覚めると魔石にとって成長しやすい環境になるってことですね!」

「そうよ~。そして成長した魔石を維持するために必要な魔力も合わせて増えるの。当然増えた分は補わないとダメ。だから増えた分いっぱい食べて魔力を回復させ、さらに魔石に魔力を蓄えていくの。魔力を蓄えて行けばさらに魔石は成長、っていう繰り返しね」


 犯人は魔石だった! でも魔石が成長するのは良いことなので問題ないね。

 それにこの能力、うちの人たちってみんな持っているそうで。ちょっとした大食い集団みたいな感じだね。


 でもこの能力があってよかったなぁ。魔石の成長どうこうより、無かったら美味しいご飯を毎日いっぱい食べることができなかった可能性があるし、変換能力様様だよ。





「あの、魔石がないと生活出来ないのでしょうか? 魔石がなければ食事量も減ると思うのですが」

「無くても生活には困らないけど、あった方がいいのは確かね。何かあったのかしら」


 心配そうな顔をしてお母様がアリサを見てますね。わたしたちからするとトンデモナイ発言だから心配になっちゃうよね。


 そもそもこの国では魔石はあって当然な物って認識なんだけど、神聖王国だと違うのかな? ひょっとしたら魔物も体内に魔石を宿してるから体の中にあったら魔物になっちゃう、といった間違った認識をしてるとか?


「えっと、神聖王国では魔石を小さいうちに取り出します。私も近いうちに取り出す予定です。それに魔石は人体に有害、処分すべき不要な物という認識でしたので」

「えー、そんなもったいない。このタイヤキからあんこをとるのと同じくらいにもったいないことを」


 ついタイヤキを掲げてしまう。はしたないのはわかっているけど主張せざるを得ない。

 というか、ほんと―に間違った認識をしてたのね。遅れてるというか世界を知らないというか、ほんとダメダメだなぁあの国。


「そ、そんなにもおかしなことなのでしょうか?」

「う~ん、この国だとユキちゃんの言うようにもったいないって思うわね。理由は色々あるけれど、一番は魔人に進化できるのを魔石を取り除いて無理やり只人に戻すことかしら。戻す利点なんて皆無だからなおさらね」


 進化には魔石が必須、魔石が無ければ永久に進化できないんだっけ。魔石って超重要な存在だねぇ。

 そういえば


「ねぇお母様、魔石って取り出したら新しい魔石ができるとかはないんですか?」


 ちょっと気になったことを聞いてみる。

 取り出すことが可能なら戻すことも可能だとは思うけど、なんとなーくそんなうまい話はなさそうな気もするんだよねぇ。


「そうねぇ、初期段階の魔石なら取り出しても新しい魔石ができるかもしれないわ」

「結晶化していない魔石の残滓が体内に残るからですね。ちなみにアリサは取り出されてもまたできるんですか?」

「ん~、残念だけどできないわ。アリサちゃんの魔力量からすると結晶化が始まってもう4ヶ月くらい経っているかしら。初期段階なのは結晶化の開始から1ヶ月くらいなの」


 やっぱり無理かぁ。もしも新しいのが簡単にできるなら、アリサが望めばそのあたりのお手伝いをするっていう手段が取れたんだけどなぁ、ざーんねん。


 しっかしあれだね、アリサの人生って7歳なのに相当波乱万丈してるよね。故郷を失ったり奴隷になったり、さらには進化できる可能性を阻まれるとか、ちょっと酷すぎませんかね? 神様って奴が居るならちょっと文句言ってやりたいんですけど!

 まぁ神様って奴が居たところで何かしてくれるとは思えないし、だったら


「じゃぁ魔石が取り出される前にアリサを攫っちゃいましょう!」

「ふふっ、それだとユキちゃんは悪い魔法使いからお姫様を助ける王子様になるわね。ただ、まずはアリサちゃん自身がどうしたいのかじっくり考えてね」

「はい……」


 むぅ、やはり魔石絡みで思うことがあったのか、ちょっとアリサが暗い感じだわ。至高のタイヤキもほとんど食べてないし、しょうがないなぁ。


「はいアリサ、あーん」

「え、まっ、あの、あむ」


 こういう時は無理やり食べさせる。おいしいものを食べれば気分もよくなるよね。


「ね、おいしいでしょ。あんこもいいけどカスタードもありだと思うんだよね。もぐもぐ」

「あ、はい、おいしいです。って、あの、えっと、その、いまのは、あの」


 あれ? なんかアリサ顔赤いんだけど。熱かったってわけじゃないと思うけど、どうしたのかな?


「い、今の、その、あの、間接……」


 アリサを見る、自分の食べているタイヤキを見る。あ、なるほどね、そういうことね。

 って乙女だ、間違いなく乙女だこの子。これはなかなかグッときますね。

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