5話 勇者ってネタキャラなのかな
落ち着け、落ち着くんだわたし。紳士的に、あ、わたし女の子だから淑女的にか。とーにかくちゃんとお返事はしましょう。
「えっと、その勇者さんが何の御用でしょうか?」
平常心よ平常心。前世の勇者とは違うんだから、敵じゃないかもしれないんだから。
でもなんだろ、わたしの本能がこいつにかかわると色々とやばいって言ってる気がするんだよねぇ。強敵になりそうとかじゃなく、人として関わっちゃいけないみたいな?
「フッ、僕は神聖王国アークルスからきた勇者サレストっていうんだ、よろしく!」
またキラッて言う効果音がしそうなスマイルで二度目の自己紹介されました。これ、わたしが自己紹介しなければリピートはいるのかな?
「ハイ分かりました。えっと繰り返しになるのですがどういった御用でしょうか? 案内などが必要なのでしょうか?」
リピートはいるかな~? はいらないかな~?
「狐族のお嬢さんとは珍しくてね。是非とも仲良くなりたくてこうして声を賭けさせてもらったんだ。そうそう、僕の名前は――」
うわぁリピートはいっちゃったんですけど。あー今度は髪の毛ふぁさってやってる。もしかして、神聖王国だと名乗ったら名乗り返さないと繰り返す習慣があるのかな? まぁここは神聖王国じゃないし、スルーしていいよね。『知らない人に名乗っちゃいけません』っ言われてるのもあるしー。
それに何と言うか、ナンパっぽいんだよねぇ。たぶん神聖王国では有名でモテるんだろうけど、わたしからするとないわー。というか4歳児ナンパするってどういうこと? もしかしてロリコンかしら……うわぁ。これはマジで関わっちゃいけないわ。
……まさかこいつの隣に居る女の子、従者じゃなくてナンパした子なんじゃ……。
さっさと切り上げたいけど、そのためにロリコン相手に自己紹介するとか嫌だなぁ。でもこのタイミングだと無視して向こう行くのも難しいし。
どうしよ……って、あれ? こいつの隣に居る女の子、すごい怯えてるなぁ。わたし、知らぬ間に魔力で威圧とかしてたのかな?
この子も只人族みたいだね。歳は同じくらいかな? 怯えてるけど、なんとなく芯はしっかりしてそうな気がする。ちょっとみすぼらしい格好だけどだけど、綺麗な銀髪で薄紅の瞳、顔も可愛い。これならドレスとかを着ればどこかのお嬢様って感じにもなるかな。
あれ? この子が首にしてるのって奴隷の首飾りだ。ということは勇者の従者じゃなくて奴隷みたいね。確かにこの世界にも奴隷はいるけど、この国と同じ待遇なのかな? 同じだったらいいんだけど。
まぁいいや、とりあえず強引に先に進めてみよう。
「あーえっと、つまりどういった御用なのでしょうか? あ、お名前はもうわかりましたので」
「くっ、手ごわいお嬢さんだ。だがわかっている、すでに君は僕に興味があるということを!」
今度はビシッっていう効果音がしそうな感じに指さされました。ダメだ、ついていけない。オーバーすぎるアピールは時に寒気すら感じる、乾いた笑いもだせないわ。でも一応お客さんだから笑顔、笑顔だよわたし。頑張るんだよわたし。
「おや? どうしましたユキさん、こんなところで」
「お父さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神はここにいた! 塔からお父様がこっちに歩いてくるのを目視、すぐさま走って抱き着く。完璧です。
あ、いえ、お父様、その、決してこのロリコンがだんだん怖くなって泣きそうになったわけじゃないです。だからそんなに頭撫でないでください、泣きそうです、ふにゃぁ。
「神聖王国の方でしょうか。私はここで宮司をしているタツミといいます。どのようなご要件でしょうか」
さすがお父様、わたしを抱っこして撫でながらでも紳士的な対応。う~ん、やっぱ彼氏にするならお父様みたいな人がいいなぁ、作る気ないけど。
「しばらくこちらの国レグラスに滞在させていただく勇者サレストといいます。それにあたり是非ともレグラス最強の剣と盾にご挨拶をと」
うっそだぁ。さっきまでわたしにナンパっぽいことしてたじゃん、なに急に紳士ぶってお辞儀してるのかな? まぁお父様はこいつが言う通り最強の盾だけどさ。
あ、お父様、わたしが機嫌悪くなりそうなのを察するの早い。そんなに撫でられたらもうだめです、うにゅぅ。
というかお父様、魔力を使ってこいつを威圧しだしたわ。親子だから使ってるのわかるけど、これって周囲に気づかせないで特定の相手のみ威圧するすごいやつだわ。いいなぁ、わたしも早く使えるようになりたいな。
「それはそれはご丁寧に。お時間もありそうですし、折角ですので案内と説明は私が承りましょう。ただ申し訳ないのですが娘はおやつの時間ですので、外させていただければと」
「そ、それはありがとうございます。是非ともよろしくお願いします」
おーおー滝のような汗流しだしたぞ。押し潰されるような強い威圧じゃないのに、こんなものなのね勇者って。そこらの魔物のほうが強いわ。
これなら前世の勇者のほうが根性もあったし強かったかな。
「というわけでユキさん、申し訳ないけど私は仕事なので、サユリさんたちと先におやつを食べていてください」
「はぁ~い。ちなみにお父様、今日のおやつは何ですか!」
ビシッと手を挙げて聞きます。はい、どんどん自分が歳相応に子供っぽくなっているけど気にしない。だって子供ですし。
「今日はタイヤキを作っておきましたよ。ちゃんと尻尾の先まであんこもたっぷり入れてます。それに栗や白玉を入れたもの、あんこの代わりにカスタードを入れたのもありますよ」
「おぉー、いろんなタイヤキがいっぱいですね!」
これはやばい、種類もたくさんとかほんと幸せすぎる。なにより前世の記憶にうっすらある高級タイヤキなんて目じゃないレベルの超おいしいのが待っている! だめだ、想像しただけでよだれが出そう。
転生して嬉しいことの一つはやっぱり食事関係だね。お父様もお母様も料理がすごい上手です。なので毎日幸せです、はふぅ。
「あっ、お父様お願いがあります。そこの女の子も一緒でもいいでしょうか」
さっきから気になるんだよね、この子。歳も近そうだし、ちょっとお話してみたいなぁ。それにわたし、歳の近いお友達ってあんまりいないし……。
あと、勇者の奴隷っていう立場も気になっているんだよねぇ。服がボロボロなのもあるけど、よく見ると傷跡も多いのがね。この国の奴隷の人とは違う扱いだからなおさら気になる。
この国の奴隷は主人が食事から身なりまでちゃんと管理し、待遇にも気を使っている。
お金がなくて苦しい人はあえて奴隷になってお金を稼ぐくらいだっけ。奴隷の人との結婚も普通なことで特別ではないしね。
当然人権とか尊厳もちゃんとしてる。だけど別の国だからか、この子はそういうのなさそう。
「と、娘が言っていますが、よろしいでしょうか? 私の方の説明も長くなると思いますし」
「ありがたい申し出ではあるのですが。御覧の通り奴隷ですので粗相をしてしまい、ご迷惑をおかけする可能性があります。ですので……」
「構いませんよ、何があっても責任は私がとります。それにメイドも大勢いますので、何かあってもすぐに対応できます。他に無ければそちらのお嬢さんは娘と少し遊んでいただける、ということでよろしいでしょうか」
「問題は、はい、ありません……」
だいぶ渋っていたけど、お父様の勝ちだね。他国だと奴隷は傍にいないとダメとかあったのかな?
まぁいいや、許可は取れたしね。せっかくもらった機会だし、仲良くなりたいなぁ。
「ありがとうございまーす。それじゃお父様、わたしはこの子と一緒にお母様のとこに行ってきま~す」
「はい、気を付けて。それではサレスト殿、こちらも参りましょうか」
「よろしくお願いします」
やれやれ、やっとお邪魔虫勇者から解放されたわ。ほんと長く厳しい戦いだったね。さってと
「はじめまして! わたしはユキって言います、よろしくね!」
「あ、あの、えっと、アリサ…です」
「アリサさんね、んじゃおやつ食べに行きましょー」
おどおどしているけど関係ない、さぁ手を繋いでいざ至高のタイヤキへ向かってレッツゴー。




