6話 おうちの事情
手を繋いでどんどん行くよー。アリサさんはまだおどおどしてる感じがするけど気にしない。だって至高のタイヤキが待っているのだから!
「そういえばアリサさんって何歳? ちなみにわたしは4歳です!」
ドヤァっていうほどでもないけど勢いは大事。会話のキャッチボールをしたいのならば自分から積極的に行くのです。
「えっと、7歳、です」
「わたしよりも年上なんだ~、ってことはお姉さんだね!」
「い、いえ、私は、その」
「アリサお姉ちゃ~んって言った方がいい?」
笑いながらそう言うとぶんぶんって思いっきり首を横に振られた。かわいい。
「アリサ、で、いいです。敬称とかは要らないです」
呼び捨てでいいのね。でも年上相手なのにいいのかな? 注意されたら変えよう。
「は~い。わたしのことは好きに呼んでね。んでアリサも神聖王国の人なの?」
「はい。その、今はもう無いのですけど、王都から離れた村に住んでいました」
今はもう無い、か。
あの国ってしょっちゅう戦争しているからそれに巻き込まれ、もしくは魔物にやられちゃったのかな?
そう考えると、わたしの住んでるこの国って平和だなぁ。
魔物はいるけど強い軍隊とか優秀な冒険者がいるから被害なんてほとんどないし。生まれる国は選べないけれど、ここまで差があるとなんか複雑だなぁ。
何とも言えない難しい顔になっていると
「えっと、ユキ様、一つ質問してもよいでしょうか」
「いいよ~。と言うか様付けなくていいのに」
「その、私は奴隷、ですので……」
奴隷だから、ね。わたしは気にしないって言っても、そういうのじゃないんだろうなぁ。
しかしこれは話題を変えようと気を利かせてくれたみたいだね。自分の住んでいたところがもう無いって聞いたからか、わたしも暗い雰囲気一直線になりそうだったし。
うん、やっぱアリサはあの勇者とかと違う感じがするなぁ。あの勇者はほんと空気読まなそう。
「えっと、巫女装束の方とメイド服の方が居るのはなぜなのでしょうか」
巫女さんとメイドさんをちらちら見ながら聞いてくる、珍しいのかな? たしかにうちの場合、神社内で巫女とメイド、それに執事と神官まで共存してるからねぇ。
「うちの場合ちょっと特殊なの。一応お弟子さんとメイドさんっていう括りはあるけど、どっちかの衣装しか着ちゃいけないってことはないんだ」
メイドな巫女さんとか、巫女なメイドさんだね。うちにいる女性陣はみんな巫女形態とメイド形態を完備しているのだ!
男性陣も神官状態と執事状態というなかなかダンディ路線行っているし。
「それと、実は好きなの着て良いんだけど、いつの間にか巫女装束は修行とか行事、メイド服はそれ以外のお仕事する時に着る習慣になったそうだよ」
「かわっていますね。神聖王国の神殿では統一するのが当然、作業によって着替えるということもなかったので」
「大きな行事とか儀式のときくらいかなぁ、統一されるのって。ちなみにメイド服のまま戦闘する人も当然いるよ!」
メイド服で戦う筆頭が、お母様の一番弟子でありメイド長でもあるシズクさんだからねぇ。でも戦うメイドさんや執事さんって、ちょっとカッコイイし憧れる。
「休みとかで洋服着る人もいるけど、気が付くと巫女服かメイド服着ちゃうんだって。支給品ではあるのだけど、私服感覚で着れるくらい種類が豊富ってのもあるかな」
女性陣はミニの人もいればロングの人、肩出しタイプや長袖タイプなど衣装の種類が多種多様。男性陣はあえて同じ衣装だけどアクセで勝負するのが今のブーム。
「それにうちの服ってちょっとだけ高い物なんだ。1着でたしか大金貨2枚って言ってたかなぁ。外で着ても恥ずかしくない、むしろ自慢できるようなものを支給するのがうちの基本方針なの」
「だ、大金貨ですか!?」
この世界は銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、王金貨が共通硬貨。銅貨100枚で銀貨1枚が同等というように、一段下の硬貨100枚が一段上の硬貨1枚になるっけ。
一般的な冒険者の平均月収が金貨20枚、高ランクの冒険者の平均は金貨50枚。低位貴族だと大金貨1枚とかだったかな? うん、そう考えたらちょっとじゃなく凄い高かったわ。そりゃアリサも唖然とした顔になるよね。
そういえば銅貨1枚が日本円の1円に近い感覚だったから、大金貨2枚だと200万円になるのかな。200万円の制服を何着も支給とか、そう考えるとやばいわね。
「ちなみに自分だけのオリジナル衣装も特注できるんだよ」
「特注ということは……」
「お値段倍! ちなみにわたしの今着てるの巫女服も特注です。ただ、わたしの場合はお母様の趣味入ってるから、普通のよりもっと高くなること多いけどね~」
実はお母様とかの着せ替え人形になっているなんてとても言えないけど。そしてそれを喜んでいるなんてもっと言えないよ。
あ、アリサが青くなった。まぁ手を繋いで歩いている女の子が大金貨4枚以上の服着てたらそうなるかな。
「はい、この部屋。遠慮なく入って入って」
話をしながらついにやってきましたおやつの部屋。冗談抜きにおやつを食べるため専用の居間があるとか、ほんとうちってお金持ちだなぁ。
こんなバカみたいな部屋があるのはうちと王城くらいね。同じ人が考えて建ててそう、主にお父様とか。
室内にはお母様とお弟子さん達が先におやつタイム中。メイドさんと執事さんたちは給仕しながらだね。
そして何より目を引くのは、机の上のお皿に山盛りで存在感を超アピールする至高のタイヤキ! 魔道具のお皿の上なのでいつでもできたてホカホカ。このお皿考えた人は天才ですね!
まぁその考えた天才はすごい身近というかうちのお母様だけど。
「遅かったわね~ユキちゃん、迎えに行こうかと思ってたわ。あらあら、その可愛い子は誰かしら。もしかしてユキちゃんの彼女かしら」
ちょっとお母様、何笑顔ですごいこと言ってるんですか。ノリなのはわかるけど、初対面の子でもお構いなしだね。
そもそもこの世界だと同性同士も普通にあるから、こういう会話の全てが冗談ってならないのがねぇ。性別がどっちつかずの種族も多いから、男女でっていうくくりに無理があるからだけど。
というか、わたしはどうなるんだろ?
自分が女の子という自覚はあるけど、たまーに前世は男だったのを気にするからなぁ。前世の記憶を中途半端に引き継いだ弊害かな。
まぁ深く考えるのはやめておこっと。何万年も余裕で生きる狐生、長ければその時々で好みが変わる可能性もありそうだしね。
「残念ながらお母様、まだお友達になる段階なのです。なのでこれから発展させていきますね! ちなみにこの子はアリサって言って、今お父様が案内している勇者さんのお連れの方です」
「え、ちょ、ユキ様、その、あの、発展とか、その、あの」
「いやぁ、せっかくのノリだったので。ちょっとした冗談だよ、じょう……」
お母様にノリで返してたら、真に受けちゃったのかアリサすごい真っ赤なんですけどー。乙女だなぁ。そういえば只人族は同性同士ってのはあまりないんだっけ、ここは種族による差だねぇ。
「はいアリサ深呼吸しましょー、はい落ち着いてー。お母様、どうやらアリサはすっごい乙女でした」
「ふふっ、ユキちゃんと同じくらいってことね」
「えー? わたしそこまで乙女じゃないです、きっと」
たまに少女趣味全開になったりするから、きっぱり言い切れないこのもどかしさ。
「とりあえず座ろっか、ってアリサまだ顔真っ赤。相当ですね」
完全に乙女の妄想入ってそうだわこの子……。