59話 狐と竜の力比べ・・・1
〝竜槍〟と〝竜装〟を装備したエレンはホント強そう。
それに竜槍は形状変化以外にもなんらかの能力を宿してそうだね。
「それにしても、真っ白で綺麗な刀ですのね! ちょっと羨ましいですわぁ」
わたしの月華を見て、エレンが少し変わった感想を言ってきた。表情を見る限り、お世辞じゃないっぽい。
「そうなの?」
「ですわ! 見ての通りわたくしのドラグーン、黒い大きなハルバードなので綺麗というよりカッコイイとかそんな感じなので」
たしかにカッコイイ系だね。よく見るとドラグーンには竜のレリーフがあって目の部分は赤くなってる。それにところどころ赤い線もあるね。あの線は魔力を流すための物かな?
「ではこれより我が娘エレンと、サユリ殿の娘ユキの試合を始める」
やっぱりこのオッサンが審判か。
んー、どさくさ紛れに攻撃をあてたらダメかな?
「それでは、いきますわよ!」
「かかってきなさ、って、はやっ!?」
一気に間合いが詰められ、ドラグーンで突き刺されそうになったわ。
ぎりぎり躱せたけど、ちょっと掠ったよ。ハルバード型だからもっと遅いかと思ったけど全然違う。
「さすがですわ! 今の一撃、レイジなら当たってますもの」
「なんて速さよ……」
「まだまだこれからですわよ!」
今度はリーチを活かしての薙ぎ払いが来る。
回避はちょっと難しそうなのでここは月華で受け止める!
うっく、何とか受け止めたけど武器のリーチを活かしているからか、思ってた以上に衝撃が強い。
でも完全に受け止めることができた!
そしてこの状態は凄いチャンス、月華を使いドラグーンを絡め取るように巻き上げて強引に隙を作る!
「このまま行く!」
「くっ、まずいですわ」
強引に隙を作ったことで攻守は逆転、一気に後ろに回り込んで今度はこっちが薙ぎ払う!
「あまいですわ!」
エレンは尻尾を勢いよく地面に叩き付け、その反動で体を逸らしながら空中に飛んで避けた。って、なんなのその避け方!? 奇抜というか、想像できない避け方なんですけど!? 飾りじゃないとは思ってたけど、とんでもない尻尾ね……。
って、感心してる場合じゃ
「お返しですわ!」
そのまま頭上から、ドラグーンを叩き付けるように振り落としてきた。
マズイ、今度は完全にこっちが隙をつかれた。これも避けるのは無理、また受けるしかない!
「くぅ! なんて重さなの」
受け止めた瞬間、金属同士が思いっきりぶつかる様な甲高い音がしたけど、なんとか受け止めることができた。
だけど今の一撃はホント重くて足が軽く埋まったよ。しかも腕までしびれたし、とんでもないわ。
「ユキさん、乙女に重いとか禁句ですわ!」
「え? あ、その、ごめんなさい?」
攻撃時よりも迫力があったせいで、つい謝っちゃったよ。
でもこの体勢はチャンス! まずは大きな隙を作るため
「術技、烈破八連! ふっとんで!」
薙ぎ払うように8回分の烈破を放つ。かち合っているから回避不能、衝撃もそのままあたるしこれなら!
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
狙い通り回避できなかったエレンは上空に吹っ飛ぶ。
こうなればこっちが圧倒的に有利、空中で受け身を取っても大きな隙が生まれるはずだし、ここで追撃して一気に勝負を決める!
「術技、烈くって、なにそれぇぇぇぇぇぇ!?」
追撃用に烈空を放とうとしたら、エレンの背中からは竜の羽が生えているんですけど!?
前兆も無く瞬時に生えて、しかも羽ばたいてすらいないのに飛んでいて、なにごとも無かったように空中で受け身を取っているんですけど!? ちょっと意味がわかりません……。
「危なかったですわ。飛べなかったら今頃は追撃受けていましたの」
「魔力変化もなく瞬時に羽を展開して飛ぶことができるなんて、衝撃すぎだよぉ」
なにより今のは絶対に当てれると思っただけにすっごい悔しい。
しかも飛ぼうとしたらその隙を突こうと狙ってたのに、隙なんて全然なかったし。予想をはるかに超えてるよこの子。
「でもそれが刀を使用した術技ですのね。はぁ、羨ましいですわ」
「どうして? というかこの距離でよく声が届くなぁ……。あぁ魔力を込めてるわけね」
「わたくしにはその様なもの無いですわ。タヌ蔵様は格闘技でしたので、わたくしのドラグーンでは発動できなくて」
そういえばタヌ蔵おじちゃんの術装は手甲と脚甲だっけ。
でも応用で行ける気がするけど、さすがにそこまでは教わってなさそうだね。おそらくエレンの家に配慮してかな? 竜続伝統のもあるかもしれないからとかで。
あーそれになんかあのオッサンが叫んでるわ。
魔力込めてないから聞きにくいけど、『竜族にとって弱者が使うような技など不要』とかなんとか聞こえる。考えが凝り固まってるなぁ。
「えっと、せっかくだから教えるけど、タヌ蔵おじちゃんの使う術技も、わたしの使う術技も同じ技だよ」
「あら、それはどういうことですの」
「うわっ、急に近い」
地上に降りたと思ったら一気に近づいてきたよ。
興味津々なのはわかるけど、少し無防備な気が。試合中なんだけどなぁ。
まぁいいや
「えっと、烈火という術技の場合、タヌ蔵おじちゃんが使うのは正確には拳を使っての〝烈火掌〟、わたしが使うのは刀を使っての〝烈火斬〟になるんだ。同じ術技だけど発動対象によって細部が違うんだ」
「あら、そうだったわけですか。どうりでわたくしのドラグーンだと発動しないわけですね」
「でも烈火掌の方を理解してるなら話は速いよ。武器で発動させる場合、武器は手足の延長だと考え、全体を体と同じ魔力で覆うんだ。あとはそれを意識したまま術式を練る。そうすれば〝烈火〟という術技自体が発動できるわけ」
「なるほど。では試しに、術技、烈火!」
そういうとドラグーンが炎を纏ったね。
って、今の簡単な説明だけでできちゃうの!? もしかしてエレンはわたしと同じで、1回見たり聞いたりすればすぐにできちゃう才能があるってこと? これはますます親近感が沸きますね。
「できましたわ! おかげで手数も増やせそうです、ありがとうですわ!」
「どういたしましって、あぁぁぁぁぁぁぁ、やってしまったぁぁぁぁぁぁ」
思わず地面に手をついてうなだれてしまう。
そうだよ、これ試合中だよ。なに相手を強化すること教えてるのよ、教えなければそれだけ有利だったじゃない。
あぅ、絶対これ、お母様とかに呆れられてるよぉ。
「では、気を取り直していきますわ!」
「はぁ、思いっきりポカしたけど、がんばる!」
術技が使えるようになっても基本は変わらない。一番厄介なのはあのリーチだから、できるだけ接近してって
「変化、竜斧! そして術技、烈火!」
そうだったぁぁぁぁぁぁ、〝竜槍〟は槍以外の剣と斧にもなるって聞いてたじゃない。これはリーチがどうのこうのとか関係ないってことだよ。
しかもそれって巨大なバトルアックスじゃん!? ハルバードの斧部分が大きくなってのなんちゃって斧とかじゃなく、完全にバトルアックスだよ。いったいどういう構造してるのよ……
「って、これじゃまた受けるしかない!? 間に合え! 術技、烈氷!」
炎を纏った一撃を、氷を纏った月華でギリギリ受け止める。これじゃ完全にさっきと同じような状態だけど
「くぅ、さっきよりもすっごい重い……」
「だからユキさん! わたくしを重いと言うのはやめてくださいな!」
「あ、はい、ごめんなさい」
乙女心って難しい、まだ6歳なんだから気にしなくてもいいのに。
でもほんと重すぎるんだけど。槍が斧になるだけでここまで違うとか、形だけでなく質量ごと変化したってことかな? ますますわけがわからないよ……。
「ふふっ、その様子だとドラグーンに少し驚いてくれてますわね。でしたら、こういうこともできますわ! 変化、竜剣!」
ドラグーンが一瞬光ったと思ったら、ふっと手ごたえが無くなる。あ、これまずい、押し戻していた壁が急に無くなったら当然体が変に伸びるわけで、ヤッバイ!?
「さっきのお返しですわ! 術技、烈破!」
ヤバイって思った瞬間にはもう遅く、一瞬でバトルアックスから巨大なバスターソードへと変化したドラグーンによって思いっきり薙ぎ払われ、さらに烈破の衝撃も襲ってきた。
なんとか月華で受け止めたので直撃は避けれたけど、今度はこっちが空に飛ばされた。
「うっくぅぅぅぅ、け、けっこう痛い。でも早く体勢を……」
「まだですわ!」
そう叫ぶとアリサのドラグーンがいつの間にやら槍の状態に戻ってる。それにドラグーンにすごい魔力を込めてる。
って、あれは軽くじゃない、全魔力を込めてる!? そのせいか、ドラグーンに込められている魔力が可視化され、竜のような形に見える。それをこっちに向けてるって、なんかすっごい危険な気がするんだけど!?
「竜族の切り札、受け止めてくださいませ! ドラグーン全魔力開放! 奥義、黒竜滅衝破!!」
ドラグーンから放たれた魔力は黒くて巨大な竜の形をした塊となって襲ってくる。これはあれね、ドラゴン系の魔物が使うブレスと同じような物って、冷静に分析してる場合じゃない!
避けるのは無理、耐えるのも難しい、なら対消滅を狙うしかない?
……けっこう厳しいけど、やってやろうじゃない! それに竜族の切り札が相手であろうとも、お母様が作り上げた術技ならできるってとこ、見せてあげる!
「全魔力を月華に集中、距離は……今ッ! 術技、烈破十六連! それに烈震十六連!」
右の月華で烈破を、左の月華で烈震を同時に放って襲ってきた魔力の塊を削る。
でも切り札なだけあって1回じゃ消えないのはわかってる。だったら何度も何度も、消えるまでひたすら繰り返すだけなんだから!
少しバトルっぽいものが続きます




