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38話 なんか不穏な空気っぽい

 季節は夏の始まり、セミがみんみん鳴きだすのもそろそろかな。


 ただ正直セミってちょっと苦手なんだよねぇ。

 この世界のセミ、なんであんなでかいのまでいるんだよ……。おかしいでしょ、10メートル越えとか。

 しかもそれを捕まえて食べるとか、わたしは無理。大きさと見た目で軽くトラウマになったよ……。そのせいで普通サイズのセミもちょっと怖い。


「ねぇアリサ、セミを絶滅させる方法知らない?」

「いきなりどうしたんですか? 残念ながら私も知らないです」

「そっかー。はぁ、今回の夏は遭遇しませんよーに」

「何か深刻ですね。はい、こちらは終わりましたので反対側になってください」

「は~い」


 夏の天敵を思い出し項垂れていたら、片側の耳掃除が終わってたわ。

 最初のころは膝枕してもらうだけでもあたふただったのに、いまじゃすっかり見違え……顔赤いね。


 う~ん、このピュアな乙女っぽいのをそのままにするか、赤くならないよう克服させるか悩みどころ。

 ピュアな可愛さを取るか、メイドとしての完璧さをとるか。いや、ここはピュアな可愛さのままメイドとしても完璧にする、やっぱこれだね!

 って、それじゃ今と変わらないね。まぁいっか。


「そういえばお嬢様、今日は午後からリョウ様とシエラ様が来られるそうですよ」

「お兄様とお姉様、今日帰ってくるんだ。あれ? 先月の話だと少し忙しいから次は来月って言ってたけど」

「タツミ様とサユリ様に御用があるそうです。私もシズク様から聞いた範囲でしかわかりませんが」


 お兄様は王都でお姉様の家庭教師と専属従者、それと外交関係の仕事をしてる。

 お姉様は王女としての務めをしてるけど、最近はお兄様と一緒の仕事もしてるから、外国関係の問題かしら。


 う~ん、仕事じゃ遊んでもらえないなぁ。せっかく会えるのに。





 しかしわたしは遊べなくともお出迎えはするのです。


 午後、お出迎えの為に併設してある王都との転移門の前に着たけど、なんかいつもと雰囲気が違うかな? お父様もお母様もすこしピリッとしてるし、いつもならメイドさんと執事さん大勢なのに、居るのはシズクさんだけだわ。

 もしかして、わたしとアリサって実は来ちゃダメなタイミングだった?


「ねーねーお母様、もしかして、わたしたちは居たらまずいです?」

「だいじょうぶよ~。ただ、リョウ君とシエラちゃんとのお話の内容は秘密にしておいてね」

「秘密ということは、もしかしてすぐに帰っちゃうんですか?」

「そうなの。ちゃんと帰ってこれるのは来月かしら」


 来月まで待てないってことは、これはそうとう緊急な要件みたいだね。


 う~ん、ぱっと思いつく事件はここ最近ない。それこそ国家や王家に関係する事件はもっとない。

 思い当たるのは去年の拉致事件くらいかなぁ。となると神聖王国の奴らが復讐しようとしてるとか、戦争を仕掛けようとしてるとか?


「おや、難しい顔をしていますね」


 そう言いながら、お父様が頭をなでてくれます。このなでなではたまらない、ふにゃぁ。


「心配しなくても大丈夫ですよ。今回のはくだらない親の意地のとばっちり、とでも言いましょうか」

「どういうことなんです?」

「そうですね、サユリさんが天魔という進化した存在の中で最強と言われるのは知っていますよね」

「はい、ばっちりと!」


 ビシッと手をあげて元気よく。大人になってもやりそうだなぁ、この癖。


「そのサユリさんに何とか対抗できるのが私、ユキさんはそんな二人の娘なわけです。となると他の者はこう思うのです『親に続いて娘まで最強と呼ばれる存在になるのか』とね」

「あー、もしかして嫉妬とかですか? お父様とお母様が最強言われるのは諦めた。でも息子どころか娘までそうなるのは我慢できない、みたいな」


 自分で言うのもあれだけど、ほんとわたしって恵まれすぎてるからなぁ。

 お母様要素だけでも相当なのに、術操作や結界構築、ヒトガタ使役といったお父様の得意な部分も色濃く受け継いじゃってるからねぇ。


「その通りです。ユキさんやリョウ君と同年代の子を持つ一部の親が『自分の子こそが次代最強の天魔である』と考えているわけです」

「ほえー、ほんとくだらないです。最強とかって自分じゃなくて周りが勝手に言うだけなのに」


 自分から『我こそは最強』とか言い出す奴ってたいてい雑魚だし、気にしすぎる奴も総じて雑魚。

 だけどこの世界にはそういった奴が腐るほどいるからなぁ……他国限定で。


「ほんとにねぇ。それにそういう親の子供ってあまり修行してないのよね。天才だからとか言って努力も何もしないのが多いの。でもユキちゃんは才能とか関係なく、それに『言われたから』ではなく『自分から』頑張ってる。ほんと私たちの娘は良い子に育ってくれてうれしいわぁ」


 そう言って今度はお母様になでなでされます。どうしてなでなでってこんなに気持ちいいんだろうねぇ、はふぅ。

 わたし調べのなでなでのうまさランキングでは、

 1位、お母様

 2位、お姉様

 3位、お父様とママ様

 4位、シズクさんとパパ様

 5位に最近アリサが急浮上、お兄様抜いちゃったよ。すごいよアリサ。





 しばらく待っていたら、ついに転移門が反応。そろそろ来るみたいだね。


「王女殿下、足元にお気を付けください」

「もーリョウ様ったらそんなよそよそしく、転移しちゃえば誰にも見られないのに」

「あの、今回は私たちだけではなく護衛もいますので……」


 おっとー、最初からお姉様ぶっ飛ばしてますね。お兄様が完全に振り回されてる、楽しそうだなー。

 というか護衛の人も来るんだ、これは普段の帰宅と違って公式の訪問ってことになるのかな。


「ぶー、けちー。おほん、タツミ様、サユリ様、ご無沙汰しております。やっほーユキちゃん」

「やっほーお姉様」

「父上、母上、お久しぶりです。それにユキもきたのか、久しぶりだな」

「おひさーですお兄様。相変わらずお姉様とラブラブですね!」

「おまっ、他も居るからそういうのはやめてくれ」


 お兄様のクールなイケメンモードをどうやって崩そうかいつも悪だくみする、そんな小悪魔な妹がわたしなのです。

 なによりラブラブって言われてお姉様も喜んでるし、良いことだと思うんだ! それに護衛の人だって二人の関係わかってるから、そこまで気にしなくてもいいのにー。


「はいはい、あまりリョウ君を困らせないの。さてシエラちゃん、今日は何か重大な要件って聞いてたのだけど」

「そうなのですサユリ様。2件ありまして、1件は先日お伝えした要件の新たな情報です。問題はもう1件、結界に関することになります」


 わたしたちの住んでるこの国には転移での侵入や逃走を防いだり、殲滅魔法や呪いといった危険な攻撃をはねのける強力な結界が常時展開している。その結界の問題とか、結構とんでもない事態だね。


「国民の安全に直接影響するため、早急に対策が必要です。こちらはリョウ様からタツミ様へご報告いたします」

「ほほう、結界ですか。リョウ君、軽くここで説明してくれませんか。細かい話をする前にサユリさんにも情報共有した方がいいので」


 な、なんかすごい真面目な話になってるんだけど。お父様もお母様も、お姉様までさっきと打って変わって真面目な感じ。本当にわたしってここに居ていいのかな?


「そうですね。父上、俺も確認したので間違いないのですが、どうやら傭兵帝国がこの国へ転移して攻め込もうとしています」


 はい、ヤバイ事態なの確定。傭兵帝国が出てくるだけで、ぜーーーーーーーったいにろくでもないことになるよ。

 案の定、傭兵帝国ってお兄様が言ったとたん、さらにピリッとした空気になったわ。


「ほう、ということは昨年あったダンジョンへの転移門も」

「傭兵帝国が開発した物でした。どの種族かはわかりませんが、父上たちに匹敵する頭脳を持った者が協力者にいるようです。そしてダンジョンへの転移門はただの実験、本番はこの国への転移門の持ち込みと転移にあります」


 ダンジョンへの転移門設置で正常に機能するか事前に調べてたってことか。行き当たりばったりじゃないところとか、ほんと危険だねぇ。


「なるほど、それは厄介ですね。いつかは破られると思っていましたが、僅か1000年で破られるとは」

「正確には1017年ですね。俺が生まれた年に改良された結界ですから」


 1000年持ったのはすごいと思うけど、お父様の中だと違うようだね。結構悔しそうな感じだわ。


 そういえば今更だけど、わたしとお兄様って1012歳差あるんだよねぇ。長命種だとこういう単位が普通に出てくるのがすごい。


 お兄様はお父様と同じ天魔人で黒髪黒目という、お父様要素を強く受け継いでいる。でもお母様の要素もしっかり受け継いでいるから、魔力も精霊力もすっごく高い。

 さらに不老不死に目覚めているので、外見はいつまでも20歳くらいのイケメンという、妹としては結構自慢できる兄なのが良い。


「少し急ぐ必要がありますね。サユリさん、シエラさん、私とリョウ君はこれから結界塔に向かいますので、あとはお願いします」

「わかったわ。リョウ君、お父さんを助けてあげるのよ」

「もちろんです母上。それでは父上、行きましょう」


 二人が結界塔に行くけど、護衛の人はついていかないんだね。結界塔に入れる権限無い人たちなのかな? 国家機密の場所だからしょうがないけど。


 でもこうなると残りのもう1件もとんでもないことなのかなぁ。

 どうかわたしは関係ないことでありますよーに。

昆虫食も普通にある世界です

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