43話 宿屋がわたしを待っている!
豪華なお空の旅を満喫。
快適だし、遊ぶところもいっぱいだし、ご飯もおいしいし、ほんと至れり尽くせりですね!
「王女殿下、本艦は間もなくアルネイア王国の王都へ到着します」
「ありがとう。ではサユリ様、ユキ様、到着後は用意した馬車にご乗車いただきます。その後、本日宿泊する施設へご案内いたします」
「はい、お姉様に質問!」
手をあげてビシッと。あ、なんか艦長さんたちからも暖かい目で見られてる、ちょっと恥ずかしい。
「なんでしょうか」
「えっと、宿泊施設ってことは王城に泊まるのではなく、街にある宿に泊まるのですか?」
「その通りです。王城には他国の王族や貴族が泊まるらしく、現段階ではユキ様をそのような場所へお連れするのは危険と判断しました。そのため、我が国が管理している貴族向けの宿を手配したのです」
「な~るほど。ありがとうございまーす」
他国の王族や貴族がいるってことは、それだけ狙われるってことだからだね。
わたし自身は狙われても追い払えるけど、王家としてはわたしが狙われて攻撃されること自体が問題になる。
もしも攻撃された場合、国民からの信頼を失うどころか非難され、さらにダメな王家のレッテルが張られる可能性もあるとかなんとか。予想以上の大事になるようで、ちょっと申し訳ないです。
「へー、ここがアルネイア王国なんですかぁ。うちの国とはちょっと違うんですね。それにちょっとだけ涼しいのかな?」
無事到着したので艦から降りて発着場を見まわしたけど、外国に来たって感じがするね。
建物の雰囲気も違うなぁ。
うちの国はお城とか街の景観とかは前世でいう中世ヨーロッパみたいな感じではあるけど、この国はもっと近代的って感じ。しかもゴーレムを使った機械がいっぱいだね。
「そういえばユキちゃんは国外初めてだったかしら」
「そうなんです。ダンジョンの周辺の街とかは見たことはあるんですけど、いっつもスタンピードの被害が無いか軽い確認をするだけだったので」
「ふふっ、ちゃんとそういう確認をするのはとっても偉い事よ」
お母様がニコニコしながらなでてくれる。はふぅ、やっぱ最高です。
わたしにとっては当たり前のことしてただけ、でもこうやって褒められるのはやっぱり嬉しいのです。
「それでは皆様、こちらの馬車へどうぞ」
「おー、馬車もすっごい大きいんですね」
30人くらい余裕で乗れそうだね。それになんかいろんな術式が組み込まれてる感じ。あとは普通の馬でなく綺麗なペガサスが4馬なのがカッコイイ。もしかしたら空も飛べるのかな?
「ねーねーお姉様、これも王家用の馬車なんですか?」
「その通りです。皆様を安全に運ぶため、我が国で最新鋭の馬車を持参しました」
「また最新鋭なのかぁ、至れり尽くせりですね!」
やっぱり警戒してるんだね。〝安全に〟ってことを言うくらいだから、もしもこの国の馬車を借りたら何かあったかもしれないってことだよね。
でも複雑だなぁ。お姉様が狙われるなら一応筋が通るんだよね、王族だから。だけど今回狙われてるのはわたしなんだよねぇ。ちょっとモヤモヤしちゃうなぁ。
馬車に乗り込み宿へ向かってるけど、やっぱり最新鋭だけあってすごいね。揺れないし外の音も聞こえないし、さらに車内は空調も効いていて快適とか、ほんとすごいわ。
「ねーねーお姉様、今日泊る宿ってどういう感じなんですか?」
「今日はユキちゃんたちの家みたいな木造で畳なんかもある宿だよ~。一番の売りは大きなお風呂、もちろん温泉で景色のいい露天風呂だよ!」
「おぉー温泉とかすっごい楽しみ」
護衛も居ないのでお姉様はいつもの感じだね。そしてさっきまでの反動からわたしを抱えるという徹底ぶり。
それにしても温泉があるのはうれしいね。この国の温泉はうちのお風呂(当然源泉掛け流しの温泉)とどう違うのか、今から楽しみです!
「そうそう、可愛いユキちゃんにお姉ちゃんからのお願い」
「なんでしょ?」
お姉様が少し真面目な感じで言ってきたね。
「外では尻尾を2本隠しておいてね。起きている時だけでなく、寝る時でも絶対に3本出しちゃダメだよ。私やサユリ様が大丈夫って言わない限り出しちゃダメだよ」
「は~い」
やっぱ3本って相当目立つのね。ってことはカイルのヤツも目立ってたのかな? あいつも2本だったし。
あれ? そういえばカイルってしばらくうちに来てないけど、まさか……。
いやいや、いくらあいつの本国がここだからって、そんなお披露目に招待されてるなんてこと……ありそう。
「本当は毛色も変えた方がいいのだけれどねぇ」
「サユリ様、それは私が無理です。サユリ様と同じでこんなに綺麗な金色なのに、それを染めるとか我慢できません!」
おっと、わたし以上にお姉様の方が気にするようだね、わたしの髪を手ですきながら絶対に反対って感じの意思を示したよ。まぁ確かにお母様と同じ自慢の金色ではあるけど。
でも黒髪もちょっと憧れるんだよねぇ、似合うかどうか一度やってみたいかも。
馬車に揺られる(揺れてないけど)こと数分、目的の宿へついに到着。見た目は前世にあった和風の旅館って感じだね。
あれ? あそこに居るのは
「お兄様はっけーん!」
「ちょ、ユキ、いきなり飛び出して抱きつくなって。失敗して怪我したら危ないっていつも言ってるだろうに」
「いやぁ、見計らっていたようにシズクさんがドアを開けてくれて、お姉様も背中を押してくれたのでつい」
この国の偉い人と調整するために先に来ていたお兄様を発見したので、いつもの癖で飛びついちゃったよ。そしていつも通り、そのままなでなでされるわたし。うん、お兄様のなでなでもいいですなぁ、ふにゃぁ。
でも残念だなぁ、ここにお父様が居れば完璧だったのに。お仕事があるのでしょうがないのはわかってるけど。
「あらあら、リョウ君を見たら飛びついちゃうなんて、元気のいいこと」
「長旅お疲れ様でした母上、王女殿下」
「ぶー、またリョウ様はそう堅くなって」
「あのですね、私の後方を見ていただければご納得いただけるかと」
お姉様は不満たらたらっぽいけど、えっと後ろは、うん、他のお客さんいっぱいだね。はは~ん、相変わらずだなぁお兄様。もう公然の仲なのに、まだ恥ずかしいんですね!
「ユキ、たぶんお前が思ってる事はちょっとズレてるぞ……」
「うそん?」
「たぶん俺が恥ずかしいとかそんなんだろ」
「でも事実でしょ?」
「むっ、ま、まぁ、それは置いといてだな」
おっとはぐらかしてきましたよこのイケメン、完全に目も逸らしたよ。
まったく、わたしよりも1000歳以上年上なんだから、もっとしっかりしてほしいわー。
「なんかけなされた気がするんだが?」
「気のせいですよー」
「まぁいいか。えっとだな、後ろにはこの国以外の貴族もいるんだ。そんな貴族の前で普段の様に親しく接していたらどうなるか、わかるだろ?」
あーなるほどね。うちの国以外の貴族がいるのを気にしたわけだね。お姉様も納得したみたい。そっかー
「イチャイチャしてたら他国の貴族の嫉妬を買うからですね! たしかに、醜い嫉妬はうざいですよね」
「ユキ、それまったく違うから」
「えー?」
おかしい、絶対嫉妬だと思ってたのに。お姉様もそうおも、え? 違う?
あれ? お母様も苦笑いでシズクさんは頭抱え、アリサも呆れてるよ。どういうこと?
「あーうん、お前のそういうところは可愛い所でもあるからそのままでいいが、今回は全く違うわけだ」
「んー、あっ! 人前なのにだらしないみたいな悪い評判を流されるとかですか?」
「そんなとこだ。さらに根も葉もない噂が付く可能性もある。他国の貴族ってのは自国の為にはなんだってやるのも多いからな。お前だって大好きな王女殿下が悪いように言われたら嫌だろ?」
「なっとくです」
王族ってやっぱり大変なんだねぇ。身の振り方ひとつで国の評判にかかわるとか、わたしだったら無理だなぁ。去年結構やらかしたくらい不安定だし……。
「では部屋へご案内いたします。護衛の兵士たちはすでに配置済みですのでご安心ください」
「お兄様に質問!」
ビシッと手を挙げって、なんだろ、周りの客からの視線がなんか気持ち悪い。
「あーユキ、ここではできるだけ抑えた方がいいぞ。どこで漏れたかわからないが、この宿に泊まることが貴族連中に知れ渡ってる。ここに居る他国の貴族、あいつらもお前を狙っているようだから気を付けておけ」
「は~い。えっと、それで部屋ってみんなで一つの部屋ですか?」
「そうだぞ。まぁ俺は護衛の意味もあるから隣の部屋になるが」
あら、お兄様は別の部屋ですか。ほかの貴族もいるから配慮してなのかな? となるとこっそり布団に潜り込むというイタズラもやめたほうがよさそうね。
あ、顔に出ていたのかジト目で見られちゃった。大丈夫です、考えただけでやりませんよ? たぶん。
「ねぇリョウ君、護衛ってことは何かあったのかしら?」
おや、お母様が真剣な眼差しでお兄様に聞いてますね。お兄様もさっきから結構真面目だし、なにかあったのかな。
「実は、黒竜の関係者が魔物を操ってスタンピードを起こす可能性が出てきました」
いやいやスタンピードを起こすって、物騒すぎるんですが! なんでそんな危ないことをするのやら。
ほんと厄介な一族だなぁ。




