48話 食べ物でお嬢様が釣れた?
ホットドッグ食べてたらなんか絡まれるし。
なんだろ、わたしってトラブルとか引き寄せやすい体質なのかな?
「ねぇ君、ちょっとだけ時間貰えないかな? どうしても君と話したい人が居るんだけど」
「むぐん。それってあそこの女の子ですか?」
「そうだよ。食事中で悪いと思うけど、ちょっとだけお願いできないかな」
あの女の子の従者ってことね。でもわたしに何の用だろ?
従者は二人、この少年ともう一人の少年。向こうの少年はわたしになんか敵意を持ってるみたい、知らぬ間に何かしたのかな?
まぁそれはどうでもいいんだけど、気になるのは目の前にいる少年。こいつってまさか……。
いやいや、そんなわけないよね。ただ似てるだけ……のはず。そうだよ、他人の空似だよ、だから落ち着くんだよわたし。
「えっと、いいですけど、あまり長い時間は嫌です」
「ありがとう。それじゃちょっと呼んでくるから待っていてくれるかな」
そう言ってあの女の子の所に駆けて行ったけど、……うん、間違いない、ね。
他人の空似とかじゃない、彼は前世で最後に戦ったあの学生勇者君だわ。少し若返ったみたいだけど、体の動かし方は前世で戦った時と同じだから確実。
どうしてこの世界にいるの?
もしかして、あそこに居た勇者たちが全員こっちの世界に召喚されたの? それとも転移門を開いてこっちに転移してきたの?
そもそも何のために?
侵略するため? わたしを殺すため?
……わからない。
同時にすごく気になることがある。
それは、わたしが守っていた転移門を使って逃げた人たちは大丈夫なのかってこと。もしもあの転移門を復元し、転移先をこの世界に変更できるまで解析していたら……。
ははっ、なんだろねこの気持ち。前世は前世って割り切ってたはずなのに、ひどく不安になってくる。
それに今見たので分かったけど、あの学生勇者君は前世のわたしじゃ全力を出しても負けた可能性が高いわ。それがわかったせいかな、ちょっと変な汗かいてきた。
「ようやく見つけましたわ。やれやれですわ」
不安で変な気持ちになってたら、学生勇者君が女の子を連れてきた。ただ、わたしが迷子になってたような言い方はどうなのかな?
「えっと、わたしを探してたってこと?」
「その通りですわ!」
ビシッと指さされちゃったよ。
種族は只人族っぽい、背格好はわたしと同じくらいですね。目は黄と青のオッドアイ、魔眼持ちかな? 髪は綺麗な淡紅色、それを長くてボリュームのあるツインテールにしてる。髪色以外はわたしとほとんど同じ長さとボリュームかも。
なによりこの子、かなり可愛いんですけど! これはアリサに匹敵しますねぇ。
「えっと、なんで探してたの?」
「それはですわね」
「決まってる! お嬢様を荷物持ちにした挙句、平民が食べる物を渡したんだぞ! 文句も言いたくなるに決まってるだろ!」
おーおー、睨んでいた従者君がきゃんきゃん吠えているよ。
髪はブロンドで青い目をしてる。イケメン枠なのかもだけど、目つきが悪いなぁ。乱暴な感じもするし、わたしこういう人って嫌い。
「違いますわ! あなたに聞きたいことがありますの」
文句言いに来たわけじゃないんだね。
慌てたのか、従者2号(勝手に命名)の頭を思いっきり下げさせたけど、強かったのか頭が地面に埋もれてるわ。コントみたいで面白いけど、ちょっとやりすぎじゃないかな。
しかしこの子、見かけによらず力がありそうだね。
「えっと、聞きたいことって?」
「これ、どうやって食べるんですの?」
「はい?」
まさか、ねぎまの食べ方わからないだけで追ってきたってこと、ですか?
いやいや、食べ方を聞くために探すとか、そんな子今まで、というか前世も含めて居ないよ。ちょっと面白いけど。
んー、高そうなドレス着てるし、これは串焼きのような庶民的なものを食べたことが無い、そうとうなお嬢様の可能性が高いかな。
というか学生勇者君、ねぎまを知ってるはずなのに説明しなかったのかしら? それとも理由も知らずに探してって……あぁ、うん、そうみたい。『食べ方を聞くためですか』ってすごい呆れてるわ。
「えっと、そのままかぶりつくんだけど、もう冷めちゃってるね」
「あら、そういえば時間がたってしまいましたわ」
冷めてもおいしいかもだけど、そうだなぁ。
「紙と書く物ってない?」
「それなら、レイジ、紙とペンを」
「はいどうぞ」
そう言って紙とペンを渡された。なるほど、従者1号はレイジって言うのね。
黒髪黒目、イケメンというわけでもなく不細工でもなく、いたって普通な顔。やっぱりあの学生勇者君で間違いないわ……。
あー、うん、だめだ、変に考えると余計意識する。わたしはわたし、前世とは関係ないんだよ。だから頭を切り替えましょー。
「それじゃさらさらっと術式書いて、魔力込めて、術式展開っと。はい、これでホカホカに戻りました」
「すごいですわ! 一瞬光ったと思ったら湯気が立つほどになってますわ」
珍しかったのか、すごくはしゃいでくれたね。こういう反応してくれるとちょっと楽しい。
「再加熱じゃなくて時間自体を戻したからね。なので本当にできたての状態だから、がぶっと食べてみて」
「がぶっと?」
「えーっと、そのまま口に運んで、そうそう。そのままかぶりつくの」
「はぐっ。もぐもぐ。なるほど、こうやって食べるのですね」
口元を隠しながらお上品に食べてる、まさにお嬢様って感じだねぇ。
それにしても貴族のお嬢様って本当にこういうこと知らないんだね。お姉様とかは知ってるけど、それはたぶんうちと王家がずぶずぶだからだろうなぁ。
「貴様ぁぁぁぁ! お嬢様になんてものを!」
「いい加減にしなさいジョイス! わたくしが食べたいと思ったから食べただけです。この方のせいではありません」
「し、しかし!」
「まぁまぁジョイス君、お嬢様もそう言ってるのと、周りの目もあるから抑えようか」
ふーん、なんとなく関係が見えてきたわ。そして従者2号はジョイスって言うのね、どうでもいいけど。
「ところで、あなたが食べているのは何ですの?」
「これはホットドッグっていう食べ物だよ」
「ホットドッグ、ですの? 見たことも聞いたこともなかったですわ」
すごい珍しい物を見る目だね。それにちょっと食べたそうな感じかな? しょうがないなぁ。
「食べてみる?」
「いいんですの!?」
「う、うん」
すっごい食い付いてきたよこのお嬢様。これは箱入りってやつかな? おそらくお屋敷で出されるもの以外は食べてないとか、そういうのだね。
「それじゃそっち側からがぶっとどーぞ」
「きさまぁぁぁぁおじょげふ」
「はいジョイス君、いいから黙ってようね」
レイジがジョイスを地面に叩き付けたよ。思い切りがいいわね。
でも、もうやめて、わたしの為に争わないで、ってやつだね! 使いどころ間違ってる気もするけど。
「では失礼して、あむっ」
「ね、おいしいでしょ?」
「もぐもぐ。美味しいですわ! そのままかぶりつくのはちょっと恥ずかしいのですけど、でも美味しいのは確かですわ!」
「豪華な料理も良いけど、こういう料理も良いんだよねぇ」
「確かに、屋敷ではこのような料理はまず出ませんわ」
やっぱり相当な箱入りだねぇ。
ん~、せっかくお食事券もあるから一緒に食べ歩いてみようかな。他の家のお嬢様ってどんなのか気になるのもあるけど、なんとなくこの子とは仲良くなれそうな気がするんだよね。これはアリサの時と近い感じかな?
それと、レイジはこの世界でもわたしの敵なのか少し探っておきたい。敵じゃないといいんだけど、この世界で会った勇者のほとんどが敵だったからなぁ……。
「ねーねー、まだお食事券があるから、他の料理にも興味があるなら一緒に回って色々食べてみる?」
「ぜひお願いしたいですわ!」
「ひゃっ!? い、いきなり手を握るとか、なかなか大胆……」
「あら、つい興奮して、うっかりですわ」
大胆過ぎて、わたしからはまずできない。そりゃアリサみたいに仲がすっごく良い相手ならできるけど、ちょっと仲が良い程度の相手では無理。それに恥ずかしいもん。
まぁそれは置いといて、次の屋台はどれにしよっかなぁ。
次の屋台を決めているけど、どうしてこうなった?
気が付いたら手を繋いで歩いてるんですけど。そのせいか、従者2号がすっごい睨んでいて居心地悪いんですけど。
「あっ! わたくしとしたことが、重要なことを忘れていましたわ!」
「な、なに? 勢いがあるのはいいんだけど、なんで両手握って目の前に立つのかな? ほら、あなたの従者2号、じゃなくってジョイスだっけ? が睨んでるよ」
「気にしなくていいですわ。えっと、あなたのお名前を教えてくださいな。わたくしはエレンといいますわ」
おっと、バッサリ自分の従者切り捨てたよ。少しショックだったのか、従者2号が少しひきつった顔してる。でもまぁ自業自得じゃないかな?
「あー自己紹介ね。わたしはユキっていいます、よろしくねエレン様」
「ユキさんですわね、よろしくですわ。それとわたくしのことはエレンと呼んでくださいな」
「ほーい」
あら、自己紹介しただけなのにすごい嬉しそうだね。お嬢様だからお友達あんまりいないのかな? まぁわたしも歳の近い子はほとんどいないけど。
だからなのかな、行動が大胆だね。でも、その、両手握ったまま顔が近いとか、こっちが恥ずかしいんですけどー。
軽い桃色空間になってるからか、従者2号がすっごく睨んでる。しかも獣人や妖人を人として見ていない嫌な目線そのものだし。
だけどレイジの方は特に変わりない、かな? わたしのような獣人が仲良くしても気にしない感じかしら。
まぁいいや。んじゃ次の屋台に向けてレッツゴー。